その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は小々馬敦さんの『 新消費をつくるα世代 答えありきで考える「メタ認知力」 』。その「序章」をお届けします。
【序章】なぜ今、α世代に注目するのか
日本の生産年齢人口の現状
2025年にミレニアル世代(1981年から96年生まれ)とZ世代(97年生まれから2009年生まれ)の合計が、生産年齢人口の過半数に到達します。この事実に基づき、私が主宰する産業能率大学小々馬ゼミでは「より良い未来社会の姿を洞察し経営とマーケティングのあるべき進化を探求する」ことを研究テーマとし、その手段として、若者世代の価値観と行動の変化に注目した調査研究を行っています。
生産年齢人口とは、労働生産と消費の中核的な担い手となる15~64歳の人口のことで、その国の市場経済に活力を生み出す源です。また、生産年齢人口は国内市場の規模を捉える指標としても重要です。生産年齢人口数とその構成が変化していく動態を捉えることは、その国の社会がこれからどのように変容していくかを洞察する助けとなります。
日本の生産年齢人口は、戦後増加傾向にありました。バブル経済崩壊後の1995年には、8716万人と総人口の7割を占めていましたが、この年をピークにその後は減少していきます。この流れは「日本経済の失われた30年」の時期と重なることから、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少が市場経済に与える負の影響の大きさがうかがわれます。総務省の人口推計によると、2023年の生産年齢人口は概算値で7400万人。ピーク時から約30年を経て約1300万人減少し、総人口に占める割合は6割にまで低下しました。労働と消費の担い手の約1割が市場経済から消えてしまったのですから、日本経済への負の影響は深刻であったと考えます。
若者は「売り上げを確保するための対象ではない」という視点
私たちが若者研究を始めたのは、10年前の14年。当時は若者を対象とした研究は劣後に評価され、研究パートナーを見つけるのに一苦労する状況でした。なぜなら、その当時企業がマーケティングを行う対象は、貯蓄があり意欲的に購買を続けるシニア層に向かっていたからです。
「若い人はお金を使わないでしょ。それに若者人口はこの先も減っていくので、市場規模が小さくて魅力を感じない」企業がこのように考える背景には、これからの時代、65歳以上の老年人口は拡大するものの、14歳以下の年少人口は大きく減少していくという「少子高齢化社会」の強いイメージがありました。デフレ経済の中で成長を続けるためには今日の売り上げが大事で、それを達成しやすいシニア層に取り組むことが優先というマインドが強くあったと感じます。
しかし、18年ごろから潮目が変わりました。「若者のニーズや行動の特徴を知りたい」という相談を受けて、企業の勉強会や研修に呼ばれる機会や、産学協同研究の問い合わせも一気に増えていきました。同時期にZ世代が成人し、彼ら彼女らが消費者・顧客像として具体的に見え始めたことが、若者のインサイトにスポットが当たるようになった要因だと思います。
そしてその後、「Z世代」はマーケティング界のバズワードとなります。「Z世代にうける商品を開発するには?」「Z世代に刺さる広告プロモーションは?」――Z世代をターゲット市場と捉えて、そのアプローチについて紹介する記事や書籍が多く見られるようになりました。けれども、Z世代の理解が進むほどに、Z世代を対象としたマーケティングの難しさを感じて幻滅する声を聞くことも多くなりました。「Z世代の多様な価値観に対応すると市場規模は小さくなり、ビジネスのスケールが難しい」ことに多くの企業が悩まされていました。
