沼上幹・一橋大学名誉教授、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター研究院教授の著書、日経文庫『組織デザイン』は、機能する組織をつくるための発想と対策を解説し、2004年の刊行から約20年たった今も多くの読者に支持されてロングセラーとなっている。本書から抜粋・再構成してお届けする連載第2回は、組織形態の基本型である機能別組織、事業部制組織と、これら2つの中間形態であるマトリクス組織について解説する。

大きく2つに分けられる組織形態

 最も単純な組織形態(organization form)は、職能制組織あるいは機能別組織(functional structureあるいはform)である。経営学の領域では「職能制組織」という言葉が伝統的に用いられてきたが、近年では「機能別組織」という呼び方も一般化してきている。原語の“functional”の翻訳の仕方が変わっただけで、どちらも同じ意味である。個々のサブユニットが果たす“function”(機能)に応じて組織が分割されているものが機能別組織である。

 図1に見られるように、機能別組織は、まず研究開発・生産・販売という機能に分かれている。製品の生産を生産部門が担当し、その販売を販売部門が担当し、次世代製品の開発を研究開発部門が担当する、というように、全体に対して果たす機能に応じて分けられた組織である。たとえばいま、パソコンとAV(オーディオ・ヴィジュアル)製品、冷蔵庫等の白物家電製品を生産・販売している企業を思い浮かべてほしい。機能別組織の場合には、各機能部門がこれらすべての製品を担当している。研究開発部門は、パソコンの研究開発を行う部署とAV製品の研究開発を行う部署、白物家電製品の研究開発を行う部署等にさらに細分化される。

図1 機能別組織
図1 機能別組織
(出所)日経文庫『組織デザイン』
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 機能別に分けられているのだから、研究開発部門や生産部門、販売部門といった個々の組織ユニットはそれぞれ1つずつでは存続しえない。人間を心臓と腎臓に分けてしまえば、個々の臓器がそれだけでは存続しえないのと類似の現象である。

 これに対して、少なくとも短期的には個々の組織ユニットが自律的に存続できるように分割するのが事業部制組織(multi-divisional structureあるいはform)である。もともと軍事関係の領域ではdivisionを師団と訳す。師団とは、大隊や連隊とは異なり、自分たちだけで独立して戦争行動を遂行できるように工兵隊等の部隊も保有しているユニットである。同様に、ある程度の期間にわたって自律的に存続しうる、1つの小さな会社だといえるほどの機能を保有している組織ユニットが事業部なのである。なお、近年では事業部のことをBU(Business Unitの略で、ビー・ユーと読む)と呼ぶ会社も多い。

 BUと呼ぼうと、事業部と呼ぼうと、「ある程度の期間にわたって自律的に存続しうる1つの会社のようなもの」を指していることには変わりはない。そしてそのような自律的な組織ユニットへと全体を分割する場合には、多様な軸が考えられる。たとえば製品・市場分野別に全社を分割したり、地域別に全社を分割したりするという方法が典型例であろう。前者を製品別事業部制、後者を地域別事業部制という。

 ここでは、製品別事業部制を例として考えることにしよう。先のパソコンとAV製品、白物家電製品を生産・販売している企業が製品別事業部制を採用する場合、図2に見られるように、パソコン事業部とAV製品事業部と白物家電事業部という3つの事業部に全社を分割する。個々の事業部には、それぞれ研究開発・生産・販売という機能が備わっている。

図2 事業部制組織
図2 事業部制組織
(出所)日経文庫『組織デザイン』
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 たとえばパソコン事業部には、パソコンの研究開発を担う部門、パソコン生産を行っている部門、その販売を行っている部門が存在する。したがって事業部制を採用した場合、まず製品・市場別に組織が分割され、しかる後に機能部門別に組織が分割される。言い換えるなら、製品別事業部制とは、もともと大きかった機能別組織を、製品・市場別に小さな機能別組織へと分解したものなのである。

機能別組織と事業部制組織の違い

 機能別組織と事業部制組織のメリット・デメリットは、組織メンバーが何を共有し、何を重視して仕事をしていくことになるのかを考えれば容易に想像がつくはずである。たとえば機能別組織は製品・市場を共有するのではなく、まず何よりも研究開発や生産、販売といった機能を共有するように作られている。

 たとえば機能別組織の生産部門は、パソコンやAV製品や白物家電等、異なる製品を生産しつつ、同じ工場や生産設備を共有したり、同じ生産技術者等を共有したりしている。また研究開発部門であれば、パソコン事業部とAV製品事業部で制御ソフトの開発スタッフを共有していたり、すべての開発プロセスで同じインダストリアル・デザイナーを共有していたりする。それ故、個々の組織メンバーは同じ専門の人間と対話しながら、自分たちの専門を通じて会社に貢献することを最大のテーマとして仕事を進めていくことになる。

