貴金属スペシャリスト・池水雄一氏へのインタビュー2回目。前回は、なぜ金の価格が上がり続けているのかをメインにお話ししました。今回はこれから金への投資を始めるときに知っておきたい教養書について紹介します。特に衝撃を受けたのは橘玲さんの著作で、すっかりファンになったようです。
エネルギーが分かると、これからの世界が分かる
まずは『 エネルギーをめぐる旅――文明の歴史と私たちの未来 』(古舘恒介著、英治出版)を紹介します。
この本は火から始まり、農耕、森林、産業革命、電気、気候変動対策と、人とエネルギーの歴史をひもといています。この本が面白いのは、エネルギー問題だけではなく、教養書としても楽しめること。エネルギーの歴史をたどる記述はゾロアスター教(拝火教)の聖地であるアゼルバイジャンを訪れるところから始まります。
エネルギーは我々の生活の根底をなしているものですが、意外と「あって当たり前」というか、日頃は気に留めませんよね。しかし、この本を読むと、地球上に80億人超というこれだけ多くの人が住めるようになったのは「肥料」のおかげで、食料生産が圧倒的に増えたから──といったことも分かります。
著者の古舘恒介さんは1994年に日本石油(当時)に入社し、リテール販売から石油探鉱まで、さまざまな石油事業に関わってきたそうです。そのため博覧強記の内容で、「なぜ、人類はエネルギーを大量に消費するのか」「そもそもエネルギーとは何なのか」といった哲学的な問題についても考えさせられます。
もちろん、炭素から水素へ、石油から再生可能エネルギーへ、といった現在のエネルギー問題についても書かれており、日々変化するエネルギー問題の背景を理解するのにも役立ちます。本の帯にも書かれていますが、「資本主義、食料、気候変動……“エネルギー”がわかるとこれからの世界が見えてくる」1冊です。
大航海時代には発明されていた複利
私は新卒で商社の貴金属部門に配属されて以来、ずっと金投資のマーケットに携わってきました。しかし、実は簿記を勉強したことがなく、会計の知識に疎かったんです。そんなときアインシュタインが「複利は人類最大の発明」「宇宙で最も偉大な力」と言ったらしいと聞き、会計について学びたいと思って手に取ったのが『 会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカ――500年の物語 』(田中靖浩著、日本経済新聞出版)でした。
この本ではまさに、会計がどのようにつくられ、発展してきたのかが分かります。例えば、大航海時代に複式簿記が発明され、そのおかげで商船団を組み、スポンサーから多額の資金を集めることで、冒険ができました。財務諸表があるから会社を中立的に判断できるようにもなったし、やはり投資に会計の知識は必要なのだと実感しました。会計の専門書はたくさんありますが、会計を世界史的な観点から捉えた面白い1冊です。
宝くじを買うよりも、その3000円で本を買え
続いては橘玲さんの『 シンプルで合理的な人生設計 』(ダイヤモンド社)です。
私は20年ほど前に橘さんの『 お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方ーー知的人生設計入門 』(幻冬舎)を読んで、衝撃を受けました。
自分自身は金融に興味がなく、就活でも銀行などは受けませんでした。それが金融の知識もないのに、商社に入社したら貴金属部門に配属されてしまったのです。その後、『 お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方ーー知的人生設計入門 』を読み、「金利とはこういうことか」と改めて理解したのです。金利以上の利益を得ようとすると、どこかでリスクが生じる、ハイリスク・ハイリターンの仕組みが腑(ふ)に落ちました。
それ以来、ファンとして小説もビジネス書も読んでいるので、今の私があるのは橘さんのおかげとも言えます。
橘さんのすごさは人情や私情を挟まず、数値で合理的に物事を判断するというところ。例えば、橘さんの本を読むまで、私はジャンボ宝くじが出るたびに3000円ぐらい買っていました。しかし、宝くじの還元率は50%未満で、何億円も当たるような確率は自分が交通事故に遭って亡くなる確率よりも低い。「よく当たる」と評判の宝くじ売り場も、よく売れる=買う人が多いだけで、それだけ売れれば当たる人も増えるという確率論でしかありません。宝くじを「愚者にかけられた税金」だと説明されると買う気もなくなり、同じ3000円なら本を買って、自己投資するようになりました。
この『 シンプルで合理的な人生設計 』は、金融資本、人的資本、社会資本という3つの資本を取り上げ、そのうえで「合理的に生きることが成功につながる」と説いています。
ただ、この3つの資本はバランスが大切で、金融資本は持っているけれども友達がいないのは、寂しい。生まれたときから都会以外の場所に住み続けている人は地域のつながりという社会資本はあるけれども、金融資本、人的資本ができにくいかもしれない。どれかが足りなくても困るし、どれか1つだけというのも困る。「今の自分にとってはどんな資本が一番大事か」を考えさせられる1冊です。
今、私はウルトラマラソン(フルマラソンの42.195kmを超える距離を走るマラソン)を走り、毎日20km以上を走っています。ランニングクラブも主宰し、現在の登録人数は450人ほど。
彼らが私の出張に同行し、一緒に海外に行くこともあります。大人になって仕事以外の付き合いがあるのは、橘さんの本に感化された部分が大きいと言えます。
取材・文/三浦香代子 構成/細谷和彦(日経BOOKプラス編集) 写真/小野さやか


