その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は世界経済フォーラム会長のクラウス・シュワブ氏、ティエリ・マルレ氏の 『グレート・ナラティブ 「グレート・リセット」後の物語』 です。

【はじめに】

 これまでにない変化の時代に生きる私たちには、明るい未来をともに築いていく責任と可能性がある。

 前例のない変化の時代には、経済、環境、地政学、社会、テクノロジーについての問題が同時に発生し、次々に拡大していくため、前例のない行動が求められる。本書『グレート・ナラティブ 「グレート・リセット」後の物語』は、私たちに問題を解決する責任と可能性があることを踏まえ、世界全体として、また個人として、行動を起こそうと呼びかける提言の書だ。人類がより良い未来を迎えるには、世界はいまよりも回復力(レジリエンス)が高く、公平で、持続可能なものにならなければならない。

 2020年7月に出版した 『グレート・リセット ダボス会議で語られるアフターコロナの世界』 で、私たちは数々の問題を提起した。本書では、それらの問題の現実的な解決策を提示する。人類の一大叙事詩がどのようなエピローグを迎えるかは、どの「物語」が支配的になるかにかかっている。

 なぜ「物語」が重要なのだろう? 社会に生きる人間は物語を語る生き物であり、「物語(ナラティブ)」によって意思を伝え、つながり合う。見聞きし、経験した事実を理解して、対応するための情報を提供するためにはナラティブが不可欠だ。何より大事なのは、説得力のあるナラティブには人々に行動を起こさせる力があるということだ。そして世界はいま、一つの偉大な物語(グレート・ナラティブ)を必要としている。相互作用し合う数々の小さな物語は、一つの大きな物語を中心に展開するからだ。本書『グレート・ナラティブ』は、幅広いテーマを取り上げてこれからの世界の姿を描き出し、私たちにどんな選択肢があるのかを明確にしていく。だが、本書が提供するのは処方箋ではない。あくまでも今後の行動指針を示そうとする試みだ。

 私たち著者は、自らが考える世界のあるべき姿と、進むべき方向を示す。私たちはいくつもの深刻な問題に直面しているが、必ず解決できるはずだ。これは希望を込めた本であり、人類に明るい未来は望めないとする終末論的な考えとは相容れないものだ。優れた創造力と英知、生来の社会性をもってすれば、目の前の困難に必ずや打ち勝つことができるだろう。

 本書では、人間的な価値観に基づいたエビデンス・ベースの科学的な分析を行っている。そして、さまざまな学問分野や立場を代表する、世界的な思想家やオピニオンリーダーと行った50の対話の成果も反映している。私たちと同じ考えの人もいれば、異なる考えの人もいたが、全員が本書の議論を豊かなものにしてくれた。ここに感謝の意を表したい。

 2021年12月15日

クラウス・シュワブ
ティエリ・マルレ

【目次】

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