その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は馬渕邦美さんの『 ジェネレーティブAIの衝撃 』です。
【はじめに】
対話型AI「ChatGPT」が大きな注目を集め、ネット・テレビ・新聞などで連日大きく取り上げられています。話題の範囲はビジネス・産業にとどまらず、教育・政治・文化と幅広く、その有用性について議論される一方で、間違いや悪用、個人情報を含むデータ利用、著作権を含む知的財産権問題などが指摘されています。問題点が指摘されるのは注目の高さの裏返しであり、インターネットやスマートフォンなど、大きなイノベーションが起こったときにはいつも生じていることです。
ChatGPTはOpenAIのサービスです。そのベースとなるテクノロジーを「Generative AI(ジェネレーティブ AI)」、日本語では「生成(系)AI」と呼びます。Generative AIは自然言語でテキストなどを生成するのが特徴で、従来のAI以上に応用範囲が広く、小学生から高齢者まで幅広い層で利用できます。ChatGPTはテキスト・文章を対象にしますが、同様に、画像や動画を生成するGenerative AI、プログラムコードを生成するGenerative AI、音声合成や音楽を生成するGenerative AIなどもあり、それらの開発・利用は急速に進んでいます。
Generative AIの影響範囲は広く、既存の産業や生活にも大きなインパクトを与えると考えられますが、そうした中でも特に、専門職・事務職・技術系ホワイトカラーの働き方や雇用への影響は近い将来、とても大きなものになると考えられます。一部では、「Generative AIが人間の雇用を奪う」といった見方がされていますが、それは既存のAI、またインターネットやロボットなどのイノベーションが起こったとき、いつも言われてきました。私は、雇用が奪われるという面より、生産性を向上させて新しい働き方や雇用を創出し、企業の事業機会を創出し、また在宅や遠隔での勤務を含む新しい生活を可能にするという面の方がはるかに凌駕(りょうが)すると見ています。
Generative AIはデジタルテクノロジーであり、世界的なトレンドになっているデジタル化(Digital Transformation:DX)にも大きな影響を与えます。日本企業の実情を見れば、デジタル化で大きく後れを取っている企業の多くは更なるデジタル戦略の見直しが必要になると思います。
デジタル化の後れの背景には、IT技術者の人材不足、導入する企業のデジタル化への意識の低さ、投資の問題などがあると考えられますが、結果的に日本の産業の生産性の低さにつながったことは否めません。
日本社会は高齢化・人口減少問題に直面しており、生産年齢人口(15~64歳)のピークは1995年で、その後は減少を続けています。この問題を解決するには「生産性向上」が不可欠であり、AI、IT、ロボットなどの技術を導入することは必須で、人材不足が立ちはだかります。
こうした状況にあってChatGPTのようなGenerative AIの登場は、日本にチャンスをもたらしてくれます。Generative AIはIT技術者のような人材が社内にいなくても利用可能で、これまでのデジタル化の後れを一気に取り返し、逆転できる可能性があるのです。
現在、Generative AIの基盤技術は欧米優位ですが、まだ多くのレイヤーでは勝敗が決しているわけではありません。大企業ではGenerative AIを社内利用してデジタル化を一気に進め、スタートアップ企業はGenerative AIのアプリ開発やサービス提供などで世界に打って出ることで、これからのデジタル社会の構図を変えるチャンスが生まれます。
ただし、そのためには企業内カルチャーや組織体制の変革、規制環境の整備、倫理やあるべき社会像、働き方の検討、人間の主体的意思決定とAIとの役割分担・協調といった多くの課題を検討し、対応していく必要があります。
本書は以上のような考えに基づき、ChatGPTを代表とするGenerative AIの技術や将来動向を踏まえたうえで、
- 「ビジネス・事業」(どのようなビジネスチャンスがあるか)
- 「業務適用・雇用」(ホワイトカラーはどのように活用すればいいのか)
- 「倫理」(生じ得る問題にどう対応していくか)
- 「未来」(ビジネスと雇用の両面で先手を打つにはどうすればいいか)
という視点で記述しています。
本書は7章構成で、ポイントとなる箇所ではキーパーソンへのインタビューを実施しています。
