沼上幹・一橋大学名誉教授、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター研究院教授の著書、日経文庫『組織デザイン』は、機能する組織をつくるための発想と対策を解説し、2004年の刊行から約20年たった今も多くの読者に支持されてロングセラーとなっている。本書から抜粋・再構成してお届けする連載第3回は、機能別組織と事業部制組織、マトリクス組織という3つの基本型から派生している一部事業部制、事業本部制、カンパニー制について解説する。
実際の組織は「中間形態」ばかり
前回「 組織の基本型は機能別、事業部制、その中間のマトリクス 」で説明した事業部制組織と機能別組織、マトリクス組織という3つの基本型は、頭の中だけに存在する「理想型」であって、世の中に実在する組織形態はこれらの「理想型」から多かれ少なかれ逸脱している。しかしこの3つの基本型さえ分かっていれば、現実の組織形態は、これらの基本型を出発点として理解することができる。
また、自分で組織を設計する場合にも、この3つの基本型と自分の組織をしっかり対比して捉えられていれば、そこに新しい工夫を追加したり、不必要な組織ユニットを排除したりするなどの作業を行うことで、新しい組織形態を生み出していくことが可能になる。実際、世の中に実在する組織は、そういった多様な工夫を加えた後の「中間形態」ばかりなのである。
たとえば日本企業に多いといわれている一部事業部制を考えてみよう。図1にその典型的な姿が描かれている。この図は、3つの点で純粋な理想型としての事業部制とは異なっている。
まず第一に、各事業部の研究開発部門のうち、より基礎研究に近く、全社の事業に潜在的に関係がある研究活動を基礎研究所にまとめ、それをCEO(最高経営責任者)に直属させている点である。基礎研究そのものを事業部から本社へ移しても、事業部そのものの製品開発活動が阻害されるということはないと思われるから、これ自体は事業部制そのものを大きく変えるものではない。
第二の変更点は、営業本部が置かれていることである。各事業部には販売機能を遂行する組織ユニットが存在しない。各事業部は製品の開発と生産と出荷業務を行うだけで、実際の販売活動やマーケティング活動はすべて営業本部が担う、ということを示す組織図である。
各事業部は本来の機能部門すべてを持たないので、日々のオペレーションに必要な機能をすべて保有する事業部の理想型からは大きく外れることになる。しかも営業本部が他の事業部と同列に置かれていることを考えれば、この会社では営業本部長が他の事業部長と同等の発言力をもっていると考えられる。純粋な事業部制から機能別組織へと一歩近づいた組織であることが、見て取れるはずである。
第三の変更点も、事業部制から機能別組織へと近づくものである。各事業部の生産部門と直結している工場に注目していただきたい。この会社には工場が2つしか存在せず、その一方(三島工場)にはパソコン事業部とAV製品事業部が混住している。同じ敷地、同じ建家で、同じ労働者が生産活動に従事しており、工場のどこからどこまでをパソコン事業部のものと定義し、どこからどこまでをAV製品事業部のものと定義するのかが分かりにくくなっている。
問題は分かりにくいという点にのみあるのではない。この種の一部事業部制を採用している企業では、工場に工場長というポストが置かれている場合が多い点も組織形態上は非常に重要である。というのも、この例における三島工場長はパソコン事業部の生産機能とAV製品事業部の生産機能の両方を掌握していることになり、各事業部の事業部長に肉薄する権限を保有している可能性があるからである。
ここまで検討してくると、図1の一部事業部制組織は、事業部制のような、機能別組織のような非常に奇妙なものに見えてくるはずである。全社の共通研究課題は基礎研究所長の管轄下にあり、販売機能は非常に強力な営業本部長が掌握しており、生産機能の重要な部分を三島工場長が握っている。各事業部は目先の製品開発と工場との調整機能のみを果たしているという状況かもしれない。
実際には各事業部長や営業本部長、研究所長、工場長の権限の大きさなどを具体的に調べないと明確に断言することはできないが、この図に表されている組織は、事業部制という名称を使ってはいるものの、機能別組織と事業部制組織の中間形態であるということは明らかであろう。
ここで強調したいのは、この種の現実的な中間形態が中途半端でダメな組織だということではない。そもそも機能別組織や製品別事業部制組織などを「理想型」と呼んでいるのは、それらが「理想の組織」だと美化するためではなく、頭の中にしか存在しないようなものだという意味を伝えたかったためである。
