その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は日本経済新聞社の 『戦後日本経済史』 です。
【まえがき】
本書は『日経プレミアシリーズ 日本経済を変えた戦後67の転機』(2014年1月刊)を、『戦後日本経済史』と改題し、加筆して日経文庫化するものです。
1990年前後のバブル経済が崩壊し、「失われた20年」とも言われ、長く低迷してきた日本経済にもようやく明るさが見え始めました。安倍晋三政権(当時)による大胆な財政出動や、日銀による大規模な金融緩和など、いわゆる「アベノミクス効果」で、円安や株高が進んでいることが背景です。
しかし、今の日本経済を取り巻く環境をよく考えれば、とても手放しで喜べる状況にはありません。国と地方の借金はすでに1000兆円を超え、国内総生産(GDP)に対する日本の債務残高の比率は世界で最も高い水準です。日本の人口は2011年をピークに減少に転じ、年金、医療、介護など高齢者向けの社会保障費は膨らむ一方。今なおあちこちに残る過度の規制など、見渡せば、日本が改革すべきことはまだまだ残っています。
かつて、日本は戦後の復興を驚くべきスピードで成し遂げ、1960年代後半には米国に次ぐ世界第二位の経済大国にのし上がりました。ソニーやホンダなど、革新的な企業も次々登場。世界がうらやむ成長と技術力、そして豊かさを手にしました。
はたして、いま日本経済が抱えるさまざまな問題点はいつ、どのように生じてきたのでしょうか。当時の政策判断の背後に何があり、決断に誤りはなかったのか。驚異的な成長をとげた日本の強さの本質から学べるものはないか。当時を知る証言者に直接あたって、戦後日本経済の源流に迫れば、改めて見えてくるものが多いのではないか――。
本書は、そんな問題意識のもと、2012年5月から13年8月まで、日本経済新聞で毎週日曜日に掲載した「経済史を歩く」の記事を一部修正し、まとめたものです。取材、執筆にはベテラン編集委員や記者27人があたり、できるだけその出来事が起きた場所や人物を具体的にたどるようにしました。世界でも類を見ない高度成長をとげた栄光とバブル崩壊という挫折。そこには日本経済がたどった歴史や教訓が詰まっています。
文中に登場する人物の名前は敬称略とし、肩書きや年齢は掲載時点のままとしました。時系列で読んでも、関心のあるテーマから読んでも構いません。
「いま起きている出来事には出発点がある。源流をたどると忘れていた断面が見える。経済史を歩く」――。さて、あなたはどの時代にタイムスリップしますか?
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日経文庫化に当たって、本論で取り上げた復興、経済大国化、バブル崩壊につづく停滞の時代をカバーする、「補論 停滞――失われた20年」を新たに掲載しました。戦後日本経済に何が起きたのかをトピックスを中心にハンディに解説した本として活用していただければ幸いです。
2022年3月 日本経済新聞社
【目次】