第1章では、Generative AIの概念、類型、用途などを概観し、Generative AIの発展に至る経緯や最近の動向を示します。そのうえで、Generative AIを「ビジネス・事業」と「業務適用・雇用」に分けて、その概要を示しています。前者は第3章、後者は第4章で、より詳しく述べています。インタビューは、Generative AIの教育や技術開発、スタートアップ支援を実施している伊藤穰一氏に登場していただきます。
第2章では、Generative AIの技術を概観するとともに、その基盤となる技術の発展経緯、用途とその拡大について示します。また、「シンギュラリティ」という言葉で示された人間の知能を超えるような状況にGenerative AIは達しつつあるのかも見ていきます。本章ではAI研究の第一人者、国のAI戦略会議の座長に就任された東京大学・松尾豊教授にインタビューをさせていただき、資料も活用させていただいております。
第3章では、Generative AIの「ビジネス・事業」について、想定される産業構造を踏まえつつ、Generative AIをビジネス・事業として展開している企業とその事例などを示します。インタビューは、ChatGPT開発元のOpenAIと連携してGenerative AIに全面的に取り組んでいるMicrosoft(日本マイクロソフト)にさせていただいております。
第4章のテーマは「業務適用・雇用」です。自社の業務にGenerative AIを利用している企業の代表としてパナソニック コネクトの事例を取り上げています。また、雇用、生産性、経済成長に関するマクロ的な試算結果から、Generative AIがホワイトカラーなどの仕事をどう変えるかを検討しています。インタビューは、パナソニック コネクト代表取締役樋口泰行氏に登場していただきます。
第5章では、Generative AIにより生じ得る倫理や法律的な問題とその対応可能性について検討します。具体的には、間違いや悪用、個人情報を含むデータ利用、著作権を含む知的財産権の問題などです。欧米では規制やガイドライン作成、一部ではGenerative AIの開発凍結の意見も出ています。日本でも政治的な視点、教育視点などでの検討が進み、Generative AIの有用性を生かしつつ課題にいかに対応するか、議論されています。法規制のみでなく、利用者の倫理、企業の技術利用での解決、業界団体などの自主規制の考え方を示しています。インタビューは、クリエーターの視点で杉山恒太郎氏、メタバースにGenerative AIを利用している、さわえみか氏に登場していただきます。
第6章では、Generative AIの未来について、技術や用途、産業や市場の点から検討を加えています。そのうえで、ホワイトカラーが中心となる具体的な職種、業務について、どのように変化し、どのように対応していくべきかについて考え、今後ホワイトカラーに必要なスキルや能力、有望な職種を例示しています。インタビューは、AIやロボットに関する研究開発の第一人者、金出武雄氏に氏独自の見解を含めて伺っています。
第7章では、1~6章に示された内容を要約するとともに、今後留意すべき点、行政対応を含めた方向性や可能性を示しています。
Generative AIは、インターネットやスマートフォンと肩を並べる革新的なイノベーションとして世界に躍り出ました。
今、私たちはその黎明(れいめい)期に立っています。技術の開発、導入、そして商業化のスピードは速まる一方で、その影響はまさに我々の生活全体に及びます。短期的な視点では、特にホワイトカラーの職場で働き方が変化し、既存の職務が脅威にさらされるかもしれません。しかし、その一方で新たな職種や働き方への視野が広がり、これまでの常識が根底から揺らぎます。また、クリエーティビティ豊かな職種ではGenerative AIをいかに活用し、自身の能力をいかに伸ばすかという問いが、ますます重要性を増していくでしょう。
この書籍の作成に当たり、多くの専門家にインタビューを実施し、彼・彼女らの意見や資料を共有させていただくことで、深い洞察を得ることができました。本書はその成果の集大成です。ここで、ご協力いただいたすべての方々に心からの感謝の意を表します。
皆様が本書を通じて、自身の働き方の見直しやGenerative AIの活用によるスキルアップの可能性、企業におけるGenerative AIの導入とその生産性向上や新規事業創出へのインパクトを探る参考になれば、これほどうれしいことはありません。
【目次】





