その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は岡本浩さん、高野雅晴さんの『 経営に活かす生成AIエネルギー論 日本企業の伸びしろを探せ 』。「プロローグ」をお届けします。

【プロローグ】

「More from Less(モア フロム レス)」という挑戦

 私たちは今、重要な岐路に立っています。気候変動への対応として脱炭素化が求められる一方で、日本社会は急速な人口減少という課題にも直面しています。

 内閣府の「令和4年版高齢社会白書」によると、日本の生産年齢人口(15~64歳)は2035年までにピーク時の1995年の約74%まで減少すると予測されています。

 つまり、かつては4人で行っていた仕事を3人で行わなければならない時代が、すぐそこまで来ているのです。しかし、それだけではありません。以前と違って高齢者人口は増加を続け、2035年には総人口の約33%を占めると予測されています。このことは社会保障費の増大を意味し、GDP(国内総生産)はさらに低下すると考えられます。

 単純計算すると、3人の生産年齢人口で、4人分の仕事をこなし、さらに増大する社会保障費をまかなうためには、生産年齢人口1人あたりの生産性を1995年当時の約2.7倍に引き上げる必要があります。これは1995~2035年の40年間、コンスタントに年率2.7%の生産性上昇を必要とし、1995年から2025年現在までの1人あたり生産性向上が、実際には年率1.3%程度であったことを考えれば決して容易なことではないとわかるでしょう。

 この未曽有の課題を解く手がかりはあるでしょうか。

 MIT(マサチューセッツ工科大学)の科学者アンドリュー・マカフィーが著書『More from Less(モア フロム レス):資本主義は脱物質化する』(日本経済新聞出版)で驚くべき可能性を指摘してくれています。すなわち、デジタル技術を活用することで、資源使用量を減らしながら社会の生み出す価値を高めることが可能になるというのです。

 例えば、従来型の工場では100人の作業員が必要だった製造ラインが、AIと電化により50人で運営可能になる。しかも、単なる人員削減ではなく、その50人がより創造的な業務に携わることで、むしろ工場の生産性と付加価値が向上する――。

 このような劇的な生産性向上は、従来の延長線上の改善では達成できません。加えて私たちは、脱炭素化という課題も与えられています。もちろんそのためのエネルギー転換は不可欠ですが、脱炭素化されたエネルギーを何のために使うのか、その目的にまで立ち返らなければ劇的な変化を起こすことはできません。元来、エネルギーは私たちの生活と産業のためにあるのです。

 目的を忘れて脱炭素化を進めれば、単なるコストアップとなって経済活動を圧迫するおそれもあります。テクノロジーには同時並行的に変化を起こす「共進化」が必要であり、AIを含むデジタル技術の活用は、脱炭素エネルギーの開発や利用と並行的に取り組むことが求められます。

 つまり、日本社会にとって、いちばん大事なことは生産性を上げることです。それも単に生産性を上げるだけでは間に合わない。「モアフロムレス」すなわち「より少ないものから、より多くを生み出す」という踏み込んだ考え方が必要になります。突飛な発想のように思われるかもしれませんが、決して不可能ではありません。

 AIやデジタル技術の活用、そして社会全体の電化により、投入する資源(人材、エネルギー、原材料)を減らしながら、生み出す価値を倍増させる――。

 そのために解決すべき課題はいくつかあります。

 本書では、生成AI時代に有限の資源であるエネルギー・電力を有効に利用できる社会をつくるために、今、何に、どのように取り組めばよいのかについて、読者の皆さんにヒントとなる情報を提示し、ともに考える機会としていただきたいと思います。

 まず第1章では生成AIが引き起こしつつある電力消費の急増問題に迫ります。第2章では、AIバブルの過熱とデータセンターに必要なエネルギーのグローバルな獲得競争の現状を追います。

 第3章では「より少ないものから、より多くを生み出す」ための具体的な実現手段として、電力グリッドとデジタルインフラの融合による「MESH(Machine-learning Energy System Holistic)」というコンセプトを提案します。MESHの社会実装を通じて、「デジタル・エネルギー・モビリティ(人体になぞらえれば神経・血管・筋肉)」の3つが統合された地域の新たな公益事業の担い手であるUtility 3.0が実現されることを示していきます。

 さらに第4章では、地域や第一次産業の課題解決に、AIとエネルギーを組み合わせる取り組みを紹介し、第5章では、再生可能エネルギーからAIを捉え直すことで、日本企業が目指すべき道筋を示します。第6章では産業分野のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進者であり、AI政策にも精通する西山圭太氏、AIの第一人者である松尾豊氏を招いた鼎談を収録します。第7章では、AIなどテクノロジーが指数関数的に進化していく変革の時代に経営の軸となりうるAIエネルギー思考と、その先で私たちが目指すべきは、宇宙・自然と調和した「懐かしい未来」であることを述べていきます。

 本書が、生産性の伸びの停滞が続く日本企業の経営を考える上での一助となることを願っています。なお、本書には、筆者らが属する組織のものではない筆者ら独自の見解も含まれていることにご留意ください。

【目次】

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