その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は福井崇人さんの 『「本当の強み」の見つけ方』 です。
〈はじめに〉
「自分の本当の価値」に気づき、「強み」を伸ばしていくために
本書は、これから社会に出ていく、あるいは社会に出たばかりの若者が、日本、そして世界で生き抜く力をつけるための「自分探しの旅」です。
世の中では、「世間のニーズをつかめ」「相手の気持ちを考えろ」「お客様は神様だ」など、自分よりも他人を優先すべき、という主張が見られます。
でも、本当に大事なのは、そうじゃない。「自分」についてきちんと考えていない人が見る他人や社会は「マボロシ」にすぎず、「相手のために」「言われたとおりに」やったとしても、喜ばれないし、仲間も増えないし、誰も幸せにできないし、評価されることもありません。
私はこの1冊を通して皆さんに、自分を徹底的に掘り下げ、自分のいいところを見つけ、そして自分を「好き」になってほしいと思っています。自分の好きなことに、全力で取り組める大人になってほしいのです。
人生には思い通りにいかないとき、無力感にさいなまれるときもあれば、自分が何をしたいのか、自分にはどういうことが向いているのかも分からずに思い悩んでしまうときもあります。
たとえば就職活動。
私はこれまで20年以上にわたって8000人以上の学生に講義をしてきました。ゼミ形式で就活の指導をしたり学生から相談に乗ったりしたことも、数えきれません。
就活中の学生の多くは、暗い顔をして、
「自分がどんな業界に入りたいのか、何をやりたいのかが分からない」
と言います。私からすれば、「個性」も「強み」もしっかり芽吹いているのに、たとえば、
「自分の強みは、サークルの部長として100人の部員をマネジメントして……」
のような、無個性で聞き手の印象に残らない、「優等生」のアピールをしようとします。
あるいは社会人になっても自分の「個性」も「強み」に気づかないままで、
「誰でもできる仕事しか与えられない」
「この仕事が、自分の本当にやりたいことではない気がする」
などと、ぼやいている若者も少なくありません。
「もっと自分を生かせる仕事に就きたい」
と転職を考えたとしても、「自分にできることは何か」というところで立ち止まってしまったりします。
もし、今お話ししたようなことが少しでも思い当たるなら、あるいは、
「仕事と人生のバランスを考え直したい」
「まだ大丈夫、まだ大丈夫、と耐え忍んでいるうちに、時間ばかりがたっている気がする」
「他人の失敗を見ると、自分だけじゃないんだと、ほっとした気持ちになる」
というなら、この本で、「自分」を深めてみてください。きっと今まで気づかなかった「自分の魅力」や「やりたいこと」「できること」が見つかるはずです。そうした発見は、これから先、何十年も続く人生の指針になるでしょう。
「自分探しの旅」は人生の必修科目
なぜ、私が冒頭から、「自分探しの旅」なんて青臭(あおくさ)いことを言っているか。それには3つの理由があります。
1つめは、私たちは「自分」と向き合うことが圧倒的に足りていないからです。
日本の教育システムに何の疑問も持たずに生きていては、多くの人が「自分」と向き合う機会を持てません。その必要性も感じないまま、いつの間にか「大人」にさせられてしまう。生きていくお金を稼げれば、「こんなもんか」と思ったまま、人生が“ぼんやり”すぎていってしまいます。
残念な中年にならずに自分の人生を歩んでいくための第一歩が、「自分」と向き合うことなのです。コロナ禍(か)で、あるいは毎日の忙しさで、実世界(リアル)では「自分探しの旅」に出られない今だからこそ、本書でぞんぶんに「自分」を旅してください。
2つめは、「自分を理解し、自分を好きになる」ことには、本当にすごい力があるからです。
この本では、自分探しの旅の指針として、一人ひとりの「パーパス」の話をしていきます。経営学の分野を中心に、最近は企業の「パーパス」という言葉をよく聞くようになりました。英語の「パーパス」にはいくつかの意味がありますが、ここでは「存在意義」を意味します。
それはつまり「自分にしかない唯一無二の価値」であり、自分がすでに持っている価値に気づくこと。企業がパーパス(存在意義)を明確にして事業を進めていけるように、個人もパーパスを明確にできれば、今より積極的に、自分の人生に向き合っていけると思うのです。
個人の存在意義とは、言い換えれば、自分が心の底からやりたくて、自分だからできる目標のことでもあります。人生という大きな旅の目的地──「あなた」という人間が、今すぐではなかったとしても、いつかは必ず達成したい夢──と言い換えてもいいかもしれません。
目的地を決めるためには、どこに行きたいかを考えなければいけません。そこに向かって進んでいくためには、今どこにいるのか、どうすれば行けるのかを知る必要があるでしょう。ロケットで行くのか、歩いていくのかなど、手段だって考えなければいけないはずです。
あなたはどこに行きたいか? 今、どこにいるのか? どんなふうに行くのか?
