日本のEQ伝道師・髙山氏へのインタビュー2回目。今回は若者向けの書籍を中心に、一気に5冊を紹介します。森岡さんの本からは自己分析の重要性を、伊集院さんからは理不尽さに学ぶことを、そして絵本から学ぶEQについても語ります。今日から実戦できるヒントが満載です。
自分を知らないと戦略は立てられない
前回 はEQ(心の知能指数)の実践者であるビジネスパーソン、元ソニーCEOの平井一夫さんの本を紹介しました。今回もEQ実践者として感銘を受けた本についてお話しします。
1冊目は森岡毅さんの『 苦しかったときの話をしようか ビジネスマンの父が我が子のために書きためた「働くことの本質」 』(ダイヤモンド社)です。この本で森岡さんは就職を控えたわが子のために「会社と結婚するな。職能と結婚せよ」「自分自身をマーケティングせよ」と、「働くことの本質」を説いています。
森岡さんといえばUSJ再建をはじめ、数々の企業を成長させてきたマーケターです。成功にはEQが必ず存在していたと思わせる一冊です。社会の厳しさを本音で語り、「甘っちょろい」言葉は一切なしですが、そこには高度なEQが発揮されており、日本人と日本の未来が幸せになることへの思いがあふれています。
仕事の厳しさを知っているだけに、この本でも「夢を持て」「気持ちで乗り越えよう」といった、ふわっとしたアドバイスはありません。容赦なく現実の厳しさを伝えているのですが、ここまで言い切られてしまうと逆に爽快です。それでいて、わが子に向けた言葉ですから、温かみもある。タフな状況を乗り越えて来た人ならではの言葉が身にしみます。
森岡さんはマーケターの立場から、自己分析の重要性を語っています。自分を知らないと戦略は立てられない。EQも同様です。自分のEQ現在地がわからないと目的地に向かうことができません。目的やゴールは自己理解というスタート地点を知ることで、初めて前に進むことができるのです。
EQを使うカウンセラーやコーチ、会社でもマネジメントや能力開発に関わる人が読むと「現実の厳しさの伝え方」「乗り越え方」に対して、どう方向性を示せばいいのかのヒントになると思います。
もう1冊、森岡さんの本では『 森岡毅 必勝の法則 逆境を突破する異能集団「刀」の実像 』(中山玲子著、日経BP)もおすすめです。
「必勝の法則」が論理的に整理されていますが、成果を生み出すために行動するのは人であり、人がいるところには必ずEQが存在しています。ビジネススキルとしてのEQがどの場面で使われたかを想像しながら読んでいただくことで、EQスキル実践活用の参考になると思います。
「理不尽の中に真価が潜んでいる」
続いては、伊集院静さんが書かれた『 伊集院静の「贈る言葉」 』(集英社)です。こちらは新成人、新社会人に向けたメッセージ集。「連(つる)むな」「逃げるな」「孤独に慣れろ」といった言葉には背筋が伸びます。若者には厳しく届く言葉かもしれませんが、生き方を示唆する言葉と私は受け止めています。
伊集院さんのメッセージには、自分に向き合うことに関するメッセージが多く、自分に向き合うとは自分の感情に向き合うことであり、それはEQスキルともいえます。自分に向き合い、EQを発揮し、よりよい人生を考える。伊集院さんがEQを知っていたかどうかは知りませんが、彼はEQが高い人だったと思います。
私が生前の伊集院さんに感銘を受けた言葉に「理不尽の中に真価が潜んでいる」というのがあります。私たちは普通、理不尽なことをした人を責めますよね。それはなぜかと言うと理不尽な行いの中に、自分の本質と違うものを感じるから。でも、理不尽さと向き合っていくと自分の本質、大切にしているもの、真価が見えてくる──という意味ではないかと解釈しました。その自分と向き合い、客観視する能力はEQにとっても必要な能力です。
本書には直接、この言葉が出てくるわけではありませんが、伊集院さんは、さまざまな苦労をする中で、理不尽さと向き合った時間も長かったのではないかと思わせる一冊です。EQだけではなく、「品格と覚悟」という伊集院さんならではの哲学を味わいたいところです。