 これに対して、事業部制組織の場合には、まずメンバーが共有するのは個々の製品・市場である。生産設備の共有や開発スタッフの共有といった観点よりも、個々の製品・市場への適応が優先される。それ故、組織形態のねらい通りに組織メンバーが活動してくれるならば、各メンバーは、自分が研究開発担当であろうと、生産や販売担当であろうと、何よりもまず自分が担当している製品・市場での競争に最大の注意を向けるはずである。

組織の形態は、大きく分けて機能別組織、事業部制組織の2つに分けられる(NicoElNino/stock.adobe.com)
組織の形態は、大きく分けて機能別組織、事業部制組織の2つに分けられる(NicoElNino/stock.adobe.com)
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 このように考えれば、どのような場合に機能別組織を採用し、どのような場合に事業部制組織を採用するのか、という問いに対する最も単純な答えは簡単に出るはずである。すなわち、生産・開発・販売等の機能を集約することで得られるコストダウンや付加価値アップの効果よりも、個々の製品・市場への柔軟で迅速な適応によって得られる効果の方が大きければ、事業部制組織を採用すべきである。逆に、個々の機能をその内部で統合することから得られるメリットが大きく、製品・市場への柔軟で迅速な適応がそれほど重要でないのであれば、機能別組織を採用すべきである。

 もちろんここで説明した両者の相違点以外にも、両者の差を際立たせる要因はいくつかある。たとえば、事業部制組織では本社機構が中長期の戦略を策定し、個々の事業部が日常のオペレーションを担当するという分業が行われているとか、事業部制組織では個々の事業を担当する人材が研究開発・生産・販売まですべてに関して意思決定を行うので企業経営者の育成に向いているといった点が、主要なポイントである。

 それ故、短期の市場適応と中長期の経営戦略を分離する必要があるほど、また経営者人材を育成する必要が強いほど、事業部制を採用するのが適切になる。

 しかし、これらの多面的な議論はひとまず置いておいて、ここでは必要最低限の組織形態に関する知識を紹介することを優先することにしよう。それ故、「製品・市場への適応」と「機能統合によるメリット」の2つを秤にかけて、どちらが重要かに応じて事業部制が採用されたり、機能別組織が採用されたりする、という最も単純な点だけ頭に入れておいてほしい。

2つの軸を盛り込んだマトリクス組織

 さて、この点まで理解された後で次に問題になるのは、「製品・市場への適応」と「機能統合によるメリット」のどちらを優先すべきかという問いに対して簡単には答えが出ない場合にはどうすればよいのか、ということであろう。「製品・市場への適応」も「機能統合によるメリット」もどちらも高度に重要であり、意思決定のたびに、どちらを優先すべきかじっくり考えながら仕事を進める必要がある、という場合である。

 このような場合には、「製品・市場への適応」と「機能統合によるメリット」という2つの軸を両方盛り込んだ組織形態を作るという手がある。実際には様々な中間形態があるのだが、ここではその究極の典型例であるマトリクス組織(matrix organization form)を例に取り上げておこう。

 マトリクス組織は、組織を分割する際の「軸」そのものを複数にした組織である。図3の例でいえば、最高意思決定者のすぐ下に各事業部長を置くと同時に、各機能部門長をも置くのである。図中の○印の人々は、一方では個々の製品・市場への迅速かつ柔軟な対応を目指す事業部長の管轄下に置かれると共に、他方では開発・生産・販売といった各機能別の資源共有や専門知識蓄積を重視する機能部門長の管轄下にも置かれる。

図3 マトリクス組織
図3 マトリクス組織
(出所)日経文庫『組織デザイン』
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 大きな意思決定のたびに、製品・市場の要求と機能部門の要求が対立するかもしれない。この対立を実際に組織内で表出させ、そのたびにトップがどちらの軸を優先するか意思決定を行い、ダイナミックに2つの要求をバランスさせていくという意図をもってマトリクス組織は採用される。なお、図中の○印の人から見ると上司(ボス)が2人いるから、これをツーボス・システムと呼ぶこともある。

日経文庫『 組織デザイン
生産性の高い組織はこうしてつくる!

業務範囲、分担、監督の仕組み。組織改革、新組織がつまずくのは、これらをきっちりと考えていないからだ。分業の決め方、調整をスムーズにする様々な標準化など、機能する組織をつくるための発想と対策を解説。

沼上幹著/日本経済新聞出版/1045円(税込み)