その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は細川昌彦さんの『 トランプ2.0 米中新冷戦 予測不能への備え方 』。「序章」をお届けします。

【序章】

 「米国の黄金時代が始まる」
 2025年1月20日、ドナルド・トランプ氏が第47代米国大統領に就任した。連邦議会議事堂の会場での自信満々の就任演説だ。17年からの第1期政権から、再び返り咲いた。
 「同盟国の“受難の時代”が再び始まる」
 そう思って演説を聞いた人も多いだろう。「米国第一」を掲げ、第2期トランプ政権は衝撃的に始動した。閣僚にも「忠臣」を集めて、1期目のような暴走を止めるブレーキ役が不在で、より大胆・過激になると懸念されている。その結果、自国中心の独善的な行動に世界は振り回される。

 関税を“脅し”に使うトランプ流外交はまさに「経済を武器に使う」ものであり、経済的威圧の典型だ。この経済的威圧とは、これまで中国に対して日米欧が連携して厳しく批判してきたものだ。これでは「米国の中国化」と言われても仕方がない。

繰り返すトランプ流交渉術

 予測不能といわれるトランプ大統領だが、ある種の“手掛かり”もある。いくつか挙げよう。

 トランプ大統領は常に短期的に目に見えた成果をアピールすることを狙う。第1期の貿易戦争でも私は、「喧嘩(けんか)しやすい相手から喧嘩するのがトランプ流だ」と指摘した。メキシコやカナダは安全保障を米国に頼るだけでなく、両国とも輸出は米国向けが7〜8割と依存度が高い。隣国で他に選択肢がない。これほど、くみしやすい相手はいない。こうして弱い相手から順次攻めていった。
 まず韓国、メキシコ、カナダと次々と中間選挙でアピールできる成果をとっていった。そして中間選挙後は残った難物の欧州連合(EU)と日本だった。
 早速、今回も第2期トランプ政権の第1ラウンドとして、関税を“脅し”に、合成麻薬の流入阻止を求めてメキシコ、カナダを標的にしている。あるテレビ番組で「なぜ、メキシコ、カナダなのか」との質問に、もっともらしく解説があったが、そんな理屈はトランプ大統領には無関係だ。
 トランプ大統領はこうした自分の交渉術に酔いしれている。

 もう1つの第1期での教訓は、トランプ大統領の徹底した「選挙至上主義」だった。かつての鉄鋼業や自動車産業で栄えた中西部の白人労働者という岩盤支持層に対して、中間選挙に向けて得点を稼ぐことが最大の関心事となっていた。これは今回も変わらない行動原理だ。特に薄氷の議会の優位性を考えれば、任期後半にレームダック化しないためには中間選挙の勝利は不可欠だ。

 こうした第1期を振り返れば、今後を見通す上で役に立つ。

第1期の苦い経験から対策する中国

 世界中が注視しているのが「米中新冷戦」といわれる米中関係だ。

 トランプ大統領と習近平(シー・ジンピン)主席。この二人のリーダーは17年からの4年間、お互い駆け引きを繰り返しながら対峙してきた。当然お互いの出方、生来のクセや性格も知り尽くしている。トランプ大統領の毎日のSNSでの発信も心理状態を分析されているという。

 中国の習近平政権は米国のトランプ新政権に対し、まずは対話重視の姿勢を示している。いずれディール(取引)をしたがるトランプ大統領を見越しての反応だ。第1期トランプ政権時の変遷を振り返ると、国内経済の状況も大きくそれぞれ二人の強気、弱気に影響することが分かる。
 習国家主席は大統領就任直前のトランプ氏と電話会談を行った。両国関係を管理する意向を示したものとみられている。背景にあるのは低迷する中国経済だ。そこに悪影響を及ぼしかねない関税の応酬の再来は何としても避けたいのが本音だ。この点は8年前とは大きく異なる。

 第1期では18年7月から米中の関税合戦が始まったが、双方における読み違え、誤算もあって米中の応酬はエスカレートしていった。トランプ大統領による強引な制裁関税の攻めは、およそ習近平主席の予想を超えたもので、中国は防戦一方に置かれた。結局、関税合戦は経済の体力勝負で、中国は手詰まりとなり、大型商談での輸入拡大で事態打開に動かざるを得なかった。
 また19年の中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)への禁輸措置も中国にとって衝撃だった。米国から半導体の供給を受けられなくなり、主力事業の停止に追い込まれ悲鳴を上げた。
 実はこうした苦い経験がその後の中国の対米戦略、戦術の立て直しに大きく影響したのだ。そうした2点を指摘しよう。

新たな武器を持った中国

 関税の応酬という「関税合戦」は体力勝負だ。米国の「制裁関税」に対して、「報復関税」で対抗するだけでは、明らかに対中輸入が大きい米国が有利で、対等に戦えない。中国が打つ弾薬は先に尽きてしまって、手詰まりになった。しかも米国はファーウェイなどに対して禁輸措置を行い、「輸出規制」という強力な武器まで使ってきた。その威力を目の当たりにして、これに対応するためには中国も米国と同じような「輸出規制」という新たな武器を備えなければならない。
 そこで中国はその後、着々と米国の制度を真似(まね)て“新たな武器”を磨いてきた。いわば“コピー戦術”だ。

