その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は矢野香さんの『 最初の15秒でスッと打ち解ける 大人の話し方 』です。
【はじめに】◎あらゆる場面で活用できる「はずさないコミュニケーション」
「周りの人たちとなんだか距離を感じる。無理に合わせることはしたくないけれど、互いに心を開いて自然な関係を築きたい」
「今いる組織やコミュニティで、もっと受け入れてほしい。信頼されたい」
こう考える人は大勢いるでしょう。
さらに、それが新しい環境に飛び込む場面だったら?
新しい環境に飛び込むときは、誰しも勇気が必要です。
新しい職場、新しい学校、新しいチームや新しいコミュニティ……知らない人がいる中で人間関係が始まるとき、「きちんとできるかな」「どう思われるかな」「仲間に入れるかな」と心配は絶えないものです。
自分が属するコミュニティに新しい人が入ってくる場合でも同様でしょう。
チームに新たなメンバーが加入する、新任管理職となって部下育成を任された、先輩として新人の指導を担当する「チューター」となった……考え出すと緊張して、楽しいはずの新しい出会いが不安だらけになってしまうかもしれません。
●誰もが頻繁に直面する「新しい人間関係」
かつては、こうした環境の変化は限られた年齢や時期だけのものでした。
新入生、新社会人という時期を過ぎれば、それほど頻繁に大きな人間関係の変化が起きることはなかったのです。
しかし、働き方や生き方が多様化している現在、年代や立場を問わず、新しい人間関係に飛び込む機会、新しい関係を構築する機会が増えています。
会社員であれば就職や転職、転勤や異動など。組織に属さず個人でビジネスをしている人であれば仕事のたびに新しい出会いがあるかもしれません。さらに、プロジェクトベースの働き方も増えたため、新しいチームに入る、新しいメンバーが入ってくるという局面も多いはずです。
プライベートに目を向ければ、転勤や二拠点生活に伴う引っ越しや移住、趣味のコミュニティや地域の集まりへの参加、ママ友・パパ友との集まりなど、誰もがさまざまな場面で新しい人間関係に飛び込む可能性があります。
集まった人たちの年齢も、出会う時期も、その目的も多種多様な新しい環境においては、「コミュニケーションの正解」もその場その場で変わってきます。
●スッと打ち解けるのがうまい人の「共通点」
そんな中でも、どんな場においてもスッと打ち解けるのがうまい人がいます。
何気ない会話でいつのまにか周囲との枠を取り外し、相手の信頼を勝ち取る。まるで昔からの知り合いのように場になじみ、自然な存在感を発揮する。そんなうまく適応するスキルを持つ人です。
そうした人たちには、ひとつ共通点があります。
それは……、出会って最初の15秒で相手の懐に飛び込んでいるという点です。
なぜ15秒なのか。
これには、心理学と話し方というふたつの観点から見た理由があります。
私たちは初めての人に会うと、相手がどんな人なのかを無意識に読み取り、第一印象をつくり上げます。心理学の研究では、第一印象は、最短で1秒前後から15秒、数分という短い時間で形成され、その後の対人関係に大きな影響を与えることが多数報告されています。
さらに、「話し方」という視点でいえば、15秒は会話の一単位です。
簡単な挨拶をしたり、名前を名乗ったりする最初の「発話」から、それに対する相手のリアクションまでの長さは、およそ15秒が理想です。その後も、互いに15秒以内の会話のやり取りを繰り返してコミュニケーションを続けていきます。たとえば、
「○○さんは長崎のご出身とうかがいました。実は私も長崎出身なんですよ」
「えっ、そうなんですか? 長崎県のどちらですか? 私は佐世保市の出身ですが」
「私は長崎市出身です。俳優の福山雅治さんの実家と近所だったことが小さな自慢です」
というような長さのやり取りです(これは私がよく出身地ネタで使う実話です)。
逆に、15秒以上ひとりで話し続けると、一方的に話す時間が長すぎて好印象を得ることができません。
このように、新しい環境においては、わずか15秒程度の短い会話の間に、この人は仲間に入れて大丈夫か、一緒に仕事ができるかなど、その後の人間関係が判断されてしまうのです。これは初対面に限らず、久しぶりに会った再会の場面でも同じです。
●心理学の知見とNHKキャスターとしての実践
そもそも人と会うときに、誰もが少なからず緊張を感じるのはなぜなのか。
それは、「自分が相手からどう思われるか」がわからないからでしょう。
新しい環境に飛び込むということは、新しく出会った人たちから評価されるということ。どんな場であっても、相手から評価され、認められるための「はずさないコミュニケーション」、これが「コミュニケーションの正解」です。
