その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は彌野泰弘さんの『 UAV あなたが知らない あなたの会社だけの強み 顧客に選ばれ続ける「最強ブランド」のつくり方 』です。
【はじめに】
顧客に選ばれ続ける「最強ブランド」をつくるたった一つの考え方
「広告費をかけているのに売り上げが伸びない」「認知は上がっているものの、一向に売り上げにつながっていない」「競合商品よりも最新の技術を搭載しているのに売れ行きが良くない」
このような声は、様々な企業から聞こえてきます。なぜこれらの課題は生じるのでしょうか。そしてこれらの課題は、解決不可能なものなのでしょうか。
はじめまして。マーケティングアドバイザリファームのBloom&Co.(東京・港)で、代表取締役を務める彌野泰弘と申します。Bloom&Co.は、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)出身のディレクタークラスの人材が10人ほど集まり、企業のマーケティングを支援する会社です。東京とシンガポールに拠点を持ちます。支援企業は、日系大企業、グローバル企業、スタートアップまで様々です。各企業に対して、顧客インサイト理解に基づくマーケティング戦略の策定と実行を伴走しながら、顧客に選ばれ続ける「最強のブランド」づくりの支援をしています。
私は独立前、P&GとDeNAに在籍していました。P&Gではブランドマーケティングの基礎を、DeNAでは、当時GoogleやFacebook(現Meta)とも連携し、先進的なデジタルマーケティングを学びました。この2社での経験と、独立後、Bloom&Co.で、100社を超える企業のブランドマーケティング支援を行った経験を基に生まれたのが、企業規模や事業カテゴリーを問わず、汎用的に活用できる「UAV(ユー・エイ・ブイ)マーケティング」というフレームワークです。
UAVとは、ユニーク・アトラクティブ・バリューの略。「顧客に選ばれ続ける価値」を意味します。この価値をどうやって創出するかこそが、「顧客に選ばれ続ける最強ブランド」をつくる、企業が重視すべきたった一つの考え方となります。
そのような強いブランドをつくるために、UAVマーケティングでは他社に模倣されにくい自社の強みと、顧客インサイトとの掛け合わせから「顧客に選ばれ続ける価値」を構築し、持続的な売り上げ成長を実現していきます。
当社はこれまで100社以上の企業を支援してきましたが、戦略を正確に実行した企業の約8割が目に見える効果を上げ、さらにその約半数が、売り上げや新規顧客の獲得などにおいて、過去最高の結果を出しています。支援前後で2~3倍、中には対競合で5倍から10倍ほどの投資対効果を生み出した企業や、顧客1人あたりのLTV(顧客生涯価値)が約3倍に増加した企業もあるなど高い成果を挙げています。
UAVフレームワークは、P&G、DeNAでの実務経験、そしてBloom&Co.での数多くの支援実績がなければ生まれませんでした。消費者のライフスタイルがますます多様化するこれからの時代、マーケティングによって持続的に成長するには、P&G流のマス・ターゲットを対象としたマーケティングノウハウに加えて、DeNAのような、デジタルを中心とした網の目の細かいマーケティングノウハウの掛け合わせが欠かせません。また企業規模や事業カテゴリーにかかわらず、どのような企業であっても再現性高く成果を出すには、汎用性の高い、フレーム化されたマーケティングノウハウの活用が求められます。そのため、Bloom&Co.で様々な企業を支援する中で、あらゆる企業が活用できるマーケティングフレームワークを構築してきました。
昨今はSNSの台頭などにより、消費者が多岐にわたる情報源と、無限の選択肢を手にしています。そうした中で、企業が顧客に選ばれ続けるためには、自社のブランドに対して明確な価値を感じてもらう必要があります。そのためには、企業がこれまで以上に本質的なマーケティングやブランディングに取り組むことが欠かせませんが、それらを実現するのは容易ではありません。
当社がUAVという汎用的に活用できるマーケティングフレームワークをつくったのは、フレーム化されたマーケティングノウハウを活用することで、多くの企業がより本質的なマーケティングに取り組みやすくなると考えたからです。
UAVマーケティングでは見るべき対象を「競合」ではなく、「顧客」としています。競合ばかりを意識し、単純に競合他社よりも認知を高めることに躍起になったり、同じ土俵で優劣を競い合ったりしても、異なる競合がまた別の特徴のある商品を出してきたときに、顧客を奪われる可能性があります。
