その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は李世暉さんの『 半導体最強 台湾 大国に屈しない「チェーンパワー」の秘密 』。「序文」をお届けします。

【序文】

チェーンパワーが決める新世界秩序

 世界は計り知れないほど長く暗いトンネルに入っている。トンネルの先にはかすかな光があり、列車を急速に前進させる原動力は国家権力の新しい概念であるチェーンパワーだ。このチェーンパワーこそが、世界の4大火薬庫が次々に爆発し、世界が戦争に向かう状況を防ぐ鍵となる。人類が今後、幸福に導けるか、禍(わざわい)を招くかが分からない時代、すべてはその力を発揮できるかどうかにかかっている。

 2018年から本格化した米中貿易戦争により、米国と中国という2大国間の競争が激化した。その後のロシア・ウクライナ戦争、イスラエル・パレスチナ紛争、半導体サプライチェーンを巡る競争により、国際的な政治的・経済的緊張はさらに高まっている。

 世界の地政学は暗くて光のないトンネルに入った高速列車のようなものだ。トンネル内は煙で充満し、前方の視界は遮られた。

 この暗いトンネルに直面して、ほとんどの国際政治学者は悲観的な態度をとっている。

 最も代表的な見解は、米国の政治学者グレアム・アリソン氏のものだ。2017年に提唱された「トゥキディデスの罠」で、アリソン氏は歴史的証拠を通じて、アテネの台頭がスパルタの恐怖を引き起こし、それが最終的に戦争につながったと論じている。今日の米国と中国の関係もまた、アテネとスパルタの歴史、つまり新興覇権の歴史をたどっている。中国の台頭は既存の覇権国である米国を脅かしており、両国間の戦争は避けられない。

 しかし、本当に米国と中国間の戦争はアリソン氏が言うほど「避けられない」のだろうか。この暗い地政学的トンネルの先には光、明るい未来はあるのだろうか。これら2つの問題について考えるとき、私たちはまず米国と中国の間の主要な紛争問題が何であるかを理解する必要がある。

 各種戦略報告書を検討すると、米中対立の原因は3つある。1つ目は台湾海峡、東シナ海、南シナ海を巡る安全保障上の対立。2つ目は半導体を中心とした技術競争。3つ目はシーパワーとランドパワーを巡る米中の対立、価値観の違いだ。これら3つの主要な紛争には台湾という共通点がある。

密接につながる国家の実力に注目

 国際関係論の観点から見ると、地政学における最も重要な概念は「国力」だ。国力は政治・経済レベルでさまざまな形の「実力」として現れることになる。これまで国際関係学者たちは、どの国が世界情勢を最もよく主導できるかを分析するために、ハードパワー、ソフトパワー、スマートパワー(巧妙さ)、シャープパワー(鋭さ)などの概念を次々に提案してきた。

 ハードパワーは「軍事力」を重視し、ソフトパワーは「文化力」を、スマートパワーは「戦略力」を、シャープパワーは「メディア力」を重視する。これらの力を合計すると、その国の総合的な国力と特殊な力が見えてくる。

 しかし、歴史はダイナミックに前進し、新たな変数や新たな情勢が生まれている。21世紀の現時点において、こうした強さの指標のみに頼って国際情勢全体を分析することは、しばしば誤った判断を招く可能性がある。前述したように、米中対立は地理、技術、サプライチェーン、民主主義と全体主義的価値観など多方面に広がり、国力も本質的に変化している。地理的位置や、サプライチェーン、価値観の結びつきなどにおいて緊密に連鎖すればするほど、国力は強くなる。

 このような「連動する力」を「チェーンパワー」と呼ぶ。チェーンパワーの重要性、なぜそれが新しい時代に必要なのかをより明確に理解するためには、次の命題を考えてみるとよい。

  • チェーンパワーとは何か
  • なぜ今、チェーンパワーが注目されているのか
  • なぜチェーンパワーは密接につながることを重視するのか
  • なぜチェーンパワーは地理的空間に対する人間の理解を変えるのか
  • なぜ人類史上初めて技術力が地政学の一部となったのか
  • なぜシーパワーとランドパワーという伝統的な二分法が覆されたのか
  • なぜ「緩衝地帯理論」の定義が書き換えられたのか
  • チェーンパワーは世界の政局にどのような影響を与えるのか
  • 新たな状況に直面して、チェーンパワーに含まれるアイランドチェーン、サプライチェーン、バリューチェーンは互いに何をすべきか

チェーンパワーとは何か

 チェーンパワーとは、地政学が生み出した新しい意味の国力だ。それは地理的、経済的、普遍的価値観のつながりと、特定の国が行使する力に基づいている(図表0-1)