それを知るために「自分を理解すること」が必要なのです。
また、「自分を好きである」ことは、人生の旅の推進力です。自分を肯定し、信じることができれば、どんな困難や孤独や不安も乗り越えていけるはずです。
3つめは、私自身も「自分」と向き合っていなくて悶々(もんもん)と過ごしてきた時間があるからです。
私は美術大学を卒業した後、大手広告代理店で約27年、会社員として働いていました。その間、大きなプロジェクトをいくつも手がけ、広告賞もたくさんいただきました。きっと私が関わった広告のなかには、皆さんがどこかで見たことのあるものも、あると思います。
このように書くと、私の人生は順風満帆のように見えるかもしれません。
しかしあるとき、大きな壁にぶち当たりました。1年近くもかけて根を詰めて考え抜き、「こうすれば喜ばれるはずだ」と必死に仕上げた仕事が大不評で、そのまま担当からも外されてしまったのです。それが直接のきっかけとなって私は、70日もの間、会社にも行かず、引きこもることになりました。
「自分の仕事って、実のところ、何なんだろう」
「頑張っているのに、どうしてこんな目にあわないといけないんだろう」
と心から思い、そしてひたすら、
「自分とは何か」
「生きるとは何か」
「働くとは何か」
と考えました。それまで仕事に向けていたエネルギーをすべて費やして自分自身と向き合ったことで、自分が「広告という仕事を通して何がしたかったのか」という根本に立ち返ることとなったのです。
何十時間も何百時間もひたすら考えるなかで、私は「あらゆる人が持つ可能性に気づける人でありたい。それが見えなくて悩んでいる人の力になりたい」という、自分の強い信念に気がつきました。
これが私のパーパスです。
その後、幸いにも復職できた私は、仕事でも「パーパス」を強く意識するようになりました。
振られた仕事も、ただこなすのではなく、一度「パーパス」のフィルターを通すこと。
実は興味があった教育の分野に挑戦すること。
自分の行動を通して社会をよりよくしていくこと。悩んでいる人の力になること。
悩み、もがいた経験が、今の私を形づくっています。
大きな壁にぶつかり引きこもってしまった当時の私のように、自分について深く考えることもなく、パーパスも曖昧(あいまい)なままで歩むには、今の世の中はあまりに険(けわ)しすぎます。そんな社会で戦って、消耗して、追い詰められてしまう前に、皆さんには、自分の人生をより豊かにするための「自分探しの旅」を体験し、自らの「パーパス」をしっかりと持っていただきたいのです。
パーパスは、悩み迷ったときにも、反対に絶好調で突き進んでいくときにも、人生の大きな指針となってくれるでしょう。
「人生が変わった」という声続出の自己価値発見トレーニング
本書では、「自分を深く知る」ところから話を始めていきます。そして、あなた自身のパーパスを探り当て、表現していきます。
「自分のことなんて、自分がいちばんよく知っている」
と、見くびってはいけません。もし、あなたが人生に悩み、迷っているとしたら、自分を見る眼はすでに曇(くも)っているからです。また情報や感情に振り回されているときもまた、自分を正しく把握できているとはいえません。
親(家庭)や会社組織の価値観に影響を受けて、それに応えるように生きているうちに、本当の自分を見失ってしまう人も多いことでしょう。周囲の期待に応えようとしているうちに、無意識に本音を封じ込め、行動にブレーキをかけてしまっているかもしれません。
私がこれまで多くの学生や社会人と関わるなかで編み出してきたメソッドで、過去の記憶や経験、生い立ちを丁寧に掘り下げ、あなたがまだ気づいていない、本当のあなたを探していきましょう。
自分を知れば、周囲や世界との関わり方が変わります。やるべきことや振られる仕事が変わらなかったとしても、仕事と自分とのつながり方が変わります。
やりたいこと、自分にできることも見えてくるはずです。
自分を知ることが、人生を変えることであり、社会とよりよくつながることです。
