スマートフォンから自動車、兵器、人工知能(AI)に至るまで、あらゆる技術革新の中核を担う半導体。産業界に限らず、株式市場や国際政治においても半導体の重要性は高まり続けています。ビジネスパーソンや投資家、政策担当者が身につけておきたい半導体産業の基礎知識から2026年現在の企業間、国家間競争の最前線までを描いた書籍『半導体覇権 国家に翻弄される巨大企業』(日本経済新聞社編/日本経済新聞出版)から一部を抜粋・再構成してお届けします。今回は「台湾積体電路製造(TSMC)が台湾に先端工場を建て続ける理由」についてです。

世界市場の7割を握るTSMC

 台北市から台湾新幹線(高鉄)で南へ1時間半。大航海時代にオランダ人が中継貿易の拠点とした古都・台南は、わずか数年間で先端半導体を世界に供給する一大生産拠点に変貌した。

 台南駅を降りて北へ向かうと、半導体の世界大手、台湾積体電路製造(TSMC)が2019年に稼働を始めた最新鋭の量産工場「Fab(ファブ)18」が巨大な姿を現す。東京ドームおよそ20個分の敷地に8つの巨大工場棟がひしめく。

 Fab18は総投資額が1兆8600億台湾ドル(約9兆3000億円)を超え、1万人以上が働くTSMC最大の生産基地だ。電子機器の頭脳となる「ロジック半導体」のうち、回路線幅が3〜5ナノ(ナノは10億分の1)メートルの最先端品の生産を担う。

 アップルのスマートフォン「iPhone」のプロセッサーや、米国のテック大手が争奪戦を繰り広げるエヌビディアの人工知能(AI)半導体「ブラックウェル」など、社会を支える最先端半導体の多くが、ここ台南から世界に供給されてきた。

 TSMCは半導体受託生産(ファウンドリー)の専業企業だ。世界市場で7割のシェアを握り、特に精緻な加工技術を必要とする先端半導体の性能や歩留まり(良品率)で米韓中の競合を圧倒する。

 受託専業ならではの顧客との密接な協力関係も強みだ。エヌビディアとは1990年代から連携し、AI時代の躍進に結実した。エヌビディアのジェンスン・ファン最高経営責任者(CEO)は「TSMCは信じられないほど素晴らしい。四半世紀以上にわたって協業し、お互いのリズムを知っている」と話す。

 偶然か、あるいは運命と言うべきか。エヌビディアのファンCEOや、エヌビディアとはライバル関係でTSMCの大口顧客でもある米アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)のリサ・スーCEOはともに台南にルーツを持つ台湾系の経営者だ。

揺るがない台湾の優位性

 AIブームを背景に世界から舞い込む製造委託の注文に答えるため、TSMCの先端工場投資は台湾全土に及ぶ。2025年から量産する回路線幅2ナノの次世代半導体は、本社のある北部・新竹と南部・高雄の2拠点体制だ。さらに次世代の1.4ナノ品は28年の量産開始を予定し、工場の立地は中部・台中となる。

 25年3月には高雄の2ナノ工場の上棟式が開かれた。同工場の総投資額は7兆円規模となる。TSMCで生産戦略を担う秦永沛・共同最高執行責任者(COO)は式典で「関係機関と緊密に協議し、台湾投資を拡大し続ける」と力強くあいさつした。

 TSMCは各国・地域の誘致に応じて米日独への工場投資を本格化している。一部で台湾の空洞化を危ぶむ声があるものの、TSMCは周囲の懸念を一貫して否定してきた。半導体生産に必要なサプライチェーンや技術人材の厚み、さらに研究開発拠点が近距離にそろう台湾の利点は、他の国・地域では代替できないためだ。

 台湾調査会社トレンドフォースはTSMCの生産能力について、35年時点でもなお台湾が8割を占めると予測する。各国・地域の政府が補助金で半導体産業を誘致しても、TSMCが本拠を置く台湾の優位性は簡単には揺るがない。

先端半導体を生産するTSMC台南工場(写真:筆者撮影)
先端半導体を生産するTSMC台南工場(写真:筆者撮影)

(第7回に続く)

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日本経済新聞社編/日本経済新聞出版/2200円(税込み)