その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はチップ・コンリーさんの 『モダンエルダー 40代以上が「職場の賢者」を目指すこれからの働き方』 です。

画像のクリックで拡大表示


【はじめに】

ブライアン・チェスキー(エアビーアンドビーCEO)

 チップ・コンリーと彼がAirbnb社(エアビーアンドビー)で果たしてきた「新しい年長者」(モダンエルダー)の役割を読者の皆さんにわかってもらうには、はじめにこの会社のつつましい創業のきっかけを知ってもらわないといけないだろう。

 2007年10月、ジョー・ゲビアと僕は、サンフランシスコのローシュ・ストリートにあるアパートでルームメイトとして一緒に暮らしていた。家賃が上がってしまい、このままだと部屋を立ち退かなければならないところまで追い詰められた。ちょうどその頃、サンフランシスコで国際デザイン会議が開かれる時期で、ホテルの部屋がすべて満室になっていることに気がついた。そこで、会議の参加者に僕たちのアパートの空き部屋を民宿がわりに使ってもらおうと思いついた。

 クローゼットから3枚のエアマットレスを引っ張り出して、会議に参加する人たちに朝食付きの宿泊場所を提供することにした。3番目の共同創業者になったネイサン・ブレチャージクの助けを借りて、ウェブサイトを作った。それがエアベッドアンドブレックファスト・ドットコム、つまり今では皆さんがご存知のエアビーアンドビーだ。このちょっとした思いつきが今のようになるとは、もちろん僕たちだってまったく想像していなかった。

 この本が出版される時点(2018年9月)で、エアビーアンドビーは191カ国で2億5000万人を超えるゲストを迎えている。コミュニティは400万を超える部屋を提供した。これは世界の5大ホテルチェーンを合わせたよりも多い部屋数だ。この世界のどんな場所からやってきた旅行者でも、エアビーアンドビーが提供する部屋では「自分の居場所」のように安らげる。

 「誰でもどこでも居場所が見つかる世界」という考え方は、一見矛盾するようだがデザインの力で解決できる課題であり、これこそエアビーアンドビーが負う使命だ。人は誰しも自分の居場所が欲しいと思うものだ。そして、自分が受け入れられたと感じるときに、居場所ができる。「どこでも」には2つの意味がある。そのひとつはもちろん、地理的にどんな場所でも、という意味だ。エアビーアンドビーのホストは世界中の6万5000の都市や町や村で旅行者を受け入れている。だが、もうひとつの意味はもっと深い。それは、「馴染みのない場所」、つまり普段の自分とは違う自分を発見できる場所という意味だ。いつもの枠からはみ出してみることで、最高の自分になれると僕たちは信じている。

 そんな旅行体験こそ人生を変えてくれるし、エアビーアンドビーの存在意義もそこにある。

 だが、僕が最初にチップ・コンリーに会った2013年、エアビーアンドビーはまだはじまったばかりだった。その頃にはもう400万人近いゲストが世界中のホスト宅に宿泊していたけれど、僕たちはただのテクノロジー企業だと思われていた。でも、ジョーもネイトも僕も、この会社がそれ以上の存在になれるとわかっていた。貸し部屋のシェア会社じゃない。泊まる場所を提供するだけではなく、そこで何をするか、誰と一緒にするかを探す手助けができるコミュニティを僕たちは目指していた。言い換えると、旅行の一から十まですべてを助けるパートナーになることだ。つまり僕たちの商品は「おもてなし」だった。ただ問題は、おもてなし、つまりホスピタリティーの本質と仕組みを僕たちが十分に理解していないことだった。

 そこで僕は、何か学びたいことがある時にいつもやることをやってみた。その道のプロ中のプロを探して相談に乗ってもらえるか聞いてみたのだ。

 エアビーアンドビーを海外展開しはじめた時、僕はフェイスブックCOOのシェリル・サンドバーグに知恵を借りた。プロダクトデザインではアップルのシニア・バイスプレジデントだったジョニー・アイブからお金にはかえられない貴重な知見をもらった。企業文化をじっくり考えるにあたっては、CIA長官だったジョージ・テネットに助けを求めた。

