その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は村上芽さんの 『図解SDGs入門』 です。

【はじめに】

 SDGs(Sustainable Development Goals, 持続可能な開発目標)は、全世界196カ国、約75億人に共通の目標です。2030年に17個の目標を達成することは、人類のこれからの豊かさにとって非常に重要な通過点です。
 75億分の1として、それに興味を持った人、自分ができることを探している人、すべきことをしようと行動を始めた人も、少なからずいると思います。

 私は、『日経文庫 SDGs入門』(日本経済新聞出版、2019年、共著)や『SDGsの教科書』(日経BP、2018年、共著)を出版してから、そのような方と話す機会が増えました。
 これら2冊は「ビジネスでSDGsに貢献する」ことを意識して書きました。
 本当に多くの企業や自治体、大学などが、「SDGsの達成に自分たちも何かしないといけない。具体的にはどうしたらよいだろう」ということを考えています。そのヒントとして、手に取ってくださった方も多いと思います。

 実際、SDGsを達成して、あなたから後に続く世代に希望のある世界を引き継いでいくためには、あらゆる人が、仕事や生活を通じて行動しないと厳しいです。
 多くの方と話すことを通じて、ますます強く感じるのは、「一人ひとりが課題に気づき、その中身に興味を持ち、知ろうとすること、そして動くこと」の大切さです。ここで大事なのは、社長に言われたからだとか、お客さんに言われたからだとか、先生に言われたからだとか、身近な人の関心に合わせることではありません。

 私もそうですが、日本で暮らしていると、周りの迷惑にならないようにすること、という暗黙のルールが非常に大事です。それは日本社会のよさでもあり、ときに息苦しさでもありますが、海外からみても、こんな島国でたくさんの人が暮らしていくためには、それが大事なスキルなのだろうと見えるようです。
 また、「上の人が言っているから、その期待に応え、しっかり対応しよう」と考え、きっちりやり遂げることは非常に大切です。どんな決まりでも、それをみんながきちんと守ろうとしないと意味がないことは、2020年の新型コロナウイルス感染症対策の経験を通じていやというほど分かったと思います。

 けれども、「合わせる」だけではダメなのです。「みんなそうしているから」という行動ばかりしていると、社会はいっこうによくなりません。例えば、優秀な高校生が、女性だからという理由で望んでいる医学部に入れなかったという事件は、明治時代の話ではなく、21世紀の日本で起きたことです。より豊かな社会を目指すのに、本当にこれでよいのか? と気づき、従来のやり方をもっと早く見直しておくべきでした。

 そこで、この本では、「ビジネスでSDGsに貢献する」という視点からはいったん離れ、まず、世の中いったいどうなっているのか、ということについて調べています。私はシンクタンクで研究員の仕事をしていますが、私もふだんの仕事からは離れ、一個人として「どうなっているの?」という問いを立てるところから始めました。
 現状に気づき、その中身に興味が湧けば、自然とやる気も出てきます。8つの分野で65の視点から問いを集めましたが、この本を手に取ってくださったあなたにとっても、「どうなっているの?」と思うところが一つでもあればうれしいです。どのページから開いていただいても、グラフや表で数字を並べています。これらはすべて、少し手をのばしてみれば届くところにあるものです。
 最近は、小中高生、大学生のみなさんでも、SDGsについて学ぶ機会が増えているでしょう。本やインターネットで調べものをすることも、学校で習ってきたと思います。それを使えば簡単に、日本や世界がどうなっているのかを知ることができるのです。

 さて、SDGsには17の目標、169のターゲットに加え、232の指標も定められています。指標はその進捗状況をみて、上位の目標まで近づいているかどうかを推し量るためのものです。ただ232あるといっても、国レベルでも把握できていないものもあります。ましてや一人ひとりの生活からはだいぶ遠くにあります。

 そこで、65の切り口は、なるべく身近なところから想像しやすく、めぐりめぐってどれかのターゲットや指標に行き着くということを意識して選びました。

 サステナビリティとは、誰もが今日は昨日よりよかった、明日はもっとよい一日になると思って過ごせることなのではないかと思います。その現状を測るための切り口について、私の案はこうですが、この本を手に取っていただいたみなさんには、ぜひ自分だったらここに興味がある、こんな見方をしてみよう、ということを考えていただきたいと思います。


【目次】

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