この本における「自分探しの旅」の先には、あなたのパーパスと、パーパスを原動力とする自己実現、世界との関わり方、そして人生が待っているのです。
自分も周囲も幸せに生きるための考え方「パーパス思考」
この「自分探しの旅」で身につけられる考え方・生き方を、私は「パーパス思考」と呼んでいます。
パーパス思考=パーパスを軸に生きる考え方
パーパス思考を得るための自分探しの旅の途中では、ものの見方や価値観が大きく変わる瞬間があるでしょう。
パーパス思考にもとづいて自分の感覚・価値観で生きることができたら、自分軸が育ち、自分にもっと自信を持つことができるようになり、社会や周りの目を気にして自分を押し殺す必要がないと気づくでしょう。
そして、あなた自身のやりたいこと、あなたが目の前の仕事をする意味が見えてくるはずです。
本書で得られる「自分」への没入経験と、それを通して得られるパーパス思考は、あなたがこれからの人生を切り開くための、強力な武器になるでしょう
パーパスの発見が、私の仕事観も人生観も変えた
先ほど、私のパーパスが「あらゆる人が持つ可能性に気づける人であること。それが見えなくて悩んでいる人の力になること」だとお話ししました。
これから見いだしていく「パーパス」そのものへの理解を深めるために、私のパーパスと取り組みについて、少し紹介させてください。
「ソーシャルデザイン」という言葉を聞いたことがありますか?
この言葉を私は、「等身大の自分を生かして、困っている人を助けていく仕組みづくり」と捉えています。
今、世の中には、新型コロナウイルスや戦争だけでなく、格差や貧困、ジェンダー、人権、地球温暖化を筆頭に、数えきれないほどの「社会課題」があります。
でも、残念ながらこれらの多くの社会課題を、「リアルに自分と関係するもの」と考えている人はあまり多くないのが現状です。
今、本書を読んでくださっている方で、SDGs(国連の制定した持続可能な開発目標)などに共感を示していたとしても、それを「自分がアクションを起こすべき課題だ」「自分のアクションで、解決していける」という想いを抱けていない、という人も多いのではないでしょうか。
「社会課題よりも、自分の暮らしをどうにかしたい」
「国や政治家、NPO、社会起業家のような、意識の高い人やすごい人に何とかしてもらわないと」
と思っている人もいるのではないかと思います。
たしかに「社会課題」や「開発目標」とくくってしまうと、自分とは関係のないものと感じてしまうかもしれません。
でも、今の日本社会で生きていれば、コロナ禍も戦争も「全く関係ない」ということはないはずです。同様に、この世の中で起こっている大きな問題は、どこかで自分とつながっているものです。自分が抱える困りごとを解決しようとすることが、他の人の困りごとを軽くするかもしれない。自分のアクションひとつで世の中全体を変えることはできなくても、みんなが同じアクションをとれば、変わっていくかもしれない。自分の行動で、誰かの困りごとが少しでも軽くなるかもしれない。
さまざまなことについて「自分とのつながり」を考えていくことができれば、やがて大きな変化を生み出すことができるのではないかと思うのです。
より多くの人が、社会と自分とのつながりをより感じられるようにすること。そして、それぞれの困りごとを軽くしていくこと。一人ひとりの困りごとの解決を通して、社会全体にいい変化を起こすこと。
私は自分のパーパスに従って、自分の人生をかけて、ソーシャルデザインに取り組んでいきたいと思っています。
大きくガラッと変えなくていい。心の持ち方が変われば、接する世界も変わり始める
ソーシャルデザインの発想があるかないかで、日常のさまざまな行動は変わってきます。
たとえば服を買うときに、子どもに強制労働をさせているメーカーかどうかが気になるようになるかもしれません。同じものを買うなら、動物実験をしていないメーカーのものを買おうと思うかもしれません。
