その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はブレント・ダイクス(著)、玉利文吾(訳)の『 データストーリー説得技法 データ 筋書き 視覚化で経営を動かす 』です。「はじめに」と「訳者あとがき(抜粋版)」をお届けします。
【はじめに】
最初に申し上げておきます。本書はデータ視覚化(ビジュアライゼーション=visualization)の専門書ではありません。グラフやデータチャートなどでデータを視覚化する際に役立つ様々な原則やテクニックは解説しますが、それだけに特化した本ではありません。それをご期待ならがっかりする前に他をあたった方がよいとお伝えさせてください。
しかしもしあなたが、データ分析から得た知見(インサイト=insight)をなんとか効果的に人に伝えたい、データで上司や経営者を納得させて、行動につなげたいと考えているなら、あなたは良い本を見つけました。データ分析の知見を人に伝える目的にデータストーリーがなぜこれほど効果的なのかをより深く理解できる本、それが本書です。データ分析から得た様々な知見を使って、組織にポジティブな変化を促したいあなたにとって必要なすべて(少なくともコミュニケーションの観点では)を、この本は提供できます。
読み始めると、それぞれの章の冒頭がすべて何かしらのストーリーで始まるのにすぐ気付くはずです。なぜでしょうか? それは私がストーリーの力を信じ切っており、人々に何かを伝え、心を動かす最適な手法だと考えているからです。さあ、一緒にこの冒険を始めましょう。昔々あるところに、1つの知見がありました……。
研究と執筆に没頭する2年以上の時を経て、データストーリーに関する私の見解を書籍という形で世に問えるのをうれしく感じています。この本の執筆につながる旅は2013年に始まりました。担当者を説得して、アドビの顧客向けカンファレンスで「データストーリーテリング」のセッションを実施したのです。データストーリーは当時、私の心を躍らせていた新しいテーマでした。企業のデータ分析で15年以上、キャリアの大半をデータに関わる仕事に費やしてきた私は、データ分析結果を効果的に伝えるコミュニケーションに頭を悩ませ、その重要性を日々実感していました。そのセッションが、私が創意工夫して作り上げてきたデータストーリーの手法や概念、構築の枠組みの一部を、公に披露した最初でした。セッションは大成功でそれからは様々な場所で、この話題を繰り返し伝えることを求められるようになりました。
その後の数年間、私はデータストーリーに関するアイデアを発展・磨き上げ、様々なカンファレンスで発表し続けました。データでストーリーを語る方法を講演するたびに参加者から、「本はありますか?」「ワークショップを開いていますか?」と尋ねられました。これが次の大きなシグナルでした。2016年にはフォーブス誌に「データストーリーテリング:すべての人が必要とするデータサイエンスの必須スキル」と題した記事を書きました。20万回以上の閲覧数を生み出し、「データストーリーテリング」というワードのグーグル検索で常にトップにリストされています。それが本書を書き始めるために必要だった最後のシグナルでした。
大小様々な組織でデータ活用が活発化しています。そのため組織に属する人々はデータについてもバイリンガルになるよう求められ、データストーリーへの関心は高まる一方です。皮肉なことにその結果、誤解も広まり始めました。この言葉を空虚なバズワードにしてはならない―それに気付いたとき、私はこの本を一刻も早く書き上げねばならないと決意したのです。
その計り知れない可能性にもかかわらず、データストーリーはしばしばデータ視覚化の単なる延長と理解されています。データストーリーの魂の1つである筋書き(ナラティブ=narrative、ストーリーの構造)はほとんど無視されるか、単なる添え物として扱われています。多くの人がデータストーリーの効能をたたえますが、それがどのように、なぜ機能するかを説明できる人はほとんどいません。
それらの誤解を解き、データストーリーの真の姿を伝えたい―当初、本書を書く理由はそれだけで十分でした。しかし執筆中に、事実が日々悪用され、ゆがめられ、軽視される状況を目の当たりにし、この本を書かねばならないもう1つの使命に気付かされたのです。豊富なデータが活用できるにもかかわらず、事実が意味を持たなかった時代に私たちは逆戻りしようとしています。こうした困難な状況下でこそ、データストーリーを正しく理解し、使いこなせる語り手がこれまで以上に必要とされています。この本であなたがその1人になることを願っています。
ブレント・ダイクス
【訳者あとがき】
本書が米国で出版されたのは、訳者がドーモの日本オフィスでテクニカルコンサルタントとして働いていた頃でした。著者のブレント・ダイクスは会社の同僚であり、ドーモ米国本社のデータ戦略担当シニアディレクターを務めつつ、マーケティングイベントで顧客のあつい支持を集める看板スターでもありました。ドーモのサービスには彼のデータストーリーの技法が実践できる機能も数々搭載されており、当時、国内の顧客からデータ分析コミュニケーションの様々な悩み事を聞かされていた訳者は本書に目を通して、この本の邦訳が早晩出版されれば、顧客の役に立つ強力な武器になるだろうと期待していました。
すべてを変えたのはCOVID-19のまん延です。米国本社でブレントがレイオフ対象となり、その発表の1週間後には日本オフィスでの同様の施策により、訳者も会社を離れることになりました。もしもCOVID-19がなければ、我々2人はきっと、いまだにあの会社で活躍していたはずです。
ところが、今思うと不思議な巡り合わせにも感じますが、次にお世話になった会社で訳者は、本書の真価を深く実感させられる様々な経験を積む結果になったのです。この会社には幾つかの課題の解決を期待されて入社したのですが、本書で述べられているとおり、大きな組織を変革に導くには、上はCxOから下は現場メンバーまで、様々なステークホルダーの先入観にとらわれた意識を変える必要があります。データが正しいだけでは彼らを説得し、変革を決意させ行動を促すことはできません。訳者に与えられた課題はどれもタフでしたが、前職での経験とブレントの教えが解決への強力な道しるべとなりました。様々な課題がようやく一段落した頃には本書との出会いから既に5年近くが経過していましたが、同じような課題を抱えて苦しんでいる日本のビジネスパーソンのために、本書をなんとかして翻訳出版するべきだという、強い思いが湧き上がってきたのです。
翻訳にあたっては訳者の経験を照らし合わせながら、平易で読みやすい日本語で表現することを心がけました。もし分かりにくい部分があれば、訳者の責に帰するものです。(以下略)
玉利文吾
【目次】






