その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は曽和利光さんの『 採用に強くなる(日経文庫) 』です。

【はじめに】

 「欲しい人材になかなか出会えない、会っても辞退されてしまう」「そもそも採用手法が合っているのか分からない」「せっかく入社してくれてもすぐに離職してしまう」

 これらの言葉はすべて、私が人事コンサルティングの仕事を通してお会いしてきたお客様から、よく聞いてきた言葉です。

 私たちが暮らす日本は今、未曽有の採用難時代を迎えています。新卒採用においては、2026年卒の大卒求人倍率が1.66倍1、中途採用の転職求人倍率も2.50倍2となっています。完全な売り手市場(企業よりも候補者が強い市場)です。この状況は少子高齢化に伴い、ますます顕著になっていくことが想定されます。

 また、人手不足に加え、候補者が働く環境として求めるものも多様化してきています。たとえば、中途採用においては、「給与が低い」「仕事内容への不満」「会社の将来性への不安」といった理由が転職を始めたきっかけとして多いことや、「収入アップ」「希望エリアでの勤務」「休日・残業時間の適切さ」が転職活動における軸として多い3ことが明らかになりました。新卒採用においては、内定承諾の最終的な決め手として「自分のやりたい仕事ができるかどうか」が1位4になっています。それだけではなく、学生は理想の上司像として「積極的に話しかけてくれる」「手取り足取り教えてくれる」「フラットな上下関係」を求めている5ことが分かりました。このように、候補者が企業を比較検討するための条件が増えたことによって、企業側が従来のやり方のまま採用活動を続けても成果が出にくくなっているのです。

 このような状況下だからこそ、人事・採用担当者は幅広く採用に関する知識とスキルを身に付けなければなりません。人事には、「採用」「育成」「配置」「評価」「報酬」「代謝」の6機能があります。そしてすべての機能は一貫性を持たせる必要があります。どれか一つだけを強化しても、それぞれがバラバラの方針で実施されても、意味がありません。中でも「採用」は、企業が目指すべき将来にたどり着くために、どのような人材を確保すべきかを考える仕事です。つまりは、組織の未来を決める仕事なのです。

 企業が採用活動を行う目的は、企業の「維持」と「成長」のためです。何もしなければ組織の社員は定年や転職によって減っていきます。そのため、組織の活動を継続するための人員の確保が必要です。事業の立ち上げや拡大においても、新しい人材を確保していくことが必須となります。

 また、ただ単に人員を確保すればよいわけではありません。先ほど述べたように、人事はすべての機能に一貫性を持たせる必要があります。そのために、人事には、会社の将来像を見据えた上で必要となる人材を、経営層や現場社員と一緒にすり合わせて設定していくことが求められます。この際、経営層と現場をつなぐことも人事の役目の一つです。

 すり合わせる上では、長期的な目線も必要になります。特に、新卒採用は、短期的な視野で行うことを避けなければなりません。新卒採用は企業と学生がお互いに数年後の姿を見通しながら行うべきです。新卒採用戦略を短期的な事業計画や現場のニーズに合わせてしまうと、年によって方向性が異なる採用活動となってしまい、最終的に事業戦略にまで影響を及ぼしかねません。加えて、適切な採用施策を講じるための労働市場の知識のキャッチアップや、優秀な候補者に辞退されないためのフォローのスキルも人事にとって必須です。

 採用の仕事は人が確保できたら終わりではありません。せっかく入社してくれても、定着できずすぐ辞めてしまったり、企業側が期待した活躍が見られなかったりしたら、お互いにとって不幸な結果と言わざるを得ません。次世代キャリア研究所の調査によると、26、27年卒の就活生の5割近く、23~25年卒の新社会人の8割近くは、5年以内に転職する方針で就職活動を行っている、ないしは働いていることが明らかになりました6。つまり、社員を採用することだけでなく、社員を定着させることも難しい時代が来ているのです。

 私は大学で心理学を学んだのち、リクルート、ライフネット生命、オープンハウスなどに在籍し、一貫して人事と採用の仕事に従事してきました。

 リクルートでは、当時リクルート事件などで劣化した採用ブランド下で、優秀な人材を確保するためのスカウト型採用の実施や、獲得した人材の活躍を目的としたモチベーション・マネジメントに取り組みました。採用難な状況だからこそ、企業の目指すべき将来のために、採用担当者はプロフェッショナルでなければなりません。そのためにも、採用担当者は、労働市場や採用手法、候補者のフォローや入社後の定着に至るまでの幅広く専門的な知識を、体系的に身に付ける必要があるのです。本書は、これまでの私の人生を通して培った経験と知識を詰め込んだ、「採用を“点”ではなく“線”で捉えられるようにするため」の入門書です。特に、最近採用に携わり始めた方にとっての教科書として役立つ内容となっています。