自己成長期にある若者世代が積極的に購買するカテゴリーはそれほど広くありません。そしてそのカテゴリーはおおよそ、ファッション、美容、飲食、旅行、エンタメなど、親しい仲間との交流に関わることです。交際費、交通費など“交(まじわる)”が付くカテゴリーには消費が起こるのです。これら以外の業種業界においては、若者を直接のターゲットとするビジネスは事業収益性が低いという判断になることを理解しています。その上で、私たちが産学連携の研究活動を始める際に企業の方にお話しさせていただくことがあります。それは、若者を売り上げを獲得するためのターゲットとして近視眼的に捉えるのではなく、一歩引いて、今、若者とのエンゲージメントを強くすることの意味と意義を捉えていただきたいということです。
現在α世代(10年以降生まれ)は人格が形成されていく幼少期、Z世代は性格が決定されていく青春期にあります。この時期に企業やブランドに対して共感を覚える経験や、大切な思い出の一部だと思える感情的なつながりを形成することは、成人後のLTV(顧客生涯価値)の増大に寄与し、持続経営の命題である事業価値と企業価値の最大化を支援します。
近い将来における若者世代のプレゼンス、経済市場への影響力について考えてみましょう。今から10年後、34年の生産年齢人口を図に描いてみると、新しい時代の社会の景色とビジネス機会が見えてきます。生産年齢人口は概算で6400万人。24年よりも1000万人規模縮小します。生産年齢人口が市場経済の規模と近しいと前提すると、ミレニアル世代・Z世代・α世代の合計は4400万人となり、市場経済全体の7割を占める規模になります。特にミレニアル世代とZ世代が購買力を備えたボリューム層に育ち、市場経済の中核となります。
そしてα世代も次々に成人し、市場でのプレゼンスを強めていきます。今α世代に注目することは、全く時期尚早ではないのです。
34年の社会を俯瞰(ふかん)すると、4つの世代(団塊Jr.・ミレニアル・Z・α世代)が共生していることが見えてきます。また、「団塊Jr.とZ世代の親子」と「ミレニアルとα世代の親子」という、2つの家族像となることも見えてきます。この4世代は上の世代と比較して家族仲が良く、家族で過ごす時間が長いという特徴があります。例えば、ショッピング中にLINEで「これどうかな?」「似合ってる。いいね!」とやり取りして購入を決めるなど、お互いの購買行動に影響し合います。家族仲が良いという特徴をもう少し詳しく分析すると、今の親世代は子どもには好きなことをさせてあげたいという意識が強いことや、現代では子ども世代の価値観や行動が、親世代に影響を与える傾向が強いことが分かります。家族内での関係性が消費に大きく関わるため、「団塊Jr.とZ世代の親子」と「ミレニアルとα世代の親子」、2つの家族像を捉えることは、これからのマーケティングを考える上での示唆となります。
2025年からパラダイムシフトが加速
私たちは研究を通して、ある期待を抱くようになりました。25年から日本社会のパラダイムシフトが加速するのではないかという期待です。
実はその流れは既に始まっています。20年を境として、それまで最大の消費ボリューム層であり社会の価値観を導く層であった団塊世代が、生産年齢人口、いわゆる現役世代から卒業し始めています。社会・企業における意思決定リーダーの世代交代が進むことで、社会の空気が変わり、消費行動や働き方、人々の物事の捉え方や判断基準が、一気に変容していきそうです。
SNS、AI(人工知能)、DX(デジタルトランスフォーメーション)などが進捗する社会の中で成長しているZ世代とα世代の感性と、行動規範が、2030年代の新しいスタンダードになっていくのです。
現在、多くの企業がSDGs(持続可能な開発目標)の達成年である30年を見据えた未来ビジョンを世に公開し、そのビジョンを意識しながら活動しています。来たる25年からは次の10年間、ポストSDGsの時代を見据えて新たな未来ビジョンを描く社内活動が活発となることでしょう。マーケティングや社員の採用・育成などのおおよその企業活動は、新しいアプローチへのアップデートが必要となります。新しい時代に向かう節目となる25年を目前として、今この時は、これからの社会における自社・自身の存在意義とビジョンについて再考する、待ったなしのタイミングといえるでしょう。
本書の読み方
