その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は裴英洙さんの『 医療経営学概論 』です。「刊行に寄せて」をお届けします。

【刊行に寄せて】

 医療現場で長く勤務していると、多くの医療職がある日突然、管理職や経営を担う立場に立たされる場面に遭遇する。そのとき初めて、「経営を学ばなければならない」と痛感するものの、いざ勉強を始めようとしても、何から手をつけたらよいのか分からず戸惑う医療職は多いのではないだろうか。私自身も、かつて外科医として臨床に携わっていた。これまで働いてきた多くの病院では日々、現場職員が汗水を垂らし現場を走り回っていたが、上からは「経営が厳しいから頑張れ」と言われ続けてきた。ただ、「何を、どう頑張ればよいのか?」といった方法論は教えてもらえなかった。

 患者の命を救うために奔走する日々の中で、組織運営や集患、会計、モチベーションマネジメントなどの経営的な知識がなければ、病院の持続的な成長は困難であることを痛感し、私は経営の世界に足を踏み入れた。そして、経営コンサルタントとして、また複数の大学院で教員として医療経営に特化した人材育成に携わりながら、医療機関の経営課題に向き合っている。

 医療機関で働く人が経営に興味を持つきっかけは人それぞれだが、多くの場合、それは「管理職になった」「病院の経営状況が悪化している」「組織の運営に疑問を感じた」といった切実な事情からであろう。とはいえ、医療現場での日々の業務に追われる中で、体系的に経営を学ぶ時間を確保するのは容易ではない。さらに、MBA(経営学修士:Master of Business Administration)の教科書や経営学の専門書を開いてみても、一般的な企業経営を前提とした内容が多く、医療機関の経営にすぐ生かせるものは多くない。加えて、世の中にある経営学関連・MBA関連の書籍は、多くが複雑で理論的なものが多く、医療職にとってはとっつきにくいのが現状である。また、医療経営に特化し、初学者が体系立ててかつ網羅的に学ぶことができる書籍は決して多くはない。そのため、医療経営に関心を持ったとしても、どこから手を付ければよいのか迷ってしまう人が多いのではないだろうか。

 医療経営は、医療現場と経営のバランスを取りながら、限られた資源を最大限に活用し、質の高い医療を持続的に提供することが求められる。財務管理、人事戦略、マーケティング、組織マネジメントなど、医療経営には多岐にわたる経営学の知識が必要であり、それらを総合的に理解し、現場に応用できる力を養うことが重要である。

 本書は、そうした現場のニーズをくみ取り、多くの経営理論に基づく内容をベースに、医療機関で働く人が理解しやすいように医療経営の知識を体系的に学べるように執筆した。経営学の基本を押さえつつ、医療経営の現場で直面する課題に即した内容とし、MBAのエッセンスを取り入れながらも、できるだけ分かりやすく、実践的な視点でまとめている。

 また本書では、理論だけでなく、医療経営の現場に応用できるケースや具体例を多く盛り込んでいる。実際の医療経営に携わる方々が直面する課題や事例を交えながら、実践的に理解を深められるよう工夫している。これにより、単なる経営学の概念を学ぶだけでなく、実務に生かせる知識として定着しやすくなることを期待している。

 本書が、医療経営に携わる全ての人にとって、経営の学びを深め、組織の持続的な発展を支える一助となれば幸いである。

2025年3月31日
慶應義塾大学大学院 健康マネジメント研究科/経営管理研究科 特任教授
裴 英洙


【目次】

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