その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は兎澤直樹さんの 『自動化経営の教科書 小さい会社がたった3カ月で変わる!RPA活用プロジェクト』 です。

【はじめに】

RPAはDX時代に躍進を画策する企業のための「起爆剤」になる!

 「当社では今、RPAの導入を検討しているのですが、ITには強くないですし、過去にシステム導入で失敗した経験もあるので、うまく活用できるか不安です。相談に乗ってもらえますか?」
 このようなご依頼を日々、多くの経営者・幹部の方々からいただきます。
 「RPA」とは、「Robotic Process Automation(ロボティック・プロセス・オートメーション)」の略です。私はよく「簡単に言うと、パソコンの定型業務を自動化するソフトウエアのことです」と説明しています。
 反復・重複・繰り返し行う定型業務の1手順1手順を、ソフトウエアに覚えさせていきます。そして、RPAが覚えた業務を自動的に進めてくれている間、人間は別の業務に時間を割けるようになります。
 RPAはいわば、「業務プロセス自体をプログラム化できるITツール」ということになりますが、最近では、ノーコード(ソースコードを書くことなくプログラムを開発すること)で扱えるRPAツールが増えています。
 つまり、RPAを扱える従業員が社内に増えるということは、会社にとっては、プログラムが組める人材を社内に抱えることができるということになります。ほとんどの中小企業にとって、システムエンジニアを専任で雇用することが容易ではない中で、これからの時代、大きなアドバンテージになるでしょう。

 「RPAの導入を検討している」と弊社にご相談いただく企業様は、さまざまな経営課題を抱えておられます。以下はその代表例です。
………
 「バックオフィス業務に忙殺されて、収益を生み出すための業務に十分な時間を割けていない」
 「仕事は増えているけどそれに比例して人件費を増やさなければならず、1人当たり労働生産性が一向に高まらない」
 「マネージャーも現場業務が忙しく、十分にマネジメントや部下の教育に時間を割けていない」
 「目の前の業務をこなすことに精いっぱいで未来のことを考える時間を確保できていない」
 「退職者が発生するたびに現場が混乱し、新人の教育も間に合わず、顧客満足度と生産性が安定しない」
 「退職者が出るたびに補充採用して、一から業務を教え込まないといけない。その時間が不毛に感じる」
 「数年後に事業承継を控えているが、今の属人的な体制で代替わりをするのが不安だ」
 「働きやすい職場環境づくりを促進していきたいが、定型業務が多くてなかなか残業が減らない」
 「IT化をしていきたいが、社内の業務フローが整理できていないので何から手を付けていいか分からない」
………
 この本を手に取ってくださったあなたも、何かしらこれらと近い経営課題を抱えていらっしゃるのではないでしょうか。
 弊社の場合、ご相談いただく9割以上が従業員数100人未満の中小企業で、地域もさまざまです。大企業に負けず、時代に合わせて自社をどんどん変革して働きやすい環境を作り、顧客価値をさらに高め、生産性の高い永続企業をつくっていこうという経営姿勢をお持ちの企業が多いです。
 しかし、そのようなチャレンジングな姿勢とは裏腹に、ITという分野では「社内に詳しい人がほとんどいない」「新しいシステムを導入するときに社内の反発が多くて困ってしまう」「費用対効果に合う運用ができていない」「客観的に意見をくれる相談相手が周りにいない」などのお悩みも多く聞きます。
 また、弊社にご相談いただく企業の中には、「一度RPAを導入したものの、うまく運用できずに失敗してしまった」という方々も多くいらっしゃいます。
 残念ながら、RPAは「導入すればすぐ簡単に業務を自動化できてハッピー!」とはなかなかいきません。うまく運用できれば大きな効果をもたらしますが、そのためには、それなりに労力も必要になります。業務を間違えずに再現させるため、時には少し複雑な設定も必要なのです。そのことを知らずにRPAと向き合ってしまうと、なかなか思っていたようにうまくいかず、やがて諦めてしまうというのが典型的な失敗パターンなのです。

 このようなご相談をいただくとき私は、常に1つのメッセージを思い出すようにしています。それは、新卒入社した前職の経営コンサルティング会社の創業者が入社式で贈ってくれた「世のため、人のためになることを命懸けでやりなさい」というもので、私の仕事の原点となっています。
 当時、その創業者は大きな病気を患っていて、入社式にも顔を出せるかどうか当日の体調を見てみないと分からないという状況でした。まさに「命懸け」でそのメッセージを私たち新人に贈ってくれたのです。「経営者というのは、かくも命懸けなのか」とその姿から感じました。その3年9カ月後に創業者は亡くなりましたが、今も強烈にそのメッセージが私の中に残っています。
 そこから私は、命懸けで仕事に励む経営者を支援する経営コンサルタントとしての仕事に誇りを持ちながら9年間勤めた後、起業し、今はRPAの運用サポートという仕事を通じて、IT化にチャレンジする企業を支援させていただいています(ちなみに弊社はRPAの開発メーカーではなく、販売代理及び保守業務を担っています)。
 「世のため、人のため」というメッセージを胸に、時にはご相談に対して「御社にはRPAは必要ないと思います」「RPAを導入する前にまずはこちらからやったほうがいいと思います」とお答えすることもあります。
 それは、私なりの経験から客観的に「相手のためになる」と確信できることを第一優先にお伝えするスタンスを貫くことで、前職の創業者からのメッセージを体現できると思っているからです。
 一方で、RPAが確かに有効に働きそうな企業に対しては、「ユーザーフレンドリーなIT活用」や「人間的な温かみのあるIT」というコンセプトを掲げ、なるべく難しい言葉を使わず(もともと経営コンサルタントでありシテムエンジニア畑ではないので「使えない」が正しい表現ですが)、スピーディーに、親身に対応し、中長期的に経営的・現場的な目線で見て、運用に成功していただくことを最も重視しています。
 そのスタンスを貫いてきた結果、ありがたいことに多くの企業の皆様に一定の支持をいただき、この3年間で90社以上のRPA活用の支援を行ってまいりました。