この正解は、自分のコミュニティに誰かが飛び込んでくる受け入れ側の立場からも有効です。どのようなコミュニケーションをとれば相手に安心して仲間に入ってもらえるか、対応法がわかります。
私の専門は、心理学の対人認知という分野です。話し方やコミュニケーションの違いにより、相手にどう評価されるのかについて国立大学で教員として研究を続けています。
さらにその成果をもとに政治家や経営者、上場企業の役員から学生まで、幅広い層に実践的な話し方やコミュニケーションの指導を続けています。いわば、「他者からの評価を上げる専門家」です。
研究活動に入る前は、主にニュース報道番組を担当するキャスターとして17年間、NHKでアナウンスの仕事をしていました。
「NHKの報道」という現場は、とりわけ信頼性を重要視します。視聴者の方々や取材協力者、局内での職員やスタッフとの人間関係において、「信頼されるための話し方」を徹底的に叩き込まれました。その教えは、毎日のニュース取材において、さらに鍛えられました。
というのも、ニュースは基本的に、その日に起きた出来事を取材し、その日のうちに放送するという短時間勝負。その中で、新たに出会うさまざまな分野の立場の異なる方々と、短時間で信頼関係を築く必要性があるからです。
●言語、非言語。両方が大事
具体的にはたとえば、次のような技術です。何を話すかの「言語」と、どのように話すかの「非言語」の両方があります。
[言語の例]
・忙しい相手の時間を奪わないように「結論から話す」
・文末に「ね」をつけて会話をスムーズに進める
・「でも」や「しかし」で話し始めない
[非言語の例]
・対面での相づちは「深く1回」うなずく
・真剣な話の最中はできる限り「まばたき」は控える
こうした短時間で「信頼されるための話し方」は、プライベートでも大いに役立っています。ふたりの子どもを持つ親として、学校関係や地域社会など多様な人が属するコミュニティでの人間関係を築く上で欠かせないものとなったのです。
心理学の知見と、NHKキャスター時代の実践をもとに、個人としての実体験も活かして執筆したのが本書です。
●仕事でもプライベートでも役立つ極意
本書は2015年に刊行した単行本『「きちんとしている」と言われる「話し方」の教科書』(プレジデント社)を文庫化したものです。
単行本では「新社会人」を対象にビジネスの現場を想定していましたが、文庫化にあたり、世代や状況を問わず、「新しい世界に飛び込む」「新しい人と関係を築く」方向けに大幅に加筆、再編集しました。
具体的には、新しい人間関係が始まる環境において、最初の「15秒」程度の短い時間で、スッと周囲と打ち解け、信頼され評価される話し方の極意を、多くの事例とともに紹介しています。
ビジネスだけでなく、家族関係、友人やコミュニティの仲間などプライベートの場面でも広く活用いただけるでしょう。
さらに文庫化にあたっては、そのまま使える「お助け!フレーズ」や実践テクニックをふんだんに盛り込んでいます。誰かに会う前や会議、プレゼンテーションの直前など、とっさのときにはここだけ拾い読みをして活用いただくことも可能です。
第5章では、私が実際にスピーチ指導の場で行っている具体的な方法もいくつかご紹介しています。政治家や経営者、上場企業役員といったエグゼクティブから大学での講義を受講している学生まで、幅広い層の方々が実践し、その成果が心理学的に立証された自分でできる簡単な話し方の改善方法です。ぜひ読むだけに終わらず、挑戦してみてください。
●適切なコミュニケーションをとるスキル
本書の内容を試していただくことで、新しい人間関係であっても緊張や遠慮を感じさせず、周囲とスッと打ち解けることができます。
これは単に「話がうまい」というだけではありません。
相手の気持ちを理解し、適切なコミュニケーションをとることができるからこそ実現することです。
現状のコミュニティでコミュニケーションがうまくいっていない人であっても、今日から、さらに新年度、新年、新しい月などの「新しい」タイミングに、本書のスキルをうまく取り入れることで、「新たな関係」を築き直すことが可能になります。
最初に打ち解けることができるかどうかは、その後の信頼関係を築くことができるかどうかの分かれ道となります。ビジネスの場であれば、結果として高い成果につながり、プライベートの場であれば、より快適な望ましい関係を築くことができます。
あなたが新しい環境で望ましい人間関係を築くために、本書のスキルを試していきましょう。応援しています。
2024年3月
矢野 香
【目次】