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 チェーンパワーの特徴の1つに「非代替性」がある。例えば、地理的な場所やグローバルな経済を支える産業において他への置き換えができないものなどは、強い連携関係を生み出す。国際社会では、重要な問題に関する連携が広く深くなるほど、その国のチェーンパワーは強くなる。

 現在の国際舞台における最も重要な問題は、安全保障、技術、価値観における米中の競争と対立である。安全保障問題に関して、米中の対立が最も激しい海域は、ユーラシアと太平洋が交わる台湾海峡、東シナ海、南シナ海である。

 米国は第2次世界大戦後、台湾を中心に北東アジアの日本、東南アジアのフィリピン、インドネシアまでを結ぶ列島線防衛システムを継承した。一方、中国は第一列島線包囲網を突破するため、台湾北側の宮古海峡と台湾南側のバシー海峡で海洋勢力を拡大している。

 科学技術では、中国が科学技術発展の鍵となる技術、特に半導体技術を入手するのを阻止するために、米国は日本、韓国、台湾と半導体同盟を結び、世界の半導体サプライチェーンを支配している。一方、中国は半導体サプライチェーンの脆弱な関係を強化することに全力を注ぐとともに、台湾の半導体メーカーを取り込んで独立した半導体サプライチェーンを確立しようとしている。

 価値観の問題に関しては、米国が推進する自由民主主義の価値観は、民主政治と経済的繁栄の前向きな関係を強調している。かつては、そのような価値観が旧ソ連の共産主義を打破する上で重要な力となった。一方で、中国は米国に代表される自由民主主義は、中国社会には合わないと主張している。中国の国家発展のもう1つの道筋、つまり独裁政権も経済的繁栄を生み出す可能性がある。

 米中対立における上記3つの問題は、いずれも台湾と密接に関係している。地理的位置、技術発展、価値観が絡み合った発展傾向の下で、チェーンパワーは台湾の力を評価するための重要な概念となっている。

 まず、台湾は第一列島線の中心に位置し、北東アジアと東南アジアを結ぶ重要な架け橋である。これが台湾の第1のチェーンパワーとなる。

 次に、台湾積体電路製造(TSMC)を筆頭とする台湾の半導体企業は、世界の「半導体サプライチェーン」においてかけがえのない地位を占めており、主要国間の技術競争の行方に直接影響を与える。これが台湾の第2のチェーンパワーだ。

 最後に、台湾は中国社会に民主主義と繁栄のモデルを確立することに成功し、「民主の連鎖」を通じて自由民主主義陣営と強固なパートナーシップを形成している。これが台湾の第3のチェーンパワーとなる。

 この論理に従うと、中国の「レッドサプライチェーン」もチェーンパワーと見なされるのかと疑問に思う人もいるかもしれない。実際、中国を主体とするレッドサプライチェーンも「連動」効果を発揮しようとしている。

 近年、中国はテクノロジー産業の強化に熱心に取り組んでいるだけでなく、米国、台湾、日本、韓国の「チップ4連合」に対して、中国国内での自給自足のテクノロジー産業チェーンと産業システムを確立し、「一帯一路」の戦略軸を利用して、陸と海から政治的、経済的に連動する国際的なつながりを構築しようとしている。

 しかし、レッドサプライチェーンは、地理的、技術的にも、サプライチェーン、バリューチェーンを連動させる能力が十分ではなく、山や海が地理的なつながりを妨げているほか、一帯一路同盟諸国の価値観もそれぞれ異なることから、その関係性が崩れるリスクが高く、強力なつながりを形成できるかは注目に値する。

 以上のことから、チェーンパワーは連動性を重視した一種の国力であるといえる。国家の地理的位置、技術産業上のつながり、価値観などの特性が相互接続され、相乗効果を発揮できるようにすることで、チェーンパワーを強化できる。さらに、他国との地理的、技術産業上の関係性、価値観も相互接続し、チェーンパワーを強化、発展させる必要がある。

チェーンパワーは技術力によって決まるのか

 21世紀初頭、著名な国際政治学者で米国民主党の重要な知恵袋であるジョセフ・ナイ氏は、米国共和党のブッシュ政権が中東に大量の軍事力を投入したが、対テロ政策の目標を達成できず、国際社会からも批判を受けていると指摘した。2004年、ナイ氏は「ソフトパワー」の概念を提案し、文化と価値観が国益の保護または拡大にさらに役立つと唱えた。

