その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は杉田浩章さんの『 10年変革シナリオ 時間軸のトランスフォーメーション戦略 』です。

【はじめに】

衰退は、10年前から始まっている

 あなたの会社は、10年後に生き残っていますか。生き残っているとして、現在の主力事業は、そのまま稼ぎ続けていられるでしょうか――
 経営環境の変化がかつてないほど激しいいま、現在の事業がそのまま10年後も通用している、と答える方は少ないだろう。だが、その一方で10年後のあるべき姿を明確にし、いまの主力事業を自らカニバる(自社競合する)リスクを冒してでも、新たな成長を生み出すための変革に着手している、というところは多くないように見受けられる。
 コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻の影響で、目先の利益を維持するのに精一杯だ。次々と競合が表れて、その対応に追われている。当たるかどうかわからない未来の事業に大きく投資するのは、投資家の理解が得られない。だから、変革に着手するのはもう少し先にするのが賢い判断だ……はたして、本当にそうだろうか。

未来の変革を担う方々へ

 本書は、長期の時間軸で強い成長力を取り戻すための戦略を、「時間軸のトランスフォーメーション戦略」と呼び、抜本的な変革を求めている企業に向けて、経営戦略の構想、シナリオ作りと実行のポイントについて解説したものだ。いくつかの事例を使いながら、アカデミックな理論や私自身の実務的な経験を交えて、フレームワークとして提示するものである。
 本書の内容はイノベーションのジレンマ、両利きの経営、ダイナミックケイパビリティ、知識創造企業など、すでに公表されている知見をベースとしている。アカデミックな理論・考察といった観点から、まったく新しい理論フレームを提供することを狙ったものではない。
 「社会的な存在価値が失われつつある企業が、新しい企業体に生まれ変わり、新たな社会的な存在意義を発揮して成長を実現するには」という、多くの企業が直面している問いに、本書は光を当てている。私自身が多くの経営者と議論し、実践してきたことを踏まえて考察し、経営的、実務的に企業が考えるべき視点や論点、あるいは思考の軸を提供したい、というのがこの本を執筆した理由である。
 変革を主導していく経営層や経営チーム、現場リーダーの皆さんはもちろんであるが、将来の変革を主導する若手、ミドルクラスの皆さんに是非とも目を通していただきたい。
 本書で扱うのは、10年を超えるような長い時間軸で変革を続けていくトランスフォーメーションである。その道程は終わりのない、常に新しい世界を切り拓いていく旅であることを考えると、この変革の真の主役は10年後を支えるミドル・若手の皆さんだといえる。本書が変化を渇望し、未来を創ることへのアスピレーションに満ち溢れた人材を一人でも多く輩出することに役立てば、著者として望外の喜びである。

2023年1月 杉田浩章

【目次】

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