スマートフォンから自動車、兵器、人工知能(AI)に至るまで、あらゆる技術革新の中核を担う半導体。産業界に限らず、株式市場や国際政治においても半導体の重要性は高まり続けています。ビジネスパーソンや投資家、政策担当者が身につけておきたい半導体産業の基礎知識から2026年現在の企業間、国家間競争の最前線までを描いた書籍『半導体覇権 国家に翻弄される巨大企業』(日本経済新聞社編/日本経済新聞出版)から一部を抜粋・再構成してお届けします。今回は「財務データから読み解く台湾積体電路製造(TSMC)の強さの秘訣」についてです。

時価総額1兆ドル超えの強さの秘訣

 2025年7月、台湾株式市場では台湾積体電路製造(TSMC)の時価総額が米ドル換算で1兆ドル(約150兆円)を突破した。アジア企業としては中国石油天然気(ペトロチャイナ)が07年に一時的に達成して以来18年ぶりという。その強さを財務関連データで詳しくみてみたい。

 100兆円規模となった世界の半導体市場のうち、TSMCが生産を手掛ける「ロジック半導体」はおよそ4割を占める。電子機器の頭脳を担うロジック半導体は設計の複雑性が高いことから、設計に特化する「ファブレス」と製造を担う「ファウンドリー」の分業モデルが主流となっている。

 このファウンドリーモデルを生み、育て、半導体産業の構造を塗り替えたのがTSMCだ。足元ではその競争力に一段と磨きがかかる。

 台湾調査会社のトレンドフォースによると、25年4~6月には過去最高のシェア70.2%に達した。ファウンドリー事業の苦戦が続く2位の韓国サムスン電子(7.3%)などに大差をつけている。特に先端半導体における性能と歩留まりの高さで競合を圧倒している。

 AI向けの先端半導体需要を一手に取り込んだ24年12月期、TSMCの売上高は23年比33.9%増の2兆8943億台湾ドル(約14兆円)、純利益は39.9%増の1兆1732億台湾ドルに達した。スマートフォンやパソコン向け半導体などの市況悪化で減収減益となった23年から一転、売上高・純利益とも過去最高を更新した。

経営理論に忠実、激動の半導体産業で実現

 TSMCの技術世代別の売上高構成を詳しく見ると、収益性の高い先端半導体技術が次々と立ち上がって成長を支える様子がうかがえる。

 24年12月期の売上高のうち、20年に量産を始めた「5ナノ品」、22年末に量産開始した「3ナノ品」が早くもそれぞれ34%、18%を占め、あわせて過半となった。

 台湾シンクタンク大手の資訊工業策進会産業情報研究所(MIC)によると、3ナノ品の一般的な受託単価は直径300ミリメートルのウエハー1枚当たり2万ドル超と、10〜20ナノ品の3倍以上になる。

 25年にはより高額な2ナノ品の量産が始まり、需要は3ナノ品をさらに上回る見通しだ。TSMCは29年にかけて売上高の年平均成長率(CAGR)を約20%と予測している。

 米アップルや米エヌビディアなど向けの先端品にばかり脚光が当たるものの、量産から5年以上たった旧世代品も営業利益率で4割超というTSMCの高収益を支える。1台数百億円といった高価なものもある半導体製造装置の減価償却期間は一般的に5年間。

 減価償却を終えた旧式ラインでは設備投資の費用が抑えられるために収益性が高い。TSMCの急拡大期にあたる10年代に量産を始めた旧式ラインは長く同社の安定収益を支えてきた。

 近年のTSMCは最先端ラインをアップルとともに立ち上げてきた。年間2億台超を出荷するiPhone向けの演算半導体を大量受注することで巨額投資の回収プランを策定し、最先端の生産ラインの歩留まりを引き上げる。iPhoneのMPU(超小型演算処理装置)が次の世代に移行するタイミングでさらなる先端ラインを立ち上げ、既存ラインを別の顧客向けに割り当てる。

 スマートフォンやサーバー用の先端品だけでなく、自動車や産業機械向けの旧世代品も幅広く受託生産するTSMCだからこそ、10年単位の長期で生産ラインの投資回収サイクルを回す盤石な体制を築けている。

 売上高や利益と並び、TSMCの強さを示す財務指標が、お金の流れを示すキャッシュフロー(CF)だ。TSMCのCFを見ると、事業で稼いだ営業CFのプラスと投資CFによるマイナスがきれいに均衡し、財務規律を維持しながら安定的に事業を拡大していく様子がわかる。

(出所)TSMC決算資料
(出所)TSMC決算資料
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 本業で安定して利益を稼ぎ、手にしたキャッシュを元手に規律を持った投資を続ける。文字にすれば簡単な「教科書通り」の経営だが、市況がめまぐるしく変わる「シリコンサイクル」がある半導体業界で、実現し続けるのは至難の業だ。この美しいキャッシュフローの推移は、大胆な投資を成功につなげ続けたTSMCの航跡といえる。

TSMCの台湾内の半導体工場(写真:TSMC提供)
TSMCの台湾内の半導体工場(写真:TSMC提供)

(第8回に続く)

株式投資やビジネス判断に役立つ知識として、半導体産業を網羅的に把握したい人のための、日本と世界の行方を読む1冊。インテル、エヌビディア、TSMC、サムスンといった大手企業はもちろん、中国や日本、インドなどの動きも収録。

日本経済新聞社編/日本経済新聞出版/2200円(税込み)