その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は佐々木融さんの『 インフレ・円安・バラマキ・国富流出(日経プレミアシリーズ) 』です。

【はじめに】

 日本銀行は2025年12月19日に政策金利を0.50%から0.75%に引き上げました。0.75%という政策金利の水準は1995年以来30年ぶりの水準です。植田和男総裁は政策金利の変更発表後の記者会見で、実質金利は「まだ極めて低いところにある」「中立金利の下限にはまだ少し距離がある」と発言し、今後も追加利上げが行われる可能性が高いことを示唆しました。日本経済はいよいよ金利がある世界に戻ってきました。

 その約2か月前の10月21日、憲政史上初の女性宰相として高市早苗首相が誕生しました。高市首相は「責任ある積極財政」を掲げ、金融政策の方向性は政府が決め、日銀にはその手段のみを委ねるとしました。緩和的な金融政策を維持し、積極的な財政支出を目指しているようにも見える姿勢は13年前に始まったアベノミクスの再来を思わせます。

 しかし、日本経済を取り巻く環境は13年前とはまったく異なります。2012年、日本はデフレに喘ぎ、ドル円は80円前後、日経平均は1万円割れという水準に沈んでいました。あれから時を経て、経済の景色が激変した今、かつての師・安倍晋三元首相への敬意があるにせよ、同様の政策を踏襲することには無理があると思います。

 2026年以降、日本の財政・金融政策をどちらの方向に進めて行くのかという選択は、これからの日本の30年にとって極めて重要な選択となる可能性があります。

 14年ほど前に日本経済新聞出版から『弱い日本の強い円』という本を出版させていただきました。その中で日本経済は弱いのになぜ円が強くなるのかを、為替市場の基本的な構造や為替相場の基礎知識とともに解説しました。最近、市場関係者と会うと時々、「為替の部署に配属になった時に、まず先輩・上司から勧められて『弱い日本の強い円』を読んで勉強しました!」と言われることがあり、とても嬉しい気持ちになります。同書で書いた、為替市場の基本構造や相場の基礎知識は今でも参考になると思いますので、もしこれから勉強しようと思っていらっしゃる方がいらしたら、そちらも参考にしてみてください。

 『弱い日本の強い円』では、最後にその時すでに始まっていた時流を受けて、これまで強かった円は、今後は弱い通貨になるかもしれないという懸念を示しました。そして14年経った今、実際に円が歴史的な弱さとなったところで、再び日本経済新聞出版から執筆の依頼を頂きました。

 今回の本では、強かった円がなぜ弱くなってしまったのかという構造変化を中心に解説をし、今後の見通しについても私の見方をご紹介したいと思います。一言で言えば、現在の「超円安」は日本の「失われた30年の産物」だと思います。

 ただ、14年前と異なるのは、「今後は円が再び強い通貨になるかもしれない」という結論とはならないところです。このままの状態に大きな変化がなければ、言い換えれば、もし高市首相がアベノミクスと同様の政策を踏襲するなら、このまま円安傾向は続くと思います。そうならないために、何が変わらなければいけないかについても私なりの考えを記してみました。

 紙幣は所詮、単なる紙切れです。紙切れでも汗水流して働いた対価としてしか受け取れないから、貴重な紙切れとして扱われます。そして、それを使う人々が、価値がある、価値が維持されると信用しているからこそ貴重な紙切れであり続けます。

 しかし、汗水流して働かなくてももらえる紙切れになると貴重さが失われます。人間も人からの信用を得るためには時間がかかりますが、信用を失うのは一瞬であるのと同じように、将来的にも価値が維持されないと思われ始めた紙切れは一気に信用を失います。

 もちろん、信用を失いかけていることに気が付いて、努力すれば信用を再び取り戻せるかもしれません。ただ、努力せず、同じことを続けていれば、信用を取り戻すどころか、信用はどん底まで落ち続けます。「円」という紙切れは今、信用を失い、取り戻せなくなる瀬戸際に立っているような気がします。

 正直なところ「時すでに遅し」と思っているのですが、それでも本書を書くことによって、少しでも多くの人がそれに備えることができればと思っています。今から14年後にはさすがに私は引退しているでしょうが、街で出会った人に「あの本で助かりましたよ!」と言ってもらえるかもしれないと期待して執筆しました。


【目次】

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