 これまでの経験から言えるのは、「あらゆるITツールはすべて、単なるツールにすぎない」ということです。そのITツールを「使うこと」自体が目的ではなく(IT業者側がそのような認識であることも多い)、自社が何のために、いかに向き合い、どう活用していくかが大切なのです。
 RPAも、「単なる業務効率化ツール」にすぎません。しかし、うまく活用すれば、得られる効果は「単なる業務効率化」だけにとどまりません
 詳細は後述しますが、RPAに組織的に向き合うことで、ITに強い人材を社内に育成していくことができます。さらにそれが、自社の躍進を実現するために欠かせない「ITをうまく活用できる組織づくり・チームビルディング」へとつながっていくのです。これは非常に大きなメリットと言えるでしょう。
 2015年、マーケティング学者として世界的な権威であり、現代マーケティングの父と言われるフィリップ・コトラー氏は、Digitize or Die(デジタル化するか死ぬか)」という強烈なメッセージを発しました。業種や規模にかかわらず、すべての会社がこれからデジタル化なしに生き残りはあり得ないということです。
 そして、2019年12月初旬に中国・武漢市で発生した新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大したことにより、多くの企業で急速にオンラインミーティングやテレワークが導入され、ますますIT活用の必要性・緊急性が高まりました。このIT化の流れはどんどん加速するでしょう。

 多くの中小企業にとって、ITやシステムというのはいわば業務のサブ的位置付けであることがほとんどです。しかしこれからは、IT活用戦略をむしろ会社のビジョン実現のための中核的な位置付けに据えるべきだと私は考えています。
 最近よく叫ばれるDX(デジタル・トランスフォーメーション)とは、「ITを活用した変革」のことを言います。言い換えれば、「デジタルを前提とした経営に変革していくこと」とも言えます。
 あなたの会社がもし、勇敢にもDX時代に向けて自社を変革していこうとされているならば、その方向性はおそらく間違っていないでしょう。あとは、何を目的に、どんなビジョンに向かって、どういう組織づくり・チームビルディングを行い、各種ITツールといかに向き合い、効果を高めるためにどう活用を推進していくか、ということがますます大切になってくることでしょう。私は今回、そのような会社にとって少しでも力になれたらと思い、筆を執ることにしました。

 テクノロジーを活用すれば人間でなくても遂行できるような定型業務は思い切ってやめてしまったり、自動化したりすることで、人間が何に時間を割くかを最適化することができます。効率化によって生まれた時間を、さらにお客様のサポートに使えたり、新しいお客様と出会うためのマーケティング活動に使えたり、マネジメント業務や部下の教育に使えたりします。
 ぜひ、あなたの会社でも、独自固有の強みや魅力をさらに高めたり、広めたり、より人間らしいクリエーティブで付加価値の高い仕事に「人間の時間」を使えるようにしていただきたいと思っています。そのための1つの選択肢としてRPAというものがあること、その運用のコツを知っていただくことで、DX時代を駆け抜けるあなたの会社の一助になれたら幸いです。
 本書では、RPAとはどういうものかの解説にとどまらず、自社の経営ビジョンに向けてどのように組織として向き合うべきか、RPAの運用で失敗しやすいポイントと気を付けるべき点、運用を中長期的に成功させるために大切なこと、実際の中小企業における具体的なRPA活用事例、DX時代に向けたチームビルディングをいかに実現するかなどについて、なるべく実践的に分かりやすく解説していきます。
 とりわけ、「3カ月で『自動化経営』に向けた舵を切れる」をコンセプトに、これまでの経験を皆様の会社でのRPA活用プロジェクトに役立てていただけるようにお伝えできたらと思っています。
 私の思いは、「IT分野で世界から後れを取っていると言われる日本企業を強くしたい」「日本企業の持つ魅力をデジタル時代に昇華させたい」というものです。RPAはIT分野のほんの一部に過ぎませんが、うまく運用を成功させればその効果はとても大きいものです。
 本書を手に取ってくださった経営者・幹部・現場社員の方々にとって、今後の新しい時代に向かって明るい未来やビジョンを実現するための「起爆剤」になれたら、これほどうれしいことはありません。

兎澤直樹(Naoki Tozawa)


【目次】

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