その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は池上彰さんの『 池上彰のやさしい経済学[令和新版]1 しくみがわかる 』です。
【令和新版のための「はじめに」】
あらためて経済学の勉強を
経済学部ではない大学生諸君に講義した経済学の講義を本にしてから10年、その改訂版を出すことになりました。あれから日本も世界も大きく変わったからです。
しかし、経済の仕組みというのは、時代が変わっても意外に大きな変化はないものです。ですから、いったん経済学の基礎をしっかり学んでおくと、ずっと役に立つのです。
そこで、情勢の変化を踏まえて、加筆修正をしてみました。
この10年で大きく変わったことといえば、なんといっても新型コロナウイルスによる感染症の拡大でしょう。感染の拡大を防ぐため、世界各国は都市のロックダウンに踏み切ったり、外出の自粛を呼びかけたりしました。その結果、経済活動は低下。国際間の貿易額も縮小しました。
経済学の基本である「需要と供給」の関係に照らしてみると、「需要」が突然消失してしまったのです。
それまでも「需給ギャップ」が問題にされてきました。つまり、大量の商品の供給はあるのに、需要が追いつかない状態で、不景気だったのです。それが一段と広がってしまったのです。
その結果、石油価格が急落しました。経済活動が止まると、石油の需要が減るからです。石油の供給量はすぐには減らせませんが、需要が減ったために、ここでも「需要と供給」の関係で石油価格が下がったのです。
時代が変わり、国際情勢が変化しても、「需要と供給によって価格が変動する」という経済学の基本に変化はなかったのです。
でも、経済活動が止まったことで石油を使わなくなったら、世界各地で大気汚染が軽減され、きれいな海も戻ってきました。私たちの経済活動が、いかに世界の環境を汚染していたかが歴然としました。
それでも新型コロナ対策としてワクチン開発が急ピッチで進み、ワクチンのおかげで前のような経済行動が復活してきました。
コロナ禍で日本に来ることができなかった外国人観光客の姿も各地で見るようになりました。「インバウンド」の復活です。この人たちのおかげで、日本経済が潤うことが期待されています。
その一方、2022年2月にはロシアによるウクライナ侵攻が勃発。日本を含む欧米各国はロシアに対して経済制裁を発動しました。ロシアから石油や天然ガスを買わないようにしたために、それ以外の国の石油や天然ガスの価格が暴騰し、私たちは、高い価格でエネルギーを輸入しなければならなくなりました。それは即、電気料金やガス料金の値上がりに直結しました。これにより、インフレという言葉が頻繁に聞かれるようになりました。デフレから一転、インフレが問題になってきたのです。
これまで日本銀行は金融緩和を進め、物価上昇率2%を実現しようとしてきましたが、全く効果がありませんでした。ところがロシアによる侵略で、日銀の目標が達成できそうになってきました。皮肉なことです。
エネルギー価格の上昇だけではありません。ウクライナもロシアも小麦の一大産地。小麦が輸出できなくなったことで、国際社会の小麦価格も急騰しました。
こうした光景を見てしまうと、私たちは「食料安保」という言葉を思い出します。食料自給率をどう高めるか、食料のサプライチェーンをどう構築すべきか、議論は尽きません。そんな議論を理解するためにも、経済学の基礎知識は必要になります。まずは、この本から始めてみましょう。健闘を祈ります。
2023年6月
ジャーナリスト 池上 彰
【目次】
