「この話に知識も興味もない」という相手に説明をすることになってしまった。そんなときにおすすめしたいのが「欠如アピール」の話法。相手に「不足」があることを知らせ、それを埋めることをアピールするのだ。元・駿台予備学校人気日本一のカリスマ講師、犬塚壮志氏が1000人以上の説明を分析して見いだした「説明の型」をフレーズと共に解説。日経ビジネス人文庫『「よい説明」には型がある。』から抜粋・再構成してお届けする。
「足りていない」と「埋めたくなる」
1つ目は、情報の正確性を判断する批判的思考力、2つ目はデータをもとに決断する意思決定力。2つともすでに皆さんが学ばれているものです。
そして、最後の1つをこのあと紹介します」
このように伝えられると、最後の「力」が気にならないでしょうか?
実は、ヒトは「足りていない」と気づいたときに、「埋めなければ……!!」という強い感情が初めて湧くのです。
冒頭の最後の1つの力は、新しいテクノロジーや知識を迅速に習得し、適応し続けるための「継続的学習力」が該当します。
批判的思考力や意思決定力をすでに知っていたり学んでいたりすることを前提にして、何の前振りもなく、「継続的学習力」を以下のように紹介しても、相手は聞き流してしまうこともあり得ます。
つまり、現時点で、「あなたには足りていないものがある」という欠如を説明の前段に入れることで、聞き手の知りたい欲求をかき立てることができるのです。
私はこうしたヒトの心理原則を利用して、1つの説明の型にしました。それを「欠如アピールの型」と名付け、今回はこの型の具体的な使い方や、当てはめるだけですぐに使える「即効フレーズ」などを紹介していきます。
未知の情報が自分ごと化するステップ
この「欠如アピールの型」は、とてつもなくパワフルで、聞き手にとって未知の情報ですら、一気に自分ごと化させ、場合によっては、説明の内容を短期間で相手に習得させることもできます。
「欠如アピール」は次のようなステップを踏むことで、効果を最大限に発揮できます。
[ステップ1]「不足」に気づいてもらうために、全体の枠組みを示す
[ステップ2]その「不足」を、話し手は補うことができると伝える
[ステップ3]「不足」を埋める情報や知識を伝える
たとえば、以下のようなフレーズに当てはめながら使ってみるとよいでしょう。
「ですので、今からその最後の1つをお伝えします」[ステップ2]
「その1つというのが、……」[ステップ3]
大切なのは、ステップ1で「全部で3つある」といった枠組みをまず先に示すことです。
全体の枠組みを示しておかないと、そのあとのステップ2で話し手がその不足を補えることを伝えたときに、聞き手は自分が「知らない」ことには気づくことができても、それが「満たされていない」ことには気づくことができないのです。
この2つのステップをきちんと踏むことにより、聞き手は自身の情報や知識が不足している状態であることを初めて理解できるのです。
最後のステップ3は、ステップ2で気づかせた聞き手の「不足」を埋める情報や知識を説明していきます。この「不足」を埋める情報や知識が聞き手にとって未知のものであればあるほど、その後の説明のインパクトは強くなります。
この手順を踏むことで、欠けていた最後の1つを手に入れられ、そのパズルのピースがバチッとハマるような感覚を聞き手に持たせることができるのです。
なお、この欠如をアピールする3ステップを進めるコツは、急がない、慌てないことです。聞き手をじっくり焦らす感じにすると、より効果的です。
真面目で勉強家ほど「欠如」に弱い
先にもお話ししたように、この「欠如アピールの型」は、パズルの最後の1ピースを埋める瞬間に似た快感を聞き手に与えることができます。
単にパズルのピースを1つ与えるよりも、そのパズルのピースが「最後の1つ」であるということを、あらかじめ聞き手に理解させておくことで大きな効果を発揮します。
そのピースの価値が跳ね上がって、そのピースをはめた瞬間に聞き手のワクワク感はピークに達するのです。
なお、この型は、「揃(そろ)えたい」というある種のコンプリート願望が強い聞き手ほど、より大きな効果を発揮します。
たとえば、勉強や自己投資のためにと、新刊を中心にたくさん本を買って、「積ん読」してしまう方。こういった方は、新しい本が出たら、「その情報は自分にとって知らないもののはずだ。手に入れておかないとマズい!」と思ってとにかく本を買ってしまう。特にシリーズものだと買い揃えておかないと、なんだか落ち着かない。
そういった真面目で勉強家の方ほどコンプリート願望が強く、この「欠如アピールの型」は効きます。
つまり、「欠如アピールの型」は、表現によっては、「恐怖訴求」のテクニックとも捉えられます。「恐怖訴求」とは、不安や恐怖を刺激して聞き手の関心を引いた上で、その軽減策や解決策を提示するものです。
たとえば、情報商材系のビジネスの営業トークを例にしましょう。
「今のままであれば成功をつかむことは決してできません。なぜなら、皆さんにはまだ足りないものがあるからです。そして、皆さんが成功するために足りない残りのものすべては、この教材の中に揃えてあります」
このように、「足りていないものがあるから成功できない → 足りていないものは自分(話し手)がすべて持っている → だからそれを買ってください」というロジックで、聞き手の購買意欲を高めるのです。
この型は「足りていない」ことに対する恐怖心を意図的に煽(あお)ることができるわけです。
そのため、場合によっては、聞き手は冷静な判断ができなくなることもあります。
だからこそ、この型は悪用厳禁です。
ここでお伝えしたいのは、この型を使って煽ることの是非ではなく、たとえ煽ったとしても、扇動した先に、聞き手にとって役立つネタが用意されているかどうかが大事だということです。
聞き手のためになるネタがないのなら、相手からお金を巻き上げるだけのセミナーや悪徳サイトのようになってしまうからです。
ぜひ聞き手をより良い方向に導くためにこの型を使ってみてください。
犬塚壮志著/日本経済新聞出版/935円(税込み)