 ではホスピタリティーとサービスを知り尽くした世界的な権威は誰だろうと聞き回った。みんなが口々に唱えた名前がチップ・コンリーだった。

 チップ・コンリーはホテル業界を破壊し、ブティックホテルというジャンルを確立した人物だ。僕たちがエアビーアンドビーを立ち上げたのと同じくらいの歳で、チップ・コンリーはジョワ・ド・ヴィーヴル・ホスピタリティーという会社を創立し、CEOとして24年のあいだに50を超えるブティックホテルを作り経営してきた。チップと僕がはじめて会ったのは、2013年に本社で開いた社員との座談会に来てくれた時だった。チップはマズローの欲求5段階説をホスピタリティーに当てはめて説明し、ジョゼフ・キャンベルが説いた物語の構造についての深い理解を語ってくれた。その話を聞いて、彼の知識は僕たちにとってかけがえのない価値があるとわかった。

 そこで、チップの自宅で夕食を取ったあと、僕は何とか彼を説き伏せて、パートタイムでエアビーアンドビーのアドバイザーを務めてもらうことにした。アドバイザーになってもらって間もなく、グローバル・ホスピタリティー&ストラテジー部門の責任者になって欲しいと頼んだ。チップなら、エアビーアンドビーを、僕が思い描いていた国際的なホスピタリティーブランドに変える力になってくれるとわかったのだ。それに何より、僕もチップも、エアビーアンドビーが数億人ものマイクロ起業家の力を解き放ち、彼らが優れたホストになって新しいホスピタリティーの基準を確立する助けになれると信じていた。

 実を言うと、創業間もない頃は、エアビーアンドビーの中で「ホスピタリティー」は卑(いや)しい言葉だと思われていた。ホスピタリティーはホテル業界のやることで、ゲストは「旦那さま」「奥さま」と呼ばれ、何もかもが単なる取引に過ぎず、心の触れ合いがないと思っていたのだ。

 チップはエアビーアンドビーがこれまでとは違うホスピタリティーを実践できると教えてくれた。エアビーのホストはゲストを名前で呼ぶ。ゲストに居場所を感じさせるのは、家や空(から)っぽの空間ではなく、人なのだ。エアビーアンドビーは、ゲストを自分の家に迎え入れることで、ゲストの人となりを知り、彼らの人生の物語に耳を傾け、一生の友になることさえある。そのホストにしかできない、本物のホスピタリティーを実践する。

 チップはまた、スタンフォード大学のキャロル・ドウェック博士が提唱した「しなやかマインドセット」の力を僕とジョーとネイトに教えてくれた。しなやかマインドセットとは、好奇心を持って世界を見る姿勢だ。このマインドセットを持っていると、リスクと想像力が結びつき、新しい可能性の扉が開かれる。エアビーアンドビーの基本理念のひとつが「冒険を楽しもう」なのは、偶然ではない。世の中の多くの人は「硬直マインドセット」に囚(とら)われて、変革する力や問題解決力が損なわれている。だがチップは、旅人はいつも驚きや不思議を感じたいと思っていることを僕たちに教えてくれた。そして、時を超えた果てしない好奇心を持ってホスピタリティーに取り組むことを示してくれた。

 だがそれより何より、チップは「モダンエルダー」がお互いから学び合う力を見せ続けてくれた。人には誰しも語るべき物語があり、ともに高め合うことを、チップは教えてくれた。そして僕にとってはそのことが何よりも重要だし、「世界中のどこでも居場所にする」というエアビーアンドビーの使命を、彼の姿勢が代弁してくれている。

 この本を読むことは、仲間や信頼できるアドバイザーに教えを乞(こ)うようなものだ。これまで僕は何度もそうしてきた。チップは、初心者の学び成長する力を育てる指導者に、そして人生の経験から教訓を与える賢者のようなカウンセラーになってくれるはずだ。

 チップは皆さんに、知恵は年齢とは関係なく、取り組む姿勢がすべてだと身をもって見せてくれるだろう。皆さんが目と耳と心を開けば、どんな人にも聞くべき物語があることを教えてくれるだろう。

 そしてあなたがじっくりと注意を払っていればいつか、あなたの物語が誰かを助け、その誰かが物語を書き記すことになるかもしれない。



【目次】

画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示