その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は菊池秀彦さんの『 パワーエレクトロニクス AI・脱炭素で急拡大する勝ち組産業の真実 』です。
【はじめに】
台湾積体電路製造(TSMC)の先端半導体製造工場の熊本への誘致、Rapidus(ラピダス)の設立と日本政府の巨額の資金投入による北海道での同社の最先端半導体工場の建設など、日本国内において半導体復権の機運が高まっています。この動きの契機となったのは、2020 年ごろの新型コロナウイルスのまん延です。同時期、工場での生産や物流が停滞し、半導体の輸入が滞り、世界中の経済活動に大きな停滞を招きました。その反省として、国内である程度の量の半導体を製造することの必要性が再認識されました。これに加えて、世界の半導体工場である台湾での有事の懸念もあり、先端半導体は経済安全保障の対象技術となったのです。
この動きに対して、私は焦りを感じています。それは、先端半導体と両輪をなす重要技術「パワーエレクトロニクス」(以下、パワエレ)を守るという意識が希薄な点です。パワエレがなければ、経済活動はもちろんのこと、国民生活を支えることができません。先端半導体以上に、パワエレは国として守らなければならない技術です。
私は東芝、そして東芝と三菱電機の産業システム事業を本体から分離し統合した東芝三菱電機産業システム(TMEICに社名を変更)でパワエレ事業を担当し、その後、副社長を経験しましたが、パワエレが社会を支えていること、そして高度なパワエレ技術と、そのシステムを製造できる能力は国力を左右するということを痛感してきました。
パワエレを一言で言うなら、パワー半導体という電力を扱える半導体製品を使って、電気の形を意のままに操る技術です。ちなみに、パワー半導体はデータ処理のための半導体とは構造が異なるため、TSMCやラピダスなどの工場では製造できません。パワー半導体専用の工場が必要になります。
電気を使うということがあまりにも当たり前すぎて意識されませんが、パワエレの適用場所は現代人類の生活領域のほぼすべてです。発電所、送電網、工場、データセンター、物流、店舗、病院、倉庫、自動車、電車など、例を挙げれば切りがありません。パソコンやスマートフォン、エアコン、冷蔵庫、テレビなど、身の回りの製品の内部でも、パワー半導体による電力変換が行われています。本書の序章で述べるように、次々と建設が進むAI(人工知能)データセンターは大電力を緻密に制御できるパワエレ技術がなければ駆動できません。また、第5章で見るように、今後も大きく発電量を伸ばす太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー発電システムも高度なパワエレ技術の塊です。
日本は、米国やドイツなどと並んで、パワエレ技術で世界の先頭を走る国の1つです。しかし、その地位は危ういと言わざるを得ません。例えば、パワエレの中核をなすパワー半導体を見ると、2000年代初めまでは日本のパワー半導体メーカーが品質でも売り上げでも世界のトップを占めていましたが、近年はトップの座を海外メーカーに明け渡しています。ドイツなどの欧州メーカーが上位にいますし、中国のメーカーも力を付けてきています。パワエレ装置は踏ん張っていますが、パワエレ装置に使うコンデンサー、トランス/リアクトルなどの様々な部品から総合電機メーカーは撤退し、専門メーカーも中国や韓国などの海外メーカーに押され始めています。もう一度盛り返す必要があります。
これからは、間違いなく化石燃料の時代から電気の時代になります。データセンターでの電力消費の爆発的増加や再生可能エネルギーの割合の増加を考えると、パワエレ産業はますます重要性が増すとともに発展していくでしょう。将来を展望したとき、パワエレ産業は、成長産業なのです。
日本国民の生活のため、社会インフラを支えるパワエレは日本になくてならないし、外部環境の変化に対して強靱(きょうじん)であるためには、その技術は世界のトップであることが必要です。大きな成長が見込めない日本にとどまることなく、世界各国にもパワエレ関連の工場を設立して、世界をリードしていくべきです。それが世界の人々から尊敬され、日本の経済安全保障に貢献することにつながると考えています。日本には、まだその力があります。
本書が、パワエレ技術の重要さや、パワエレ産業の現状を少しでも知ってもらい、パワエレに目を向けるきっかけになることを願っています。
菊池 秀彦
【目次】



