その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は荒木博行さんの 『世界「失敗」製品図鑑 「攻めた失敗」20例でわかる成功への近道』 です。



【はじめに】

ネガティブリスト型学習の可能性

 前書 『世界「倒産」図鑑』 が出版されて約2年が経ちました。お陰様で『世界「倒産」図鑑』は多くの人に読まれ、イベントやSNS、ブログや書評などを通じて多くの声に触れることができました。

 その代表的な言葉は、「失敗からの学びは得るものが多い」というものです。「先人たちのネガティブな経験を今日に活かしたい」という動機で執筆しましたから、これはまさに狙い通りのものでした。

 世の中のルール設定の場面では、「ポジティブリスト」と「ネガティブリスト」という2つの対極的なアプローチがあります。ポジティブリストというのは、やっていいことだけを記載し、それ以外のことを禁ずるというもの。一方のネガティブリストは、やってはいけないことだけ記載し、それさえ避ければ何をやってもいいというものです。

 想像すればわかる通り、ネガティブリストの方が臨機応変な対応が可能になり、試行錯誤がしやすくなります。そして、これはビジネスの世界においても同じ。つまり、成功事例を通じて「こういうことをやるべし」というポジティブリスト型の学習ではなく、失敗事例を通じた「これだけは避けておくべし」というネガティブリスト型の学習の方が、その後の試行錯誤の可能性は広がっていくのです。

「失敗」とは何か

 しかし、前書ではそのような手応えを感じつつも、読者からの感想には、どこか「倒産というものは他人事」というようなニュアンスが感じられることも確かでした。これは、私自身の筆の力もあるのでしょうが、そもそも倒産を経験したことがある、もしくは倒産を身近な事象だと捉えている人はそれほど多くないということにも起因していると感じました。

 であるならば、ストレートにビジネス上の失敗を図鑑形式にまとめることで、よりダイレクトな学びを提供できるのではないか……。そんな仮説をもとに、日経BP社の中川ヒロミさんと議論を重ねてできあがったのが本書です。

 したがって、今回のテーマは「倒産」ではなく、新製品や新サービス、もしくは新規事業の「失敗」です。前書との大きな違いは、倒産のような定義が明確な事象ではなく、失敗というちょっと曖昧(あいまい)な言葉が中心になっていることです。

 では失敗とは何か?「失敗学」で著名な畑村洋太郎氏の『失敗学のすすめ』には、こう定義されています。

 「人間が関わって行うひとつの行為が、はじめに定めた目標を達成できないこと」
 「人間が関わってひとつの行為を行なったとき、望ましくない、予期せぬ結果が生じること」

 やはり曖昧な定義ではありますが、本書ではこの表現をお借りして、「高い期待値を持ってスタートしながらも、想定通りの結果を出せずに途中で挫折せざるを得なかった製品・サービス・事業」を失敗として取り扱っています。
 「そんな広い定義だったら、身の回りにごまんとあるじゃないか!」
 と感じられたのだとしたら、まさにその通りです。「想定通りにいかなかった」という事業や製品・サービスは周囲にたくさんあるでしょう。ひょっとしたら、その経験の中には自分自身が当事者だったものもあるかもしれません。

 つまり皆さんの失敗体験との身近さから来る学びのダイレクトさこそが本書の狙いなのです。

 皆さんには本書の事例を通じて、「あ、これうちの部署で起きていることだ。やばい!」というくらいにリアリティを感じてほしいと思っています。

 なお、リサーチは全て公開情報のみにしました。直接関係者から聞き取った非公開情報を盛り込むと、かえって書ける情報が限定されてしまう可能性と、「これから私たちがどうしていくべきなのか」という解釈に重きを置きたかったことが背景にあります。

 もしそれぞれの「失敗」の経緯についてさらに深く知りたい、という場合は、参考にした書籍や記事を掲載しておきますので、そちらをご参照いただければ嬉しいです。

「チャレンジ」と「失敗」はセット

 そして、何よりも本書を通じて受け取っていただきたいメッセージは、「失敗は必ずしも避けるべきことではない」ということです。もちろん、過去の先人たちと同じ失敗を繰り返すことは回避すべきでしょう。しかし、新しいことにチャレンジする以上、失敗はついてきます。「チャレンジ」と「失敗」はセットメニューであり、単品注文はできないのです。

 実際に本書を読んでいただければわかる通り、取り上げた著名な企業たちは、手痛い失敗を経験しながらも、その失敗を教訓に変えて今日の成功へとつなげていっています。だからこそ、過去の失敗から学びつつ、過度に失敗を恐れずにチャレンジしてほしい。これこそが、本書の最大のメッセージです。

 さて、それでは本書の構成を紹介しておきましょう。

 第一部は、事業構造そのものを学ぶことができる事例をラインナップし、第二部は、事業構造の外側にある「大きな力学」を学ぶための事例となります。

 第一部の失敗事例からは比較的スタンダードな事業づくりのアプローチを学ぶことができると思います。一方で第二部は、合理性を超えた大きな力の存在が理解できる失敗事例です。どれだけ上手くビジネスを作ったとしても、タイミングが悪ければ成功には至りません。そして、そのタイミングというのは、得てしてこちら側のコントロール外にあるのです。第二部では、このような「運が悪かった」とも言うべき事例をピックアップしています。もちろん、それらの事例からも、その後のリカバリーなど私たちが学べることはたくさんあるはずです。

 なお、第一部の事業構造については、ユーザー視点、競争ルール、そして社内不全という3つの観点に基づいた整理をしています。別の言い方をすれば、3C(Customer:市場・顧客/Competitor:競合/Company:自社)という視点になります。事例をご覧いただければわかる通り、これらのカテゴリーで必ずしも綺麗に分けられるわけではないのですが、やはり3つのCを正しく理解しておくことは、ビジネスの基本。新しいチャレンジを仕掛けていく上でのシンプルなチェックリストになるのです。

 また本書では、前書『世界「倒産」図鑑』のフォーマットを踏襲し、
・どういう製品だったのか?
・どのように失敗に至ったのか?
・なぜ失敗したのか?
・私たちへのメッセージ
 という構成で失敗事例を解釈し、そして最後に失敗に至る筋道を時系列でライフラインチャート的に記載しています。前書に引き続き、チャートの縦軸はその事業の売上や利益ではなく、私の個人的な主観で、「事業の幸福度」と捉えていただければと思います。正確なものではありませんが、わかりやすさを重視して、この事業がどのように推移していったのかがご理解いただけるはずです。

 なお、この本に添えられたイラストは、私自身によるものです。一見ネガティブな失敗事例に、親しみやすさ、ひいては当事者意識を感じてもらうことが狙いです。

 さて、それではそろそろ具体的な中身に入りましょう。

 過去の先人たちの苦い経験から何を学ぶべきか、そして私たちはこれからどうしていくべきか、共に考えていきましょう。

【目次】

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