その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は石田哲也、岩城一郎、日経コンストラクション(編)の『 インフラメンテナンス大変革 老朽化の危機を救う建設DX 』です。

【はじめに】

 多くの人々にとって、橋や道路、上下水道、土工といったインフラが正常に機能するのは当たり前のことだ。日常の中で、その存在を意識することすらない。しかし、ひとたび不具合が発生すれば、私たちの平穏な日常は一変し、失って初めてそのありがたみを知る。本書を上梓する2025年1月、埼玉県八潮市で大規模な道路陥没事故が発生した。今後、詳しい原因究明がなされることで詳細が明らかになるだろうが、何らかの理由で道路下に空洞が形成され、それが知らぬ間に拡大し、ついには大きな予兆もなく突然道路が陥没した。こうしたリスクは、私たちの社会の至る所に潜んでいる。

 インフラの劣化は、気づかれない形で静かに進行する。また、その劣化速度は状況によって大きく異なる。劣化が顕在化し手に負えなくなる前に、タイムリーなアクションを打つことが極めて重要だ。しかし、重要と分かっていても、目の前で実際に問題が起こらなければ、人はなかなか動かない。そこで、先手を打つためには、さまざまな技術を駆使することが求められる。例えば、人の目では検知できないものを可視化することで劣化の進行を確実に捉える、あるいは数値解析を用いたシミュレーションにより劣化の進行を予測し、様々な未来のシナリオを想定して、ライフサイクルにわたって最適な対策を講じることなどが挙げられる。デジタル技術と基礎研究の発展により、こういった取り組みがインフラメンテナンスの世界に大変革をもたらしつつあるのだ。

 本書は、その変革の一翼を担う社会実装プロジェクトの動きについて取りまとめたものだ。2023年に開始した内閣府の第3期戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の課題の一つ、「スマートインフラマネジメントシステムの構築(プログラムディレクター:東北大学大学院、久田真教授)」のサブ課題B「先進的なインフラメンテナンスサイクルの構築」の研究開発担当者が中心となって執筆している。

 サブ課題Bには、産官学の多様なメンバーが、それぞれの強みを生かして参画している。社会実装を着実に進めるためには、チームが目指すべきビジョンの形成とゴールの明確化が不可欠であり、さらに、それらを実現するための具体的な方法論を確立し、研究成果の現場適用と検証・改良を積み重ねていく必要がある。また、国・自治体やインフラ事業者との協議や折衝も欠かせない。これらを一体として推進するには、組織を超えた緊密な連携と調整が求められる。試行錯誤を重ねながら社会実装を進める中で、その軌跡を記録にとどめることにした。本書を手に取った方々が、「インフラメンテナンスは面白い、自分もやってみたい」と感じ、そこから新しいプロジェクトが動き出し、全国へと広がっていくことを願っている。

 ハーバード大学教授のダニ・ロドリック氏は次のように述べている。「公共投資は資産を消費するのではなく、蓄積されるものである。資産の収益率が資金調達コストを上回る限り、公共投資は政府のバランスシートを強化する」。世間一般では、公共投資による需要と雇用の増大という景気刺激策がよく語られる。これは、いわゆるフローとしての公共投資の効果である。このような効果が期待されることは当然だが、財政均衡やマクロ経済の安定といった観点から批判を受けることも少なくない。しかし、インフラは整備に伴うフローの効果にとどまらず、ストックとしての役割こそが本質である。ロドリック氏は、2004年以降のエチオピアにおける年平均10%以上の成長率の実現、顕著な貧困削減、さらには保健衛生の向上を、公共インフラ投資の成果と分析している。インフラのストック効果が生産性や利便性を向上させた。

 公共投資により形成されるインフラは、国家の繁栄を支える基盤である。インフラ整備にかかるコストは、単なる支出ではなく、将来にわたって価値を生み出し続けるための先行投資だ。しかし、インフラが適切に維持されなければ、その価値はすぐに損なわれ、政府のバランスシートを悪化させるなど、国全体の持続可能性にも影響を及ぼす。インフラメンテナンスは、安全・安心な社会を築き、持続可能なインフラを実現するために欠かせない営みであると同時に、資産価値を高め、未来を形作る戦略的な投資なのだ。

 本書を通じて、インフラメンテナンスが単なるルーチンワークではなく、挑戦的で、創造的で、カッコよく、そして未来を切り拓く力を持つと感じ取ってもらえたらうれしく思う。

SIP第3期「スマートインフラマネジメントシステムの構築」
サブ課題B 研究開発責任者
東京大学大学院 教授 石田 哲也

【目次】

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