その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は内藤琢磨さんの『 再生・日本の人事戦略 失われた30年を取り戻す実践手法 』です。
【はじめに】
経営と人事部門の距離感が徐々に縮まってきた。その大きな理由は「人材版伊藤レポート」を契機とした「人的資本経営」に関する認知の広がりと、2023年4月からスタートした本格的な「人的資本開示」への関心の高まりにある。こうした背景によって経営者と人事部門が一体となって人材戦略を再構築し、その内容を開示しようとする意識が高まりつつあることは歓迎すべき動向である。
一方で「どう開示するか」を検討する前に、そもそも「自社の人材戦略とは何か」を明確にした上で、その戦略に「どのように取り組んでいくか」を考えることが大切である。残念ながら多くの日本企業においては「開示そのものが目的化」しており、自社の組織や人材が真の強さを取り戻すための人材戦略の再構築とその実行がなされている企業はまだごく少数である。
振り返ると、日本企業の人材マネジメントというテーマにおいて「手段が目的化」してしまうという状況は、1990年代半ば以降、幾度となく繰り返されてきた。
グローバル人事、コンピテンシーモデル、ジョブ型人事など、テーマは違えどこうした人事制度・施策は各企業が達成したい姿に向けて自社の組織や人材を近づけていくための手段であるはずであったにもかかわらず、いつのまにかそれらの制度・施策の導入そのものが目的化してしまった。その結果として日本の人材競争力は低下の一途をたどっている。日本企業の人材マネジメントにとって、この30年間はまさに「失われた30年」なのである。
なぜ日本企業の人事改革は手段そのものが目的化し、失敗に終わるのだろうか。こうした反省や総括を今一度行わなければ、日本企業はまた同じ過ちを繰り返してしまうのではないか。そうした危機感が本書を執筆しようと考えた背景にある。
失敗の要因は、一義的には自社の事業・経営戦略上の競争力強化と採用する人材戦略そのものがミスマッチを起こしている点、そして適切な人材戦略であってもそれをやり切るだけの組織的な運用能力が欠如していた点だと筆者は考えている。
加えて「他社がやっているから」と安易にはやりに乗ってしまうこと、発言力のある社内キーパーソンの「思い付き」によるテーマの押し付け、そしてそれらに抗ってこなかった人事部門にも責任はあるだろう。
しかしながら人材を経営や事業遂行上の重要な経営資源であることを認識せず、こうした状況を見過ごしてきた経営陣の責任が最も大きいのではないだろうか。一方で、この課題をクリアできるかどうかも、また経営者の行動にかかっているのである。
本書では日本企業の過去の人事改革における失敗の原因を明らかにすると同時に、日本企業が人材競争力を強化し、再び強さを取り戻すための5つの人事アジェンダを紹介する。
人的資本経営の流れは人事問題を経営問題として捉える機運を高める絶好の機会であるが、やり方を間違えると「失われた30年」の繰り返しにもなりかねない。
本書が人事部門の皆様にはもちろんのこと、自社の人材戦略を自らが人事部門と共に考え抜き、やり抜こうとしている経営者・経営陣の方々、そして現場で奮闘するマネジャー層に少しでもお役に立てることを願っている。
2024年1月 内藤 琢磨
【目次】