登場人物のEQの高さに酔いしれる
次は『 一流のバーテンダーは2杯目のグラスをどこに置くのか 超一流だけが持っている「すごい思考法」のつくり方 』(西沢泰生著、アスコム)です。この本はもともと『壁を越えられないときに教えてくれる一流の人のすごい考え方』というタイトルで出版されていたものを、改題して再編集したものです。大谷翔平さんが日本ハムファイターズに入団したとき、キャンプに持ち込んだ本としても知られています。
この本にはスティーブ・ジョブズさんとビル・ゲイツさんのお話や、イチローさん、赤塚不二夫さん、矢沢永吉さんなど、さまざまな人が登場し、「どんな行動を取ったか?」がクイズ形式で分かるようになっています。
なんといっても登場人物全員のEQが高い! EQの高い人はこういう行動、言動、立ち居振る舞いをするんだ、のオンパレードです。まるでEQスキルの参考書ですね。
私は純粋に「どこに2杯目のグラスを置くんだろう?」と気になって読んだのですが(ネタバレになるので答えは言いません)、登場するみなさんのEQが高いことに驚き、そして納得しました。もう、矢沢永吉さんのエピソードなんて、しびれますよ。
プロモーションビデオの打ち合わせで、1時間の予定のうち58分を矢沢さんが一方的にしゃべり続け、「すみません。矢沢だけが一方的にしゃべっちゃってますね。ただ今日はそうさせてください。今、いろいろなアイデアが浮かんでいるはずです。でも、今はそれを言わなくていいです。次に会う時にそのメモを持ってきてください、そうしたら……」
さて、その後の一言、なんて言ったと思いますか?
「矢沢、そのメモを見ないでOKします」
著者は「矢沢永吉さんの人たらし術」と書いていますが、これは最高難度のEQです。リーダーたるもの、これぐらいのEQ技術を持つべきだと思います。
赤塚不二夫さんは締め切りギリギリまで原稿を描かず、編集者が原稿を受け取りにやって来ます。ところが、やっと描き上げた原稿をあろうことか編集者がタクシーに忘れてしまいます。普通なら激怒するところですが、それを知った赤塚さんは、どうしたでしょうか。今回はネタばらしなしです(笑)。
この本は、EQ実践の宝庫です。ある意味、最高のEQトレーニング本ですよね(笑)。
上司が部下に読み聞かせをしてほしい絵本
最後は絵本『 きみのことがだいすき 』(いぬいさえこ著、パイインターナショナル)です。絵本⁉と驚く人もいるかもしれませんが、
「たくさん まちがえる、きみは すてき」
「たくさん しっぱいする、きみは すてき」
「かなしいきもちはね、ふたを しなくて いいんだよ」
少し言い換えるとビジネスシーンで使えませんか?
「間違えても、失敗してもいい。悲しい気持ちは私が受け止めるから。悲しんでいいんだよ」と、上司に言われたら、どうしますか?
絵本からEQ実践のヒントをたくさん学ぶことができます。親子の会話は、上司部下の会話の参考になるし、人生の教訓も学べます。なにより言葉がシンプルで美しい。大人の言葉に変換すると語彙力を学べる最高の本といえます。
特にリーダー職の皆さまにお薦めします。
リーダーの言葉の選び方、言い方、伝えるときの雰囲気や話し方を絵本の世界観で捉え、ビジネスに変換してみる。私たちはいかに言葉を無意識に乱暴に使っていることでしょうか。ある一言に、心がじくじくと痛んだ経験はないでしょうか? 絵本の世界にそれはありません。
同じ言葉を発しても、あまりにもリーダーの言葉が貧相だとなったとき、この絵本のメッセージを読み、「伝わる言葉とはどういう言葉か」を考えてみてほしいと思います。「リーダーからメンバーに読み聞かせるとしたら、どんな言葉に言い換えられるか」を考えながら読んでみるのも、おすすめですよ。
取材・文/三浦香代子 構成/細谷和彦(日経BOOKプラス編集) 写真/品田裕美




