その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は石津朋之さんの『 戦争とロジスティクス 』です。
【はじめに】──「物流の2024年問題」に直面して
今日、「物流の2024年問題」が大きな話題となっている。時間外労働の上限規制の結果、トラックドライバーの労働時間が短くなることで、輸送能力が低下するのではとのリスク予測である。
そうしたなか、本書は軍事の領域におけるロジスティクスに焦点を絞り、物資の流れの過去、現在、さらには将来について、それぞれのテーマに沿って論じたものである。
「戦争のプロはロジスティクスを語り、戦争の素人は戦略を語る」と皮肉交じりに言われる。もちろん、この言葉には多分の誇張が含まれているものの、他方で、補給を含めたロジスティクスをめぐる問題が、戦いの勝利のために最も重要な側面の一つであるにもかかわらず、これに焦点を当て分析した書が少ないのは今日でも厳然たる事実であり、これは民間企業のロジスティクス問題にも当てはまるであろう。
もとより、軍事ロジスティクス──兵站(へいたん)というやや耳慣れない言葉も用いられる──の意味するところは広範にわたり、一般的にイメージされる「補給」という側面に留まるものではない。しかしながら、基本的に本書では、ロジスティクスという言葉を「補給」あるいは「物資の流れ(物流)」を意味するものとして用いることを、あらかじめ断っておきたい。
軍事の領域に限らず、今日、ロジスティクスをめぐっては問題が山積しているのが現状であろう。「物流の2024年問題」に加えて、例えば、コロナ禍での各国による輸送船(コンテナ船)の争奪戦、輸送船の不足による全般的な運搬量の低下──クリスマス商品が届かない──といった問題がメディアで話題に上った。また、サイバー攻撃により、名古屋港のコンテナ積み下ろし施設が稼働できなくなるとの報道もあった。
さらには、2022年に勃発したウクライナ戦争や台風に象徴される各種の自然災害によって、天然ガスや石油(ガソリン)不足、そしてこれら価格の高騰といった問題も記憶に新しい。加えて、こうした問題にはSDGs(持続可能な開発目標)に象徴される環境問題が絡んでくるため、問題はより深刻になる。
もちろん、AI(人工知能)や各種のロボット、サイバー・セキュリティも、民間企業のロジスティクスや軍事ロジスティクスの領域に大きな影響を及ぼしつつある。
またウクライナ戦争では、仮に同国に対する軍事支援がなされても、そうした支援物資をいかに最前線まで移送するか、さらには、どうやってウクライナ軍兵士に対して新たな兵器の訓練を実施するか、といった難問にも直面している。
ロジスティクスは軍隊(自衛隊)の「ライフライン」である。だが、歴史を通じて軍隊の「尾(テイル)」をめぐる問題は、担当者を悩ませ続けてきた。実際、今日でも担当者は、この問題の解決に向けて日々模索している。
例えば、こうした問題に対して防衛省・自衛隊でも、陸・海・空の共同部隊としての「自衛隊海上輸送群」の創設が具体化しつつあり、そこでは、①輸送用船舶、②ヘリコプター、③(優先使用のための)民間船舶との契約、などが整備されるようである。また、民間企業と同様、ドローン(無人航空機)を活用した血液など必要物資の移送も試験中とされる。
なお、本書は軍事ロジスティクスに関して筆者がこれまでに発表してきた論考を一つにまとめたものである。また、「オムニバス」形式の書であるため、読者の皆さんにはどの講(章)から読み始めていただいても問題のない構成となっている。自身の関心を有するテーマだけを選んでもらっても構わない。それぞれの講には他と重複する記述も多いが、あえてそのまま残してある。加えて、本書では可能な限り平易な記述に努めた。そのため、あえて軍事専門用語を使っていない個所があるが、それはあまり戦争や軍事問題に詳しくない読者にも本書を読んでいただきたいからである。
もとより本書は、軍事の領域におけるロジスティクスをめぐる論考集であるが、筆者は、このなかで示された様々な見解に、民間企業のロジスティクス、さらには物流業界全般にも有益なものが含まれていると期待している。本書が、読者の皆さんがロジスティクスについて考えるための何らかのヒントを提供することができれば、筆者の望外の喜びである。
【目次】



