その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は諏訪貴子さんの『 町工場の星 「人が辞めない最高の職人集団」全員参加経営の秘密 』です。

【はじめに】

 「町工場の星」──。気恥ずかしいのだが、東京・大田区の町工場、ダイヤ精機で社長を務める私は、メディアなどでこう呼ばれることがある。

 ダイヤ精機はゲージ(測定具)や治工具、金型部品などの設計・製造を請け負う町工場だ。ミクロン(1000分の1ミリ)単位の超精密加工を得意とする。金属の精密加工技術に関しては、日本でもトップクラスと自負している。

 創業者である父の急逝を受け、専業主婦だった私が2代目の社長に就任したのは2004年のことだ。

 以来、私はダイヤ精機を「ザ・町工場」にしたいと考えてきた。「ザ・町工場」とは、ヒト、モノ、カネの経営資源が限られる中で、高い機動力を発揮し、顧客の要望に合う製品を確実に供給し続ける存在である。

若返りで職人の技術を継承

 実は、ダイヤ精機は私が社長に就任した当時、経営難の状態にあった。バブル崩壊後から続く業績低迷を長年改善できずにいたのである。

 私は社長就任と同時に、ジリ貧状態にあったダイヤ精機の経営改革に着手した。

 苦渋の決断で社員5人のリストラに踏み切った。社員たちの反発に遭いながらも、「意識改革」「チャレンジ」「維持・継続・発展」を目的とする「3年の改革」を行った。その中で、他の町工場に先駆けてバーコードを活用した生産管理システムも導入した。思い切った取り組みを敢行した結果、ダイヤ精機の業績はV字回復し、再生を果たすことができた。

 続いて、私はものづくりの経験のない若者の採用・育成に注力した。社員の6割以上が50代超だった「超高齢組織」を若返らせるのが狙いだ。今では、現場で働く職人の過半数が30代以下になった。逆ピラミッド型の組織がピラミッド型に見事に生まれ変わったのである。

 これらの取り組みが評価され、私は2012年に雑誌「日経ウーマン」の「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」に選んでいただいた。

 今、かつてのダイヤ精機と同様、経営難に陥ったり、職人の高齢化で技術が継承できなくなったりと、苦しい状況にある町工場は多い。その町工場にさらに人手不足という難問が襲いかかっている。

 高齢化や人口減少を受け、国内ではありとあらゆる産業で人手不足が問題となっている。中でも、「3K(きつい、汚い、危険)職場」と捉えられがちなものづくりの現場の人手不足は深刻だ。

人手不足に悩んだことは一度もない

 幸いなことに、ダイヤ精機は人手不足に悩んだことは一度もない。独自の工夫で育成してきた“ダイヤ精機製”の社員たちが定着しているからだ。

 中小企業によるものづくりの衰退が強く懸念される中で、ダイヤ精機は超精密加工技術を維持しながら、若手社員の活躍によって「持続可能」な状態をつくることができた。まさに、私が目指してきた「ザ・町工場」に着実に近づいている。

 ダイヤ精機は社員30人弱の小さな町工場にすぎない。だが、小さいながらも、日本のものづくりに一筋の光を与える存在にはなっているのではないかと思う。私を「町工場の星」と呼ぶ人がいるのは、そうしたダイヤ精機の現状を高く評価してくださるからだ。

 社長就任以来、私は何を考え、何を変え、何を実現してきたか──。

 逆境の中で奮闘する多くの町工場経営者に知ってもらい、それぞれの経営に役立ててもらいたいと、私は2014年に『町工場の娘』、2016年に『ザ・町工場』という2冊の書籍を刊行した。

 思いがけないことに、2017年にはNHKで『町工場の娘』を原作としたテレビドラマ「マチ工場のオンナ」が制作・放送された。内山理名さんや舘ひろしさんが出演し、松田聖子さんが主題歌を歌ったこのドラマの反響は、とても大きかった。その後も「NHK アーカイブス」に収められ、今もオンデマンドで見ることができる。

 とはいえ、前著からの10年、ダイヤ精機が順風満帆に進んできたかといえば、残念ながらそうとばかりはいえない。

 ベテランの技術を若手に継承したものの、生産性低下という予想外の事態が起きた。信頼していた幹部社員の退社というショックな出来事もあった。新型コロナウイルス感染症に端を発する世界的な半導体不足の影響で、需要の激減にも直面した。

 それらの一つひとつに対処しながら、ダイヤ精機は今日も収益力を高め、技術を磨き上げるための努力を続け、一歩一歩前進しようとしている。

 ダイヤ精機が今、どんな技術を保有し、どんな作業を請け負っているのか。私はどんな決断を下してきたのか。この本では、「ダイヤ精機の現在地」を余すところなく記したい。

 中小企業の経営者をはじめ、様々な苦悩に直面しつつも日々奮闘している方々に少しでも参考になれば幸いだ。

2024年春 諏訪貴子


【目次】

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