国内市場においては少子高齢化により、今後、消費者人口が段階的に減ることが予想されます。一方でテクノロジーの進化により、これまで海外進出を諦めてきた国内企業にもその門戸が開かれるようになりますが、海外に出れば、より競合が増えることにもなります。そのような状況下で、競合ばかりを意識した「いたちごっこ」的な競争を続けていては、持続性のある売り上げ成長は望めません。
私は、選択肢と情報過多のこの時代、多くの顧客に永続的に愛されるブランドをつくるための答えが、「UAV」にあると考えています。
UAVマーケティングの最大のポイントは、「顧客に選ばれ続けるためにどうすればいいかをとことん突き詰めたマーケティングフレームワーク」であることです。自社の強みに立脚した、顧客が魅力的に感じる価値づくりと価値訴求を、戦略から施策まで突き詰めて実践することで、「顧客に選ばれ続ける最強ブランド」がつくられます。その結果、確度高く売り上げを伸ばし、持続的な成長が実現します。無限の選択肢がある現代においても、顧客にとってオンリーワンブランドになることで、「競合と戦わずして勝てる」強いブランドになるのです。
なぜ「UAVマーケティング」に行きついたのか
UAVマーケティングの具体的な手法を解説する前に、私がこのフレームワークに行きついた背景(自身のキャリア)をお話ししたいと思います。
私がP&Gで働き始めたのは、2003年。約9年在籍し、スキンケアの「SK-Ⅱ(エスケーツー)」、スナックの「プリングルズ」、髭剃りの「BRAUN(ブラウン)」といったブランドのマーケティングを担当しました。
後半は、シンガポールやスイスで日本以外の国も含めたブランド戦略の策定や、実行の指揮に当たる機会に恵まれました。
P&Gは世界でも有数の消費財メーカーで、優れたマーケティング組織を有することで知られます。その組織の内側で鍛えられ、改めて振り返ってみて良かったと思うのは、次の5つを経験の中から会得できたことです。
(1)本質的なマーケティングの基礎となる「定性的・定量的な解像度の高い顧客理解」
(2)事業の目的・目標と、顧客のニーズ・インサイトをつなぐ「ブランド構築」
(3)チームが同じ目的意識・課題認識・戦略理解を持ちつつ自律的に活動することで、事業変革や成長をもたらすための「リーダーシップ」
(4)中長期的な事業成長の鍵となる組織強化に向けた「人材育成」
(5)戦略を絵に描いた餅で終わらせない「優れた実行力」
P&Gでは1つのプロジェクトが終わると、成功した点と至らなかった点を徹底的にレビューし、次の機会に生かします。凡事徹底を極める組織の中でマーケティングを計画・実行し、レビューし、学びを蓄積し、そのノウハウを蓄積していきました。
その後、12年にDeNAに入社。最終的には、執行役員マーケティング本部長として全社のマーケティングを統括しました。DeNAで驚いたのはそのスピードです。1週間単位で様々なことが変化するのは当たり前で、わずか1日でPDCA(計画、実行、評価、改善)を回すことさえありました。
品質に妥協を許さず、数年かけて計画的に商品を開発し展開していくP&Gとは対照的に、DeNAの高速で改善を繰り返すアジャイルな事業開発・運営スタイルは新鮮でした。DeNAでは在籍していた3年間で、100本以上という大量のテレビCM制作を経験し、その効果を分析しました。これは、P&Gで9年弱在籍していた期間に作ったテレビCMの約10倍に相当する量です。
結果が数字で白黒はっきり出るのも、デジタルサービスのマーケティングならではの醍醐味でした。消費財を扱っていたP&G時代には難しかったテレビCMやデジタル広告1本ごとのコンバージョン数、顧客単位や経路単位での成果、そしてROI(投資対効果)といった指標がすべて解像度高く数値で把握できたのです。それらの指標を基に効果検証やうまくいったこと、いかなかったことを理解し、次の打ち手を考えることができました。
その中で、テレビCMを主体としたマスマーケティングと、ターゲットやクリエイティブを細分化・最適化できる、網の目の細かいデジタルマーケティングの融合を図っていきました。
P&Gというマーケティング思考が強い組織を離れたことで、P&Gでの「当たり前」がいかに洗練され、恵まれたシステムだったのかも分かりました。その頃のDeNAにとってマーケティングといえば、主にデジタルマーケティングのPDCAを回すことと、認知獲得に特化したテレビCMを制作すること。そこでまずは、マーケティングの考え方やプロセスをチームに説明し、プロジェクトで実践しながら定着させていくことが私の最初のミッションになりました。
実際に行ったのは、顧客理解に立脚した本質的なマーケティングの浸透と、顧客理解のための調査部門の立ち上げ、あらゆるマーケティング活動・計画において目的・目標を明確化すること、そして、「WHO(誰に)/WHAT(何を)/HOW(どのように)」フレームワークでの戦略的なプランニングの実践・運用です。これらの変革を矢継ぎ早に進め、顧客理解に基づいたマーケティングの重要度を啓蒙し、実践していきました。
