その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は安岡孝司さんの 『製造現場を守る7箇条 ストップ品質不正』 です。
【はじめに】
企業不正の防止は主に経営陣や本部の課題なので、上から網を被せる考え方に基づいています。筆者は技術者向けに不正防止の話をすることがありますが、上から網を被せる方法を、被せられる人たちに話しても場違いです。
かといって「ルールを守る」という話なら、誰もが分かっていることです。現場で不正防止に取り組むというテーマは古いようで、まだ手つかずの課題なのです。これを認識した上で、本書では品質不正防止の提言を現場向けにまとめました。
品質不正の多くは検査不正で、現場での原因を分析すると、強い製造部署と弱い検査部署との格差の問題に気付きます。なぜなら不良品が出るのは製造側の問題なのに、それを合格させざるを得ないのが検査部署だからです。つまり強い部署の不始末を弱い部署が隠すことが品質不正です。
不良品を合格にする理由は生産目標を達成したいからですが、誰が何のために達成したいかという視点から考えると、エリート管理職の上昇志向や保身のために品質不正が行われているとみることができます。エリートとは出世したい人のことだからです。
本書では品質不正の事例などから、強い立場のエリート社員が不正の背景を生んでいるという問題を掘り下げます。そして不正防止のポイントを7箇条にまとめました。7箇条は品質不正に限らず、あらゆる業種の企業不正防止につながる考え方です。終章では不正に巻き込まれたときの出口について説明しました。
ところで、不正防止のゴールは何でしょうか――。不正防止は企業の経営目標ではなく、より大きな目標に向かうプロセスの一つですから、ゴールではありません。
本書では不正防止のゴールを「働く人が幸せを感じる職場」だと考えています。弱い部署にひずみが集中して不正が起きているなら、その部署は不幸な職場だからです。職場の不正をなくすことは幸せな職場をつくることになり、すべての企業の経営理念に通じるはずです。
幸せには一時的な幸せと、持続的な幸せの2種類があります。ボーナスをたくさんもらったときや、課長や部長に昇格したときに感じるのは一時的な幸せです。しかし収益偏重のしわ寄せとして検査不正に追い込まれていたり、ノルマ達成のためにパワハラを受けていたりするなら、持続的な幸せではありません。不正防止のゴールは一時的な幸せではなく、持続的な幸せを感じる職場です。
最近ではWell-being(身体的・精神的・社会的に満たされた状態)という概念が注目され、経営ビジョンに取り上げられ始めています。働く人が幸せを感じる職場はWell-beingに置き換えてもよいでしょう。
安岡孝司
【目次】