 グローバル化の時代において、ソフトパワーの出現は確かに国力に関する新しい考え方をもたらした。米国はまた、留学制度、大衆文化、主流メディアなどの仕組みを通じて民主主義を核とする米国のソフトパワーを世界に発信している。

 テクノロジーの時代、科学技術競争はあらゆる分野に及び、科学技術政策は大国の優先政策となった。テクノロジーの出現は本来、人間の生活を向上させるためのものであり、ある程度の普遍性と中立性を持っている。

 米国と中国という2大国が競争する中で、技術的な中立性は次第に消失し、民主的な技術と権威主義的な技術の間には明確な壁がある。同じ人工知能(AI)技術を使って人々を厳しく監視する国もあれば、経済的利益を生み出すために利用する国もある。同じ半導体チップを使用して弾道ミサイルを製造し、地域の安全を脅かしている国もあれば、携帯電話機やスマート家電の製造に半導体チップを使用し、人間の生活の質を向上させている国もある。今日、テクノロジーは地政学的な変化を支配する鍵となっている。

 1624年、西洋は大航海時代の全盛期で、天文学と航海技術の進歩により台湾も国際政治の表舞台に躍り出た。当時、オランダは東方諸国との貿易の拠点を築くために、北東アジアと東南アジアの交差点に位置する台湾を獲得した。2024年、半導体と電子技術が著しく発展する時代に、オランダの半導体装置大手ASMLと台湾の半導体製造大手TSMCが世界のハイエンド半導体サプライチェーンを独占している。

 過去400年にわたり、台湾の重要性はまずその地理的位置によるものであり、次にその戦略資源によるものだった。特に1880年代に欧州で樟脳(しょうのう)を原料とした安定で強力な「無煙火薬」が開発されてからは、台湾の湾岸産の樟脳は国際貿易の戦略資源となり、一時は世界市場シェアが70%を超えた。1920年代に入ると、樟脳に代わって化学合成火薬の製造法が徐々に使われるようになり、科学技術の進歩により台湾の戦略的地位も変化した。1980年代、台湾は再び科学技術の力を利用して半導体業界に革命を起こし、2010年代には半導体サプライチェーンで最も重要な地位を獲得した。

 100年前の樟脳は戦略資源で、それは軍事分野に限られていた。現代の半導体はあらゆる分野を網羅し、人類の生き方をも左右する戦略資源となっている。この観点から見ると、国家競争の究極の目的がライフスタイルの競争であるならば、半導体をはじめとする科学技術力が勝利の􄼴を握ることになる。現代国民の視点から見ると、そのライフスタイルにおける競争は、安全、安定、安心、それを得るための戦略を追求するものとなる。

 台湾と近隣諸国、さらには世界の主要国にとって、台湾を含む列島線には国家と地域の安全保障、台湾の半導体サプライチェーンには経済と生活の安定、台湾の民主主義チェーンには普遍的価値観による安心が議題として含まれている。つまり、台湾のチェーンパワーは将来の地政学的な動向を判断する重要な要素であり、地政学の暗いトンネルに光を見出すための指針でもある。

国際政治と経済に影響を与えるチェーンパワー

 チェーンパワーにおいて重視される安全保障、テクノロジー、民主主義は本来、互いに比較的独立したものである。国際政治経済の伝統的な分野でも、これら3つの要素はそれぞれの専門的な分野で議論される。重要な国際機関を例に挙げると、安全保障問題を議論する場として国連安全保障理事会、科学技術と経済問題を議論する場として経済協力開発機構(OECD)、民主主義と人権問題について話し合うフォーラムとして民主主義サミットがある。

 今日の国際政治・経済分野では、安全保障、テクノロジー、民主主義要素を含む情勢の変化はもはや独立して議論し対応することはできない。主要7カ国首脳会議(G7サミット)および主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)、BRICSサミットなどで毎年議論されるテーマは、安全保障、テクノロジー、民主主義(あるいはその他の価値観)がほぼ網羅されている。

 2023年に広島で開催されたG7サミットを例に考えてみると、サミット後の「広島ビジョン」では、安全保障問題として武力による現状変更や安定の破壊を目的とする一方的な行動に反対するとともに、経済的安全保障の実施やエネルギー、サプライチェーン、宇宙技術における協力促進に言及した。これらは科学技術の問題である。民主主義の問題としては、人権保護と貧困の撲滅の重要性に言及した。広島ビジョンでは、共有された民主的価値観の下で信頼できるAIを開発し、民主主義と技術開発を密接に結びつける必要性も強調していることは注目に値する。