最終的にマーケティング組織は100人規模にまでなり、私はその責任者として全社のマーケティング活動の統括に当たりました。10人ほどだったマーケティングチームを、100人から成るマーケティング本部に変えたことから学んだマーケティング人材の育成や組織構築、および多様な事業において汎用性高く使える仕組みをつくった経験も、UAVマーケティングのフレームワークづくりにつながっています。
そして現在は、Bloom&Co.で、多様な事業・規模の企業に対して、持続的な売り上げ成長を実現するための強いブランドづくりを支援しています。第三者視点で俯瞰(ふかん)して見ると、様々な企業で共通している課題があります。また、それぞれの企業で特有の課題もあるので、それらの課題にも対応しながら、各社が本質的なマーケティングを実践できるように、伴走支援しています。
UAVマーケティングは、あらゆる企業で、再現性高く成果が出せるように構築した、汎用性の高いマーケティングフレームワークです。創業以来、約10年で得られた知見とノウハウを本書に詰め込みました。初公開となるノウハウも多く含んでいます。
本書の構成
UAVは、顧客に選ばれ続ける理由となる価値です。そのため、UAVマーケティングを実践することで、顧客に選ばれ続ける最強のブランドをつくることができます。本書は、以下の構成に沿ってUAVマーケティングについて解説します。
第1章では、UAVマーケティングにたどり着くまでに、どのような経験を積んできたのか。私がマーケティングに携わるようになった経緯や、P&GやDeNAでの経験、その中で得たマーケティングの知見を共有します。
第2章では、100社以上の支援に携わる中で共通の傾向として見えてきた5つのマーケティングの誤解を取り上げ、その誤解の背景や問題を掘り下げます。
第3章では、UAVとはどのようなものか。UAVがあると、なぜ最強ブランドになれるのか。UAVマーケティングの中核となるUAVの概念と、UAVマーケティングの特徴、そしてUAVマーケティングに取り組むメリットを解説します。
第4章、第5章は、自社の強みと顧客インサイトを理解し、UAVを開発していく方法と、UAVを商品・サービスやプロモーションに反映していく際のポイントをお伝えします。後半には、事例を交えながら、開発したUAVを基に効果的なデジタルマーケティングを展開する方法を紹介します。
第6章では、UAVの開発・強化に継続的に取り組む上で必要となる、マーケティング人材と組織の育成・強化のプロセスについて解説します。
本書は、事業責任を負っている方から、マーケティングの実務に関わる方まで広くお読みいただくことを想定していますが、特に次のような課題を持つ方々にお勧めします。
- 売り上げが伸び悩んでおり、ブランド力の低下を感じている。施策を打つも顧客に刺さっていない。どうすれば顧客理解に基づいた本質的なブランド構築ができるのかが分からない
- 短期的な売り上げを伸ばすプロモーションの自転車操業になってしまい、中長期にブランドを成長させられていない。しかし、どうすれば持続的成長が可能になるのか分からない
- 顧客調査を行い、その結果を踏まえたマーケティングを行っているが、様々な顧客ニーズに応えていった結果、他社と似通った商品になっている
- 競合と差別化したいが、何をしたらよいか分からない、競合と差別化できているはずなのになぜか売れない。しかし解決策が見つからない
- デジタルマーケティングの知見が豊富で獲得広告に注力し、事業を伸ばしてきたが、CPA(顧客獲得単価)が高騰し、収益性が悪化してきている。需要創造など、もっと上流のマーケティング活動を行うべきと課題を感じているが、どうすればよいか分からない
- 持続的な事業成長を成し遂げるために、本質的なマーケティングを実践できるマーケティング組織づくりと、最適な人材を育成したいが、どこから始めればよいか分からない
これからマーケティングの実践を積んでいく方は、最初から読み進め、効果的な実務の手法を知るための手がかりとしてお役立てください。また、すでに実践を重ねてこられた方は、UAVマーケティングについての解説を主体とした3章以降を中心にお読みいただくことで、アプローチに新たな視点が加わり戦略強化の手がかりとなるはずです。
Bloom&Co.のパーパス(企業の社会的意義や志)は、「より良いものを、より多くの人へ」です。この本を読み、「顧客のことをもっと解像度高く理解したい」「顧客に真に価値のある商品やサービスを提供したい」「UAVを見いだして、最強のブランドをつくり、持続的にビジネスを成長させたい」。このように前向きな気持ちになる方が一人でも多く増え、UAVマーケティングの実践を通して、多くの人にとってより良い商品やサービスが増えることを願っています。
2024年5月吉日 シンガポールのオフィスにて
Bloom&Co. 代表取締役 彌野泰弘
【目次】