マーケティング界では未来社会を洞察する手法として、若者世代に見え始めている新しい行動を観察する手法があります。私は10年前に米国の某科学雑誌で、シリコンバレーの技術者たちが日本の女子高生の行動観察研究を行っていて、彼女たちがカメラ付き携帯電話で写メ(写メール)を撮影して交換に興じている様子から、スマートフォン開発の示唆を得たという記事を読みました。この記事に触発されて、私の研究室は14年から、経営とマーケティングのあるべき進化を洞察する手立てとして、女子高生の行動調査研究を始めました。
高校生の成長を追跡観察するとともに、18年からは大学生と社会人のZ世代を研究対象に加え、22年にはさらに小中学生であるα世代を対象に加えて「3世代比較調査」を実施。若い世代の生活に見え始めている未来社会のエッセンスを見つけ出し、実務家に報告する活動を続けています。
私たちは、「未来の姿は若い世代の生活に見え始めている」ことを研究の前提に置いています。研究ではまず、マクロな観点で、これから起こる人口の推移など社会経済の変化を捉えます。同時に技術の進化についても理解します。技術革新によって人々が生活する上でできることが変わり、それが社会の変容に大きく影響するからです。こうした社会経済の変化と技術革新が、メディア、流通、コミュニティー形成など、人々の生活のありようにどのように影響し得るかを考察することで、未来の姿を想像することができます。
このプロセスで大切なポイントは、社会経済と技術革新に人々の感性(センス)が、いつ追い付けるのかを察することです。社会経済の変化と技術革新は、社会に新たな価値観をもたらします。そうした新しい価値観に人々が共感し、次第に物事の捉え方(パーセプション)が変容し、行動を始めることで、社会に新しい生活の常識(コモンセンス)が形成されます。
また、本書では、Z世代からα世代への価値観と行動の変化を解説します。Z世代との対比を通して、α世代に芽生え始めている新たなセンス、パーセプション、コモンセンスと、それらが形成される背景を知ることで、今後のビジネスのビジョンを描く際のヒントにしていただければと願います。
本書ではα世代(24年時点で14歳以下)との比較を容易にするために、Z世代の中でもすぐ上の年齢層「アラウンド20(24年に15~25歳の層)」にフォーカスします。
なお、各世代の年齢区分には諸説ありますが、本書では下記の世代と年齢を定義としています。
第1章では、α世代とは何者なのか? α世代の定義と主要な行動特性、そして行動特性の背景にある彼ら彼女らの価値観について紹介します。
第2章では、マーケティングリサーチを行うインテージ(東京・千代田)と共同で実施した「3世代比較調査(定量・定性全国調査)」のデータを引用しつつ、各世代との比較からα世代の特性を詳細にひもといていきます。また、日本と海外のα世代とを比較した調査から、日本のα世代の特徴を理解していきます。
第3章では、Z世代からα世代へ、行動と価値観がどのように変化しているのかの流れを解説し、近い将来起こり得る社会事象について洞察します。第4章と第5章では、ポストSDGsの時代、2030年代の社会において期待できる新しいビジネスの機会について考察します。
本書全体を通して2030年代におけるメディア・広告・マーケティング・ブランディングのありように関する洞察をお伝えするとともに、これからの時代におけるマーケティングの存在意義について考えます。マーケターは消費を促進する存在から、新しい社会使命として“プラスサム”な社会の実現を担う存在へと、変化していくことでしょう。
各章末には、章のテーマに関する専門家との対談コラムを設けました。α世代を指導している教育実務家、若者マーケティングの研究者、メディアとコミュニティーの専門家、広告コミュニケーションの実務家との熱のこもった対談からは、それぞれの専門的知見からの鋭い未来洞察が得られます。
本書を通じて、新しい時代の息吹を感じとっていただき、読者のみなさんのビジネスが持続成長するためのビジョンを描き出す、足掛かりとしていただければうれしいです。
【目次】