現実の組織は、そこにいる組織メンバーと、その顧客の要求、競争相手や技術変化の特徴等々といった多様な要因に適合させるべく、当初のひな型にいろいろ手を入れて中間形態として成立せざるを得ないものなのである。そして、その現実的な中間形態を理解するうえで、まず初めに機能別組織・事業部制組織・マトリクス組織といった基本型を理解しておくことが役に立つ。これがポイントである。
事業本部制とカンパニー制の大きな違い
個々の事業部でも多角化が進み、その規模が大きくなると、かつて小さな機能別組織として成立した一つひとつの事業部が非常に巨大化してしまうことになる。この問題を解決するべく、事業部の規模を小さく維持し、しかも類似の製品・市場分野の事業部が相互に経営資源を共有していくように組織を組み立てているのが事業本部制である。類似の製品・市場に対応する事業部を複数集めてひとくくりにしたものをグループとかセクターと呼ぶ会社もあれば、事業本部と呼ぶ会社もある。簡便のため、ここでは事業本部と呼ぶことにしておこう。
図2には事業本部制の見本例を1つ示してある。CEOの下がまずIT事業本部とAV事業本部の2つに分かれ、さらにその下に3つずつの事業部が置かれている。この階層をさらに増やすことも可能である。つまり、この事業本部をさらに複数まとめ上げて新たな事業集合を1つの組織ユニットとして定義したり、逆に自動車用AV事業をカーナビとステレオに細分化するといった方法である。
こういった分割やグループ化の軸とは別に、個々の組織をコントロールする方法の違いにも近年は注目が集まっている。かつて事業部制を運営する場合には、通常、投下資本収益率(Return on Investment:ROI)が用いられていたのに対し、近年では個々の組織ユニットに仮想的に資産を分割し、その資産をベースとして経済的付加価値を計算して各組織ユニットを評価し、コントロールするという方法が普及しつつある。いわゆるカンパニー制がそれである。
これまでは、多様な資産を多数の事業部が共有して事業部制組織が成立していた。だから事業部制組織は、「あたかも1つの独立した会社であるかのように」という方向を目指した組織形態ではあったが、互いに暗黙のうちに共有していた部分も多々存在していた。
これに対して、その共有資産まで個々の組織ユニットに配分するカンパニー制は、事業部制よりもはるかに個々の組織ユニットの自律性・独立性・分離性を高める方向へ進んだ結果として成立する。カンパニー制とは、いついかなる時点でカンパニーを切り離して売却してもよいようなところまで組織ユニットの独立性を高め、まさに「1つの独立した会社である」かのように組織を分割して出来上がった組織形態なのである。
事業部制と事業本部制の主たる相違点は、事業部の規模とそのくくり方の違いであり、いわば組織ユニットの規模に関係しているのに対し、事業部制とカンパニー制の主たる相違点は、分割した組織ユニットのコントロール方法に関する違いである。それ故、一つひとつの事業部をカンパニーとして設定することもできれば、事業本部を1つのカンパニーに設定したり、さらに複数の事業本部をひとまとめにして1つのカンパニーとすることもできる。
ただし、現段階の日本企業は、少なくとも、事業部よりも比較的大きなまとまりをカンパニーとしているのが一般的であろう。あまりにも小さな組織ユニットをカンパニーと定義すると、資産まで含めてカンパニー別に分けて計算する作業が面倒だからかもしれない。
ここでも強調すべき点は、事業本部制やカンパニー制といった組織形態も、基本的には事業部制の派生形態として考えると理解することが容易になる、という点である。組織形態については、頻繁に新しいカタカナ言葉が流行し、また社会的には同じものを各社で異なる呼び方をしているために、しばしば初学者に混乱が発生しがちだが、原理原則にまでさかのぼってみると、実はそれほど組織の基本型は多くはない。機能別組織と事業部制組織の2つを基本型とし、さらにその2つを複合しようとするマトリクス組織を記憶しておけば、他の組織形態はすべてそれらから派生してくるものとして理解することができるはずである。
まずはこれらの基本型をしっかり頭にたたき込み、そのうえで、どのような分業の仕方がどのような効果をもち、どのような調整の仕方がどのような効果をもつのかを、それぞれ原理原則に基づいて理解していけば、組織設計の主要なポイントを一応理解できるはずである。
業務範囲、分担、監督の仕組み。組織改革、新組織がつまずくのは、これらをきっちりと考えていないからだ。分業の決め方、調整をスムーズにする様々な標準化など、機能する組織をつくるための発想と対策を解説。
沼上幹著/日本経済新聞出版/1045円(税込み)