 現時点において、台湾のチェーンパワーは国際政治経済の発展による必然的な結果であるだけでなく、国際政治経済の動向を読み解く窓でもある。台湾にとって、列島線における戦略的位置は米国と中国の間の力関係の変化を測る尺度であり、半導体サプライチェーンにおける重要な地位は世界の科学技術と経済安全保障のプロセスを決定し、民主主義の連鎖のネットワークは東アジア(中国社会)における民主主義と繁栄の成功への道筋を示す。

 変化する国際政治経済状況に直面するとき、チェーンパワーに含まれるアイランドチェーン、サプライチェーン、民主主義チェーンを台湾の戦略に組み込むにはどうしたらよいのだろうか。まず、多様な参加者による戦略的コミュニケーションプラットフォームが必要であり、台湾の重要企業がそのプラットフォームに参加して議論に参加する必要がある。これにより、チェーン強化戦略に企業の観点や能力が反映され、企業の支持を得やすくなる。

 次に、経済安全保障対話を通じて、地政学的パートナー諸国と安全保障や科学技術の分野で包括的な協力を行っていく必要がある。最後に、台湾の人々を含む現代国際社会の国民が適切な知識と判断力を持てるように、民主的な科学技術に関する議論を促進しなければならない。

選択が迫られる時代に直面する台湾

 近年の国際情勢の変化は、地政学的変化がもはや国家指導者や軍司令官だけの問題ではなく、すべての人に影響を与えるものであることを私たちに深く認識させている。例えば、欧州のウクライナとロシア間、中東のイスラエルとパレスチナ間で紛争が発生すると、世界のエネルギー、食料、食用油、主要資源の供給価格が即座に激しく変動する。遠く東アジアの台湾人もまた、経済への直接的な影響や物価上昇に直面している。現代の地政学が伝統的な軍事、外交、貿易だけでなく、産業、技術、文化などに幅広い影響を及ぼしていることは明白だ。特に地理的なハブの位置にある台湾においては、地政学ならびに現代地政学から発展した台湾のチェーンパワーについて理解する必要がある。台湾人にとって、チェーンパワーは安全保障、テクノロジー、民主主義の要素を含み、私たちの生活に密接に関わっているため、細心の注意を払う必要がある。

 ここで強調しなければならないのは、政治的意思決定者であれ、ビジネスリーダーであれ、一般人であれ、台湾のチェーンパワーを考える際には、次の3つの重要な認識方法を同時に把握しておく必要があるということだ。

 1つ目は「台湾に関するチェーンパワー」。これは台湾の戦略的価値に対する主要国(米国、日本など)の見解となる。第一列島線、海上ライフライン、半導体チップ戦争などのキーワードから理解を進めることができる。

 2つ目は「台湾とのチェーンパワー」。これは大国が台湾に期待する地政学的役割であり、チップ4連合や自由で開かれたインド太平洋地域などのキーワードから始めることができる。

 3つ目は「台湾にのためのチェーンパワー」。これは台湾が自らのチェーンパワーを認識し実行することとなる。台湾自体の生存と発展を維持するために必要な方法でもあり、半導体サプライチェーンや海洋民主主義などのキーワードから始めることができる。

 台湾は世界の火薬庫の1つで、かつては「世界で最も危険な場所」と見なされていた。世界に4カ所ある火薬庫のうち2カ所が爆発し、残りの2カ所も極めて危険性が高いと見なされていることから、台湾人はもはやこの問題から目を背けることはできず、この地に住むが故の戦略をさらに深く理解し、自らのチェーンパワーを認識して使いこなす必要がある。

 国際政治経済全体の中で特別な国際的地位を占めている台湾は、交差点で道路を渡るのを待つ歩行者のようなもので、信号に従って行動することに慣れている。信号に基づいて行動する方が安全だからだ。台湾だけでなく、世界中のほとんどの国は信号に従うことに慣れている。しかし、米中対立という新たな国際情勢の下で、この信号機能の一部が大きく変化し、過去の常識では判断できなくなってきている。

 想像してみよう。横断歩道を歩いていた歩行者が、突然歩行者用信号が青から赤に変わったことに気づいた。元の交差点に戻るべきか、それともスピードを上げて交差点の向かい側まで走るべきか。台湾は現在そのような状況に直面している。交差点に戻って次の信号を待つのも選択肢の1つだが、信号がいつ青に変わるかは分からない。反対側の交差点に向かってスピードを出すことも考えられるが、事故の危険にさらされる可能性がある。最もタブーなのは、何も選択せずに道の真ん中に立つことだ。国際情勢が大きく変化するこの時代に、東アジアの地政学と台湾のチェーンパワー分析を深く理解すれば、今、台湾が選択を迫られる時代であることが分かるだろう。

【目次】

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