その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は田中健司さん、木幡健文さんの『 CAFではじめるAzureクラウド導入&運用ガイド AI Ready実現の最適解 』です。「序章」の一部を抜粋してお届けします。

【序章】
AI Ready時代の幕開け 今、クラウド導入に「経営判断」が問われている

「AI Ready経営」が企業の生存を左右する時代に

 2025年、私たちはAI(人工知能)が“便利なツール”から“自律的な労働力”へと脱皮する瞬間を、確かな手触りと共に目の当たりにしました。「AIエージェント元年」と称された2025年を経て、2026年にはAIが単なる“知的なツール”から、物理的な実体を伴う“新たな労働力”へとその姿を変え始めました。
 一部の先行企業では、自動車並みの価格で提供され始めたAI搭載のヒューマノイドが物流や製造の現場に導入され、AIが人間の思考だけでなく、働き方そのものを再定義するフェーズへと突入しています。

 著者が日々向き合っているお客様の光景も一変しました。かつては「AIで何ができるか」という抽象的な相談が主でしたが、現在はエンタープライズからスタートアップまで、規模を問わず「AIエージェントをいかに組織の血管につなぎ込むか」「自律的に動くAIのガバナンスをどう確保すべきか」といった、より切実で具体的な戦略支援を求めるようになっています。AIはもはや特定の専門家の手にあるものではなく、すべての産業の存立を支える「21世紀の経済基盤」となったのです。

 しかし、この熱狂の裏で、日本企業の間には決定的な“格差”が生まれ始めています。それが、かつて経済産業省が警鐘を鳴らした「2025年の崖」でした。
 2026年の今、私たちが目撃しているのは、システムが突如崩壊するといった派手な破綻ではありません。それは、老朽化したレガシーシステムを温存し続けた企業が、爆発的に進化するAIエージェントの進化・速度に追いつけず、自社のデータを価値に変換できないまま、静かに競争力を失っていくという「沈黙の格差」です。日本国内のクラウド利用は依然として限定的なSaaS活用にとどまるケースが多く、AIを動かすための“全身の神経系”としてのインフラ刷新に至っていない企業が少なくありません。
 クラウド導入の遅れは、今や致命的なリスクへと直結しています。2025年に頻発したランサムウェア攻撃や、サプライチェーンを揺るがした大規模なシステム障害は、旧態依然としたインフラ管理がいかに脆いものであるかを白日の下に晒しました。セキュリティはもはや“守りのコスト”ではなく、事業継続そのものを左右する“最優先の経営判断”となったのです。

 つまり、クラウド導入は今や「IT投資の延長線上」にあるものではありません。AIが自律的に価値を生み出し続けるための土壌を整えること、すなわち「AIReadyな経営基盤」を構築することこそが、2026年以降、企業の生存を分かつ唯一の回答となったのです。
 クラウドを「どこに持っていくのか」ではなく、「AIと共に何を成すのか」──。本書を読み終える頃、あなたは単なるクラウド導入の担当者ではなく、AI時代の新たなビジネスを牽引するリーダーとしての確信を手にしているはずです。

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「AI Ready」とは何か

 AI Readyとは、単にAIを導入できる環境を指す言葉ではありません。それは、「AIを生かすためのクラウド基盤・データ基盤・組織文化・人材スキルが整った状態」を意味します。
 AIは、データを“燃料”とし、クラウドを“エンジン”として動きます。もしクラウド環境が不安定で、データが分散しているなら、AIは力を発揮できません。逆に、堅牢なクラウド設計とガバナンスのもとでAIを展開すれば、企業の競争力は劇的に変わります。
 本書が提唱するのは、この「AI Readyのためのクラウド導入」です。まさにAIを動かすための土台づくりを体系的に実践するための指針を示したいと思っています。
 その中核にあるのが、「Cloud Adoption Framework(CAF:クラウド導入フレームワーク)」です。CAFは海外を中心に数万件以上のクラウド導入プロジェクトで実際に使われ、成功事例・失敗事例から学んだ“実証済みのガイダンス”であることが大きな特徴です。このCAFはMicrosoft、AWS、Google、Oracleなどのクラウドサービス提供事業者で採用されているクラウド導入のベストプラクティスです。本書ではMicrosoftのCAFをベースに解説しますが、根本的な考え方は各社共通です。

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属人的な導入からフレームワークによる成功へ

 クラウド導入はこれまで、SIerや企業担当者の経験や勘に頼るケースが多く見られました。クラウド導入の解説書なども多く出ていますが、その多くは各著者の学習や経験に依存する方法の横展開であり、実際のプロジェクトではそのまま使えないものばかりでした。
 結果として、クラウド移行計画が曖昧になり、組織間の連携も途切れ、「導入したのにROI(投資収益率)が見えない」「クラウド利用コストが制御できない」といった事態が起きています。またクラウド移行をSIerなどの他人任せにすることで、ベンダーロックインと属人化が発生し、高い運用保守費用を払い続けながら、システムを維持せざるを得ない状況に悩まされることが続いています。
 CAFは、こうした属人的な課題を解消するために生まれました。戦略(Strategy)、計画(Plan)、準備(Ready)、導入(Adopt)、ガバナンス(Govern)、セキュリティ(Secure)、管理(Manage)という7つのフェーズを明確に整理し、「クラウド導入を成功させるための標準プロセス」を提供します。
 本書は、このCAFを基軸にした、AI Readyなクラウド基盤を構築・運用する実践ガイドです。単なる技術書ではなく、経営・企画・現場が一体となって進めるための道筋を描きます。

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【目次】

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