バーガーキングの日本事業を運営するビーケージャパンホールディングスの全株式を、米金融大手のゴールドマン・サックスが約800億円で買収する予定だ。しかし、1993年の初出店から日本での経営は赤字続きで、バーガーキングは“外資系の失敗ブランド”の烙印を押されていた。そんな逆境を乗り越え、日本のバーガーキングを大きく育てた立役者であるビーケージャパンホールディングス代表取締役社長がつづった『バーガーキング流 逆襲のマーケティング UNDERDOG MARKETING』から一部再構成してお届けする。[日経クロストレンド 2026年2月16日付の記事を転載]
2025年11月、日本のファストフード業界、いや、飲食業界までも揺るがすビッグニュースが日経クロストレンド編集部に飛び込んできた。香港の投資ファンド、アフィニティ・エクイティ・パートナーズが、17年以来保有してきたバーガーキングの日本事業を運営するビーケージャパンホールディングス(BKジャパン)の全株式を、米金融大手のゴールドマン・サックスに売却することが判明したと、大手メディアがすっぱ抜いたのだ。
水面下で動いていた、M&A(合併・買収)の一幕が白日の下にさらされた瞬間だった。
記事では買収額が「700億円規模」と書かれていたが、実際は約800億円。破格の値が付いた。アフィニティは17年に十数億円で韓国ロッテグループから買収している。それが、8年間で50倍以上の高値につり上がったのだ。
これほどまでに日本のバーガーキングを大きく育てた立役者が、ビーケージャパンホールディングス代表取締役社⾧の野村一裕氏だ。野村氏によると、売却劇の幕が明けたのが25年6月。アフィニティが証券会社を通じて、秘密裏にバーガーキングの売却方針をファンドや事業会社に示し、当初は数十社が名乗りを上げたという。最終局面は3社によるデッドヒートが繰り広げられた。結果、争奪戦を制したのがゴールドマン・サックスだったのだ。
M&Aというと、日本では「乗っ取り」や「経営陣の総とっかえ」など、ネガティブなイメージをする傾向が強いかもしれない。野村氏の周辺からもゴールドマン買収の一報に対して祝福のメールが届く一方で、「経営陣が変えられるのではないか」と臆測し、あえて連絡を控えた人たちも多かったという。
だが、大半のM&Aは悪い話ではなく、むしろ、企業がステップアップする好機となる。今回の買収劇に関しても、野村氏は「いいことしかない」と断言する。今後はさらなるM&Aやその先のIPO(新規株式公開)も視野に入ってくる。それほどバーガーキングは階段を駆け上がる“シンデレラ・ストーリー”の真っただ中にあるのだ。
“外資系の失敗ブランド”からの復活劇
みなさんはバーガーキングにどんなイメージを持つだろうか。「最近、よくネットニュースで見るようになった」「X(旧Twitter)で話題が拡散しているのを目にする機会が多い」「自分が利用する駅の近くやモールに店ができた」という方もいれば、「飲食で使うようになった」「バーガーがめちゃおいしくてずっと前からファン」という方もいるかもしれない。
バーガーキングは米国生まれのハンバーガーのチェーン店だ。日本国内の店舗数は25年10月時点で300店を突破した。そのため、全国主要都市の街中でも見かける機会が増えているだろう。その存在感は、日本のハンバーガー業界、あるいは飲食業界で、年々高まっている。
「店の数は増えているけど、業績は大丈夫なのか?」と思われるかもしれない。だが、心配はご無用。ひと言でいって絶好調だ。19年から売上高は右肩上がりで、23年までのCAGR(年平均成長率)は30%以上を記録。客単価は19年比で約2倍に急伸している。
では、なぜこれほどもうかるようになったのか。それは、どの競合よりも分かりやすい戦略を立てて、一枚岩で実行してきたからだ。
もちろん、それは社長の野村氏だけの力ではない。バーガーキングを運営するBKジャパンに勤める社員やマネージャー、各店の店長や店員のがんばり、マーケティングに関わる外部メンバーの努力のたまものであることは間違いない。
だが、時代を巻き戻すと、全く違う素顔が見えてくる。時は19年5月。野村氏がマーケティングディレクターとして中途入社した月だ。当時のバーガーキングは1993年の初出店から既に30年近くが経過していたにもかかわらず、日本に来てからずっと赤字続きだった。日本を代表する企業からまた次の企業へと、フランチャイズ権の売却が繰り返されたが、一度も黒字にできていなかったといわれている。バーガーキングは“外資系の失敗ブランド”の烙印(らくいん)を押されていた。
だが、野村氏はその失敗ブランドを引き継いだ。赤字でうまくいっていなかったのは火を見るよりも明らか。しかし、いちるの望みがあった。野村氏が改めてバーガーキングのバーガーを食べてみると、他のバーガーチェーンと比べて圧倒的に「うまい!」と感じたからだ。
なぜ、これほどまでのおいしさという武器があるのに、日本でうまくいかないのか――。野村氏は「売り方が悪いからだ」と直感した。もし、話題になるような商品を出して、その価値が伝わるようなマーケティングを行えれば、このブランドは日本においても伸びる余地が十分にある。野村氏はその可能性に賭け、バーガーキングに自分のキャリアをささげる覚悟を決めた。
BK流マーケティング5カ条
野村氏は19年からの約6年間、「BK流マーケティング5カ条」を意識してマーケティングを行ってきた。具体的には以下の5つだ。
その1 お金がないなら知恵を出せ
その2 顧客に聞け
その3 いじられてナンボ
その4 膨らませろ、大きく見せろ
その5 戦略は論理でつなげろ
「お金がないなら知恵を出せ」を説明しよう。19年当時、バーガーキングはマーケティングに使える予算が乏しかった。それでも、何らかの手を打たなければならない。そこで立てた方針が「お金が出せないなら知恵を出せ」ということだ。現代はSNSが発達している。うまく活用すれば話題化して、広告と同じような効果を得られる。最小の予算で最大の広告効果を狙うことこそが、弱者のマーケティングの基本だ。
「お金がないからろくなマーケティングができない」と泣き言をいうより、常に「できることをまず考えよう」という姿勢で毎日、毎時間、毎分、毎秒を費やしてきた。頭を使えば、お金なんてかけなくても、ブランドを売り込むことはできるのだ。
読者のみなさんが売っている商品や展開しているブランドが、バーガーキングと同じように、赤字に陥っていたり、業績が悪かったり、あるいはいま一つ成長軌道を描けていないのであれば、もしかすると、上記の5カ条が参考になるかもしれない。
次回からは、バーガーキングが実施してきた具体的な施策を解説していく。
野村一裕(著)、日経BP、2200円(税込み)

