マーケットでは、正しい情報を持っている人が必ず勝つわけではありません。むしろ、多くの人が同じ方向を向いているときほど、相場は逆方向へ動くことがあります。その背景にあるのが「ポジション」の偏りです。株や為替の世界で繰り返し見られるこの現象を読み解いてみましょう。書籍『 インフレ・円安・バラマキ・国富流出 』(佐々木融著、日本経済新聞出版)から抜粋。

マーケットは大勢が困る方に動きがちだ(写真:Haru Works/stock.adobe.com)
マーケットは大勢が困る方に動きがちだ(写真:Haru Works/stock.adobe.com)
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大勢が同じ方向を見ると、相場は逆に動きやすい

 マーケットには、人の心理や行動が複雑に影響します。その中でも興味深く、かつ重要な法則は「マーケットは大勢が困る方に動く」という現象です。

 為替の世界の例を使って説明しましょう。企業は実際の貿易取引を通じて、為替市場で大量の外貨を売買します。そのため、貿易構造の変化は相場の方向にも影響します。以前、日本は貿易黒字国でした。つまり、輸出額の方が輸入額より多かったわけです。

 その結果、日本企業による「外貨売り・円買い」額が増えるので、円相場は円高方向に動きやすくなります。つまり大勢(輸出企業)が困る方向に動きます。今の日本は貿易赤字国です。輸入額の方が輸出額より多くなっています。その結果、日本企業による「外貨買い・円売り」額が増えるので、円相場は円安方向に動きやすくなります。つまり大勢側である輸入企業が困る方向に動くのです。

株価は、多くの人が動いて欲しいと思う方向とは逆に動く

 これと同じように、短期的なマーケットの動きを理解するためにも「ポジション」という言葉を覚える必要があります。マーケットではよく「ポジションを取る」「ポジションを解消する」などという言い方をします。簡単に言えば「自分がどちらの方向にかけているか」を表す言葉です。

 たとえばどこかの会社の株価が上昇すると思った時、あなたはその会社の株を買いますよね。この状態を「買いポジション(ロングポジション)」といいます。逆に「株価は下がるだろう」と思って株を空売りした時は「売りポジション(ショートポジション)」を持っている状態です。

 さて、世の中の相当多くの人がある会社の株の「買いポジション(ロングポジション)」を持っていて、それなりに株価も上昇していたとしましょう。その会社の株価は今後、さらに上昇する可能性が高いでしょうか。それとも下落する可能性が高いでしょうか。答えはおそらく後者、下落する可能性の方が高いです。その会社の株価が上昇すると考える人の多くはすでに「買いポジション(ロングポジション)」を持っています(簡単に言えば、すでにその会社の株を買っています)。

 極端な言い方をすれば、もうその会社の株を買いたいと思っている人はいません。そして、すでに「買いポジション(ロングポジション)」を持っている人は、さらに株価が上昇して欲しいと思っていますが、一方でどこかで売却して利益を確定したいと考えています。そんな時に株価が何かをきっかけに少し大きめに下落をしたら、「買いポジション(ロングポジション)」を持っている人は、なるべく早く利益を確定させようとして慌てて株を売り始めます。

 つまり、株価は多くの人が動いて欲しいと思う方向とは逆に動く可能性が高いのです。だからマーケット参加者はポジションがどちらに傾いているかを気にします。それは皆が自分と同じことを考えていて欲しいと思っているからではなく、むしろその逆です。

JPモルガン時代に気付いた経験則

 私はJPモルガンに勤務していた際、頻繁にニューヨークやロンドン、シンガポールなどに出張し、現地のヘッジファンドなどの機関投資家に円相場の見通しを説明しに行きました。1週間で20以上の投資家とミーティングをするのですが、その際、私の見通しに多くの顧客が賛成すると、日本に戻ってきた後、逆の動きになることがよくありました。むしろ、多くの顧客が私の見方に反対で、かなりの反論を受けてボロボロになって帰国すると、私の見通し通りに円相場が動く、ということがよくありました。

 マーケットは多くの人たちが同じ方向を見ている時はすでにポジションが積み上がっているので、逆に動きやすいのです。マーケットにおける多数派は必ずしも正解ではなく、むしろその逆になることの方が多いということです。

為替の第一人者が、円安の根本原因を解き明かし、今後起こりうるシナリオと防衛策を提示する。静かに進行する危機の本質を把握し、インフレの時勢を生き抜くための一冊。

佐々木融/日本経済新聞出版/1100円(税込み)