その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は井戸美枝さんの『 残念な介護 楽になる介護 』です。

【はじめに】

 人生、何が起こるかわかりません。

 いつでも人生の「危機」はやってきます。私が「危機」という言葉を身近に感じたのは、1995年の阪神・淡路大震災で被災したときです。地震の揺れはほんの数十秒でしたが、6000人を超える方々が亡くなりました。そして、地震の直後だけではなく、その後、物理的なライフラインの復旧をはじめ、元の生活に戻るまでの日々は大変なものでした。生活が落ち着いて最初に考えたのは、このような目に二度とあいたくない、被害を最小限に抑えられるように準備をしようということでした。

 最近、現れた「危機」は、新型コロナウイルスのパンデミックです。日本人の平均寿命の伸びをもたらした要因の1つに伝染病の克服があります。今回、伝染病は決して過去のものではないことを痛感させられました。ウイルス感染を防ぐため、人との接触をできるだけ避け、家にこもることが多くなりました。地震の場合は隣近所との協力が不可欠ですが、今回は、頼りになるのは自分と家族、つまり世帯の自力です。各世帯で準備ができていたでしょうか。

 そして、人生の「危機」は「死ぬこと」です。地震や伝染病だけではなく、普段の生活の中でも、病気や事故などで「死ぬこと」と向き合っています。事故、災害や伝染病による突然の死ではなく、普段の生活の中で「死ぬこと」をどう迎えるかは難しいことですが、対応しなければなりません。

 親の介護は、いわば「親が死ぬこと」と向き合うことです。そして、このことは、「自分が死ぬこと」への準備をすることにつながります。私は、夫の両親を含め4人の親を亡くしましたが、私自身の死をどのように迎えればよいのか、これらの経験がこと細かく教えてくれたように思います。

 介護を上手に乗り越えるには、自助、共助、公助の3つの視点が必要になります。自分や家族だけでは対応できないことが数多くあり、ほかの人や公的な機関からの支援が必要となります。しかし、最も大切なのは、自分たちが自ら乗り越えるという強い気持ちを持ち続けることです。その気持ちを後押しし支えてくれるのが、共助であり公助です。最初から、他者からの援助や支援があるわけではありません。なぜなら、どのようなことに困っているのか、どのような助けがいるのかは、家族によって異なるからです。

 また、介護は在宅が良いのか施設が良いのか、と安易に聞かれることがあります。当たり前ですが、ふつうは、住みなれた在宅のほうが施設より良いものです。私は、在宅で支えきれなくなったときに、施設での介護を考えるべきだと考えています。病気が悪化した際に、病院に入院するのと同様です。ただ、在宅で支えられなくなる状態は、要介護者の状況、家族の構成・同居や別居によって異なるので一様な答えはありません。この点も、自分たちでしっかり考える必要があります。

 介護のような「危機」への有効な対応方法は、次の3つにまとめられます。

 まず、「危機」に関する情報を収集し、現状を分析して課題を明確にすること。次に、課題を解決するためにやるべきことを明らかにし、それを実行するためのハードルをクリアしながら万全の準備をすること。最後は、予行演習や訓練です。これらは、地震などの大規模災害に備える方法と同じです。

 親の介護に備えるためには、まず、親の状況を把握し、あわせて介護に関する情報を収集して課題を明確にします。情報収集については、本書のような関連書籍や、テレビ番組などの映像情報が多くのことを教えてくれます。現状分析については、親の心身・経済の状況、同居・別居の別、隣近所や友人・知人などの交友関係、医療機関・介護保険施設・公的機関などの所在地と担当者氏名・連絡先などを調べます。そして、今後どのように対処していくか方針を決め、そのための準備を行いますが、ポイントは自分や家族だけで課題を解決しようと殻に閉じこもらないことです。悩みは家に置いて、外に出て「つながり」を持つように心がけましょう。

 そして、最後の予行演習・訓練で大切なのは、親戚や知人の介護を、数多く、現場を含めて経験しておくことです。介護は生活全般にかかわることなので、詳しく理解するためには現場を知ることが有効です。

 本書は、長い道のりになる親の介護への最初の一歩となればと思い、執筆しました。各章の冒頭では、よくある介護の問題をストーリー形式で紹介し、実際の事例をイメージできるようにしました。その後に、問題を解決するための公的制度やサービスなどの活用方法を詳しく解説しています。先に述べた情報収集のお役に立てば幸いです。なお、本書の内容は執筆時点のものです。

 最後に、企画編集の段階から協力してくださった村田くみさん、さまざまなアドバイスをいただいた日経BP 日本経済新聞出版本部の小谷雅俊さんに、深甚なる感謝の意を述べさせていただきます。

 2020年12月

井戸美枝

【目次】

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