 日本も他人事ではない。中国による「輸出規制」という“新たな武器”を使った戦いに日本企業も巻き込まれるリスクが高いのだ。
 その後、中国は重要鉱物や重要技術での輸出規制を次々繰り出して、この強力な新たな武器を使っている。
 第2期での米中対立の戦いでは、単なる関税合戦にとどまらず、輸出規制の武器も繰り出して「新たな複合戦術」ができるよう中国は準備を着々と整えているのだ(第2章)。

 それは米中対立の第1ラウンドから早速、現れた。
 25年2月1日、トランプ大統領は大統領令に署名して、中国に対して10%の追加関税を4日から課した。選挙戦で60%の対中関税を掲げているので、これはまだ序の口だ。

 しかし中国は米中の関税合戦で応酬する体力は今の中国経済にはないと見ているようだ。そうかと言って、弱腰では国内世論が持たない。

 そこで対抗措置として中国は4日、米国からのエネルギーや農業機械に最大15%の関税を課す方針を発表した。関税措置としては影響の少ない抑制されたものだ。本丸の農産物は、これからに取ってあると見てよい。序盤戦のジャブを打ち合う段階ではこうした対応も可能だ。
 そして併せて、グーグルに対する独占禁止法(独禁法)の調査やタングステンなどの重要鉱物の輸出規制も打ち出した。即座に対応したことから準備を入念にしていたことがうかがえる。関税合戦だけでは体力勝負で勝ち目がないので、別の武器も併せて使って米国に対抗する「複合戦術」で臨む方針が明らかになった。

国産化のための技術入手に躍起となる中国

 さらに中国はこうした「攻めの武器」だけでなく、禁輸措置への「守り」も強化している。戦略産業の国産化に躍起となっているのだ。

 ファーウェイに対する禁輸措置という苦い経験から、中国は半導体の内製化に一層アクセルを踏んだ。さらに22年のロシアによるウクライナ侵攻に対する西側諸国によるハイテク禁輸措置の経済制裁は中国に危機感を一層持たせることになった。
 そしてこうした国産化のカギを握るのが海外企業からの先端技術の入手だ。

 日本企業はその標的になっているので要注意だ。
 様々な重要産業で技術流出のリスクに直面している日本企業に警鐘を鳴らすために、本書では具体的に取り上げよう(第3章)。

対中警戒高まる、米国「オール・ワシントン」

 米中対立における米国の動きも、単純にトランプ大統領だけを見ていてはいけない。
 私は第1期当時から、トランプ大統領と「オール・ワシントン」の二層構造に分けて考えるべきだ、と指摘していた。「オール・ワシントン」とは議会、政権幹部、情報機関、捜査機関などのワシントンの政策コミュニティーを意味する。

 8年前、ワシントン政治の経験ないまま大統領になったトランプ氏が直面したのが、この「オール・ワシントン」との確執だった(第1章)。
 トランプ大統領はもともと、中国に対しても取引による目に見えた成果を求めていた。2000億ドルの貿易赤字の削減要求がそうだ。
 他方で、議会を中心とした「オール・ワシントン」ではハイテク覇権を巡る対中警戒感が高まっていた。19年のファーウェイに対する制裁やマイク・ペンス副大統領(当時)による中国との“新冷戦”宣言ともいうべき演説といった動きがそうだ。
 こうした米国の対中政策の二層構造は今日でも変わらない。トランプ大統領が「旋律」を奏でても、「オール・ワシントン」による通奏低音の音量は大きく無視できない。
 23年12月、「米国と中国共産党の間の戦略的競争に関する特別委員会」(略して中国特別委)が多くの厳しい対中政策の提言をしている。

 バイデン政権になっても対中警戒感一色で、いわば「ワシントン・コンセンサス」といえるものだった。
 バイデン政権は中国との対話を模索したが、対中強硬一色の議会は厳しい半導体規制を求めて政権に圧力をかけ続けていた。22年10月以降、バイデン政権が中国に対して先端半導体の輸出規制を次々と強化してきた一連の動きは超党派の議会の圧力を受けたものだった(第4章)。さらに中国製生成AI(人工知能)「ディープシーク」の衝撃的発表で、これに対する規制の動きも加わる。

 また、そうした超党派の議会の動きは主戦場である半導体だけにとどまらない。情報・データ漏洩やサイバー攻撃への懸念から、中国の動画配信アプリ「TikTok」、ネット接続して運転支援などをする「コネクテッド・カー(つながる車)」など、データやサイバーの分野でも対中規制を主導している。第2期トランプ政権でもこうした議会主導の動きは大きくなっていくと予想される(第4章)。
 こうした米中対立の戦場の広がりはまさに「経済新冷戦」の様相を呈している。

米中貿易対立の全体像

 このような第1期トランプ政権以降の中国の加速化した動きや米国「オール・ワシントン」の対中警戒の動きを考えれば、今後の米中対立はトランプ大統領が仕掛ける関税合戦だけにとどまらず、多面的な戦いになるだろう。トランプ2.0での米中新冷戦を読み解くためにはこうした全体像をつかむことが必要だ。

 「関税は最も美しい言葉だ」
 こうしたトランプ大統領の言葉により、関税ばかりに注目が集まる。しかし日本も身構えなければならないのは、トランプ大統領の「関税砲」だけではないのだ。

 そのための一助にしていただくために、図で米中間の貿易対立の構造を整理して、それを記述している各章を示しておいた。

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 こうした米中両大国の中でどう対処するか。
 今、執筆中においても現在進行形で激動に振り回されている。本書はこれを追いかけるのが目的ではない。その底流に流れる背景・意図といった本質をつかむきっかけを提案したい。本書をそうした問題意識で読んでいただければありがたい。


【目次】

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