 具体的には、本書は全7章で構成されています。人事の仕事は、「採用」「育成」「配置」「評価」「報酬」「代謝」の各領域はそれぞれ別のテーマに見えがちですが、実際の現場では一つの判断が次の領域に影響し、結果として、採用の成功や定着の良し悪しに大きな影響を与えます。本書は、そのつながりを理解しながら、各領域の知識を順番に積み上げていけるように章立てを設計しました。

 第1章では労働市場の基礎知識として、採用の歴史を振り返っています。なぜ今、採用がこれほど難しく感じられるのかを、単なる景気や流行だけではなく、社会構造の変化として捉えるための視点を整理しています。

 第2章では企業における採用がどのようなプロセスから構成されていて、設計をする上で押さえるべきポイントをまとめました。また、どんな経営戦略や事業戦略を前提に設計するのかによってどのように採用戦略が変わるのかについても述べています。

 第3章では採用マーケットを踏まえた採用手法であるスカウト型採用を紹介しています。求人広告、紹介、スカウトメディア、リファラルなど、手段の選択は自社の採用ターゲットと市場環境に合わせて最適化する必要があります。また、それぞれの手法をさらに効果的にするために必要なことも一緒に整理しています。

 第4章では各選考手法の役割やメリット・デメリット、そして「何を見極めるために使うのか」という目的を整理しています。ばらつきが生まれやすい面接の評価基準の差を最小化するために構造化すべき部分や、ターゲットの設定における工夫などを解説しています。

 第5章では候補者に自社への入社を決めてもらう動機形成(口説き)のポイントを紹介しています。いくら選考を通して候補者を見極められたとしても、候補者が納得しなければ入社には至りません。候補者と信頼関係を形成する上でのコツや、候補者に伝えるべき自社の魅力とその伝え方、タイミングなどを、候補者心理と一緒に解説しています。

 第6章では入社後の定着について、育成・配置などを連動させて考えています。入社後のつまずきは本人の問題だけではなく、受け入れ側の設計不足で起きることも少なくありません。また、離職防止について、人事機能の出口である「代謝」(新陳代謝)機能をどのようにマネジメントするのかを述べています。

 第7章では入社後に活躍する人材の特徴と、活躍人材の定着のための施策をまとめました。「採用で終わり」ではなく、「入社後の活躍までつなげる」視点で、人事や採用担当者ができる打ち手を整理しています。

 バラバラなようでいて、各機能がどのように連動しているのか、人事に求められる「一貫性」とは何かを、本書を読んでいただければ網羅できるように書かせていただきました。もちろん、興味のある章を選んで読んでいただいても構いません。ただ、もし「採用がうまくいかない理由が分からない」「場当たり的な改善から抜け出したい」と感じているのであれば、第1章から順番に読み進めていただくことで、課題の原因と打ち手が一本の線としてつながっていくはずです。

 採用は、単に「人を増やすための活動」ではなく、事業戦略を実現するために必要な人材を定義し、集め、見極め、動機づけ、入社後に活躍してもらうまでの一連の取り組みです。採用難の時代にこそ重要なのは、採用した人材を“定着させる”だけでなく、“活躍へつなげる”ことなのです。優秀な人材が能力を発揮できる環境を整えていくことが、結果として、企業の目標達成にもつながっていくのです。

 だからこそ、採用は人事だけで決まるものではなく、現場の受け入れ体制や育成・評価・配置の仕組みとも密接に結びつけて考えていかねばならないのです。本書が、採用活動を部分最適ではなく全体最適の視点で見直すきっかけとなり、「なぜうまくいかないのか」「どこを変えればよいのか」を可視化する助けになれば幸いです。そして、本書がその第一歩として、皆さまの現場で実施できる施策、もしくはそのヒントを提供できることを願っています。

1 リクルートワークス研究所(2025)「大卒求人倍率調査(2026年卒)」 https://www.works-i.com/surveys/report/250424_recruitment_saiyo_ratio.html
2 パーソルキャリア株式会社(2025)「転職求人倍率レポート(2025年10月)」
3 マイナビ(2025)「2027年卒 大学生キャリア意向調査(11月)〈インターンシップ・キャリア形成活動〉」 https://career-research.mynavi.jp/reserch/20251212_105189/
4 リクルートマネジメントソリューションズ(2025)「2026年新卒採用 大学生の就職活動に関する調査」 https://www.recruit-ms.co.jp/news/pressrelease/7236681484/
5 マイナビ(2025)「転職活動実態調査(2025年)」 https://career-research.mynavi.jp/reserch/20250924_102151/#i-6
6 次世代キャリア研究所(2025)「次世代キャリア研究所、始動! 20代は『キャリアビルダー』が激増。──内定式シーズン、新卒の8割が『転職前提』の就職。」 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000143.000040832.html

【目次】

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