その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は武田かおりさん、中島康之さんの『 Q&Aいまさら聞けないテレワークの常識 』です。
【はじめに】
「テレワークって電話でする仕事ですか?」「テレアポみたいなものですか?」
筆者らが、テレワークにまつわる相談にかかわるようになり、もう20年以上になります。
ただ当時は、そんな質問を受けるほど、テレワークの知名度は低いものでした。勉強しようにも、参考になる図書や文献もほとんど見当たらず、『テレワーク世紀―働き方革命』(W・A・スピンクス著、1998年)等を入手し、テレワークのことを学びました。
2009年にテレワークの効果や問題解決方法を示した『在宅勤務』(全国労働基準関係団体連合会)を共著で執筆しましたが、当時はインターネット環境も現在ほど進んでおらず「テレワークする業務はない」「従業員がサボるのでは」となかなか普及しませんでした。
あまり知られていませんが、安倍晋三前総理大臣は2013年の「世界最先端IT国家創造宣言」において、2020年までに「テレワーク導入企業数を3倍(12年度比)」「雇用型在宅型テレワーカー数を全労働者数の10%以上」という目標を閣議決定しています。東京オリンピック開催決定を受けて政府の働きかけは大きくなり、首都圏の感度の高い企業を中心にテレワーク普及率は徐々に伸びてきたところでした。その普及の大きなきっかけとなったのは予期せぬ新型コロナウイルス感染症拡大です。
ところが、緊急事態宣言発令直後の20年4~5月をピークに、通常勤務に戻る企業も多くみられました。「書類に押印が必要だからやっぱり出社しなくては」「生産性が落ちる」「コミュニケーションが減ってやりづらい」……メディアやインターネット上では、ネガティブなものも含め、テレワークにまつわるさまざまな声があふれるようになりました。
ここで浮き彫りになったものに、ICT環境や社内体制の不備、日本が「印鑑社会」「はんこ文化」であることなど根本的な問題があります。20年9月に発足した菅内閣では、「デジタル庁」の創設を掲げ、喫緊の課題として新型コロナウイルス禍で多くの企業がテレワークの阻害要因として挙げた「紙」「印鑑」社会の解消に向けて素早く行動をとりました。
諸外国に比べ遅れていた日本のデジタル社会は、政府主導で大きく変わろうとしています。ここから本格的なテレワークの時代がやってくると私たちは考えています。一時的なものではなく、恒常的にテレワークを行うことで社内を社会を良くする時代がきます。
もちろん、まだまだテレワークへの移行が難しい業務や職種は多数あります。しかし、テレワークが可能であるにもかかわらず、導入を検討しない、制度を作らない状態を続けることは、企業のBCP(事業継続計画)対策や人材確保においてかなり致命的だと筆者らは考えています。また、「生産性が下がる」「コミュニケーションが減って社内のモチベーションが落ちる」という思い込みで通常のオフィス勤務を続けている企業があるとしたら、もしかするとそれは適切なやり方を知らないだけかもしれません。
本書は、筆者らが社会保険労務士を生業とする中で、1000社以上の企業の経営者、総務、人事担当者から受けた相談や、試行錯誤してきた内容を主にまとめています。導入に際しての推進方法、労務管理、社内体制づくり、マネジメント方法などについてテレワーク推進にかかわるみなさまの「いまさら聞けない」悩みの解決書となれば幸いです。
2020年9月
社会保険労務士法人NSR 武田かおり、中島康之
【目次】