「ビジネスの成功は20%のIQと80%のEQである」。以前より「人の評価」に疑問を持っていた髙山氏は、米国でEQ(心の知能指数)と運命の出合いをしました。EQ伝道師・髙山氏へのインタビューの1回目では、EQを日本に導入した背景と、EQの最高の実践者、平井一夫さんの本について紹介します。

EQは日本でも普及すると確信

 今ではEQ(Emotional Intelligence Quotient)と聞いて「心の知能指数」という言葉を思い浮かべる方も多いと思います。しかし、私がEQ事業を立ち上げた1997年当時は、日本でEQ理論を事業化しようという人は皆無でした。

 私は社会に出て学歴や偏差値、学校ブランドで採用や評価が決まることへの疑問を常日ごろ感じていました。やる気や情熱、志などは潜在的で見えにくいけれど、それも能力ではないかと思っていたところ、米国でEQと出合い、1997年に「個人の自立と成長を支援する」ことを目的にEQ事業をスタートさせました。

 EQ理論の中で最も興味を持ったのが「ビジネスの成功は20%のIQと80%のEQである」という調査結果です。

 私の独自理解ですが、小学校の子どもさんで算数の方程式を正確に解く子どもさんは、「頭がいい」と言われますよね。一方、トイレ掃除の当番の子が休んで、その子の代わりに自らすすんでお掃除をする子どもさんは、「いい子」と言われます。

 私は、方程式を正確に解くのも能力、いわゆるIQ。後者の子どもさんは、人の気持ちがわかる能力、これがEQだと理解しました。当番を休んだ子の代わりに誰かが代わって掃除をしないと他の子たちが困る。誰かに褒められたいとか、見返りを求めるのではなく、当たり前に、自然に行動をした。それもEQという能力なのです。

 人が困っていれば当たり前と思って自然にこういう行動する人が成功している。私はEQ理論にとても興味を持ちました。

EQの実践者・元ソニーCEOの平井一夫さん

 ビジネスパーソンのみなさんにとっては「じゃあ、そのEQがどう仕事に生かせるのか」が一番気になるところでしょう。そのお手本となるのが元ソニーCEO・平井一夫さんの『 仕事を人生の目的にするな 』(SB新書)です。

『仕事を人生の目的にするな』 (画像クリックでAmazonページへ)
『仕事を人生の目的にするな』 (画像クリックでAmazonページへ)

 この本は若者に向けた内容ですが、「ビジネスにおけるEQとは」を理解するため、どの年代の方が読んでも楽しめると思います。

 この本では平井さんが重視しているEQに基づいた3つの能力について書かれています。まず、1つ目は「自分とは違う人たちと対話する能力」。多様性を持っている人と対話する力、つまりダイバーシティですね。

 2つ目は「コミュニケーション能力」。これは誰とでも仲よくなる社交性ではなく、「芯のある対話」という意味です。だから、自分の主張は曲げなくていい。人に迎合したり、忖度(そんたく)したりする必要はなく、自分の主張は言っていいと言っています。

 みなさんが「EQの高い人」と聞いてイメージするのは、自分の言いたいことを我慢して、その場の空気を読むような「いい人」ではないでしょうか。確かにそれもEQなのですが、「違うことは違う」と言うこともEQであり、高度な使い方になります。

 平井さんが高度なEQスキルを実践活用されていることがよくわかります。

 3つ目は「公平性」。個人的な損得勘定やもくろみで相手を巻き込んだり、公平性を失ったりしないのもEQだと言っています。ビジネスパーソンのみなさんにとっては、EQスキル満載のこの本は、明日からのビジネスシーンですぐに使えると思います。

 また、同じ平井さん著の『 ソニー再生 変革を成し遂げた「異端のリーダーシップ」 』(日経ビジネス人文庫)を読むと、平井さん自身がEQをどのように実践してきたかが分かります。私が特に感心したのが、ソニーを立て直すための人員削減の場面。変革を起こせない経営層に辞めてもらわなくてはいけなくなるのですが、一人ひとりに直接会い、「卒業」してもらうように伝えたことです。

 「君はこの会社とは縁がなくなる。辞めてもらう。今日はもうこのまま帰っていい。明日の朝6時以降に会社に来てもらえればセキュリティーと同行で部屋に入れるようにしてある。私物だけ持って帰ってくれ」

 平井さんは、こうした言いにくい話を人事部に任せることなく、自ら行います。直接会って話をするのは相手に対する敬意の表れです。解雇ではなく、「卒業」と伝える。これもEQを意識した実践行動だと思います。

『ソニー再生 変革を成し遂げた「異端のリーダーシップ」』(日経ビジネス人文庫)(画像クリックでAmazonページへ)
『ソニー再生 変革を成し遂げた「異端のリーダーシップ」』(日経ビジネス人文庫)(画像クリックでAmazonページへ)

 平井さんは日本経済新聞の「私の履歴書」(2025年4月掲載)でも複数回にわたってEQを取り上げられていました。財界の経営者向け講演や動画でも度々EQについて言及されています。余談ですが、私のところにEQの問い合わせをしてくれる方に「どこでEQを知りましたか?」と聞くと、「平井さん」という答えが多く、私にとってのEQ伝道師はまさに平井さんです。

 なぜ、これだけ平井さんがEQについて言及され、自ら実践されているかというと、米国で活躍されていた時期とEQ理論が提唱された時期が重なっているからだと思います。当時、TIME誌が長期間にわたってEQの特集を組むなど、非常にEQ理論が注目されていました。きっと米国でEQの重要性を理解され、実践されたのだと思います。

 これからEQを仕事に生かしたい、という人は『 仕事を人生の目的にするな 』をEQの概念編、『 ソニー再生 変革を成し遂げた「異端のリーダーシップ」 』を実践編として読むと納得がいくと思います。

平井氏こそ、EQの伝道師です。
平井氏こそ、EQの伝道師です。
画像のクリックで拡大表示

 次回もビジネスパーソンにおすすめしたいEQとビジネスがつながる本を紹介します。

取材・文/三浦香代子 構成/細谷和彦(日経BOOKプラス編集) 写真/品田裕美