食事も、速くて安くておいしければいい、という以外の価値観が生まれるかもしれません。
とにかくコストを下げられればよし、という以外の判断基準が生まれるかもしれません。
選挙に足を運んだり、署名活動に参加したりしようと思うかもしれません。
発想があれば、お金や時間をかけなくたって、社会にいい影響を与えることができる、と私は信じています。
こんな信念のもと、私は広告の仕事にも、「ソーシャルデザイン」という新しい領域を開拓しました。とにかく大きなお金が動けばいい、売り上げを伸ばせればいい、という価値とは別の視点です。
ですから、最初は「そんなものはビジネスとして成立しない」とか「考えがおかしい」と煙(けむ)たがられ、支持してくれない人も多くいました。
けれども自分のパーパスを信じて突き進むうちに、私自身のパーパスにひもづいた作品が海外からも評価されるようになり、日本における「働く」ことへの価値観も変わり始めました。
SDGsという、ソーシャルデザインを具現化したような取り組みが、重要なビジネス領域としても注目されてきています。
ソーシャルデザインが描く仕事とは、「働けば働くほど、自分も周囲も幸せになるもの」です。
キャリアとは、「自分も社会も強く優しくなっていく環境を自分で整えること」です。
人生とは、「歩むほどに、豊かに、優しく、幸せになるもの」です。
これを追求することこそが、私自身のパーパスなのです。
なぜパーパスが、「与えられた仕事」のやりがいまでも変えるのか
私の場合は、広告というクリエイティブな仕事のなかで、ソーシャルデザインの視点を取り入れていきました。このようにお伝えすると、
「広告の仕事はクリエイティブだから、仕事に自分のパーパスを入れやすいのであって、自分の仕事はそもそもクリエイティブな要素がない」
「自分のパーパスは社会の方向を向いてもいないし、仕事に個人的な想いを入れることはできないから、融合できないだろう」
と感じる方もいるかもしれません。
でも、そんなことはありません。クリエイティブな仕事でなくても、仕事とパーパスはかけ合わせることができます。
たとえば、ブライダル業界に務めるある女性です。その方は、「働くママのワークライフバランス」こそが、ご自身のパーパスだと語ってくれました。
その方はキャリアのなかで一時的にアメリカで過ごす時期があったそうなのですが、後に日本に戻ってきて、女性の働き方の厳しい現実に直面したそうです。
アメリカでは、働くことを選択した女性は出産後すぐでも当たり前のように社会生活に戻れるのに、日本ではそうではなかった。帰国後もブライダル業界で働きながら子育てをしたいと考えていましたが、それがとても困難だったのです。
たしかにブライダル業界は、ワークライフバランスの推進が他の業界よりも少し遅れているといわれてきました。それで、
「少し遅れている業界に身を置く自分だからこそ、できることがあるんじゃないか」
と、彼女は気づいたと言います。それで今も、ブライダル業界で働きながら、自身のパーパスに基づいた発信を続けているのです。個人的な想いが、いい変化を生んだ好例でしょう。
パーパスを持つことは、仕事の評価、売り上げの数字、他人のものさしとは別に、自己評価の軸を持つことです。パーパスを心に留めておけば、どんな仕事にも、自分なりのやりがいを見いだすことができるでしょう。
人生に悩んだときも、パーパスという目指す未来が見えていれば、ただ堂々巡りを繰り返すだけではない解決方法も見えてくるはずです。
私たちは、一人ひとり、誰もが心のどこかにパーパスを持っています。ただし、自分と向き合うことなしには、見つけることはできません。
考えても答えの出ないような人生の悩みの多くは、パーパスを明らかにすることで、解決に向けて一歩ずつ、前へ進んでいけるはずです。
この本はあなたの人生に寄り添うものになればという願いから生まれました。人生に立ち止まってしまったときにこそ、手にしていただける1冊になればと考えています。
さあ、一緒に「自分探しの旅」に出かけましょう。
【もくじ】