その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は磯貝友紀さんの『 必然としてのサーキュラービジネス 「利益」と「環境」を両立させる究極のSX 』です。

【はじめに】

地球の限界の中で成長を目指す

 2022年の4月に、『2030年のSX戦略』を発刊してから、2年たった。この2年でサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)を語らない大企業はなくなり、サステナビリティ経営は主流化しつつある。しかし一方で、サステナビリティが企業の成長ストーリーに結びついておらず、相変わらず、どのようにサステナビリティが収益や成長につながるのか、具体的にイメージできていない人も多いのではないかと感じている。

 SXに着手した企業は、自社のマテリアリティ(重要課題)を特定したり、価値創造ストーリーを描いて、実現に向けて動いたりしている。しかし、本当の意味で、価値創造ストーリーと事業戦略の中にサステナビリティを組み込み、事業活動そのものとしている企業は、残念ながらまだ少ない。

 そのギャップを埋めることが、本書執筆の最大の動機だ。本当に成長ストーリーに結びつくようなサステナビリティ経営を、日本企業が実装し、ドライブしていくためにはどうしたらいいか、読者の皆さんとぜひ共有したいと思っている。

 前著から2年の間に、私たちも知見を深め、思いを新たにしたことがある。特に、大きな刺激になったのは、欧州とアジアを視察し、SXを積極的に進めている企業の進化のスピードを、久しぶりに、実際に肌で感じたことだった。

 コロナが明け、2023年5月にオランダとデンマークのサステナビリティを積極的に推進している企業を視察し、同年10月には、ASEAN4カ国(マレーシア、インドネシア、シンガポール、タイ)の主にサーキュラーエコノミーに関係する50以上の企業や団体を訪問した。

 これらの経験を通じて、確信したことがある。それは、今後のサステナビリティ経営のキーワードは、「人間中心主義」と「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」だということだ。この二つのキーワードを軸に、再度、あなたの会社で取り組んでいるサステナビリティ経営を見直し、再構築するためのフレームワークを提供することが、本書を執筆した目的だ。

 サステナビリティと聞くと、多くの人は、「何かを我慢しなければならない」「○○してはいけない」といった禁欲的なイメージを抱きがちだ。だが、それはサステナビリティの真の姿ではない。

 欧州でサステナビリティを積極的に進めている企業の幹部たちと話していて強く感じるのは、彼らの「人間中心主義」の視点だ。すべての人が豊かに、幸せに、便利に暮らせるようにするという目的を、地球の限界の範囲内でどう実現できるか。それに対してビジネスが果たすことのできる役割を彼らは追い求めている。つまり、主役である人間が我慢を強いられるのではなく、「地球の限界の範囲内」という条件付きで、人間が欲望を追求することをよしとしているのだ。

 もちろん、そのためには、ビジネスのやり方を大きく変える必要がある。その解決方法として、限られた資源の採取や排出を最小限に抑える「サーキュラーエコノミー」が鍵となってくる。いや、環境・社会と経済成長を両立させるには「サーキュラーエコノミー」しか道はない、と著者は言いたい。

 残念ながら、サーキュラーエコノミーを廃棄物リサイクルのことだと誤解している人が少なくない。もちろんリサイクルは重要だが、それはほんの一部分にすぎない。サーキュラー化を実現していくためには、原材料生産における環境負荷低減、製品の長寿命化やリサイクルを考慮した企画・設計から、アズ・ア・サービス化(製品機能のサービス化)を含めたビジネスモデルの変革、アフターサービスや修理・部品交換・回収など顧客との接点強化、廃棄物の再資源化などでの静脈産業との連携、業界他社との協業などさまざまな施策が必要となってくる。サーキュラー化というのは、バリューチェーンの上流から下流までその全体にわたって変革が求められる非常にスケールが大きい話なのだ。

 さらに本書では、サーキュラー化をより広義に、金属やプラスチックなどの素材の循環だけではなく、炭素(C)や、自然(食糧)の循環も含む概念として提唱したい。

環境問題とビジネスの本質的関係を理解する

 他方、この2年の間に、生物多様性条約の締約国会議(COP)での生物多様性枠組やTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)のガイダンスが発表され、世界では生物多様性に対する関心が急速に高まっている。日本では、CO2削減や気候変動ばかりに関心が集まりがちだったが、それらと同等かそれ以上に重要な環境課題にようやくスポットが当たるようになった。

 しかし、日本企業の反応は複雑だ。「CO2削減だけでも大変なのに、生物多様性まで手が回らない」「CSRD(EU企業サステナビリティ報告指令)や開示の要求など、欧州のせいでやることが増える一方だ」との不満もたくさん聞こえてくる。

 主に欧米からやって来るこうした要請の一つひとつに対して、その都度対応するのは確かに大変だろう。だが、大変なのは、課題に対してばらばらに対応しているからだ。実は、今問題になっている気候変動やCO2排出、資源の枯渇、生物多様性の喪失、水問題などの環境課題は、「採取と拡散」というレンズを通すと、すべて一つのフレームワークで整理できる。このフレームワークこそ本書の核だ。

 後ほど詳しく説明するが、このフレームワークを使ってさまざまな課題を整理すると、CO2排出、資源枯渇、生物多様性喪失など、これまでばらばらだと思っていた事象が背後でつながり合っていて、自分たちの会社はその中でどんなポジションにいるのか、今後どんな役割を果たすことができそうか、あるいは、どんなポジションに移動したいかなどが、大きな絵として見えてくる。だから、新たな環境規制の話が出てきても、右往左往する必要がない。

 このフレームワークでは、自分の会社の事業だけでなく、原材料となる資源の採掘から廃棄後のリサイクルまで、サプライチェーンの始点から終点までのすべてを一つの図に示している。そして何より大事なのは、この図を見ながら、「サーキュラーエコノミー」化をどう実現できるか、構想をめぐらせることが可能なことだ。

 本書では、このフレームワークを業界ごとに提示し、欧州の最新の企業事例も紹介しつつ、人間中心のサステナブルな成長ビジネスとサーキュラーエコノミーの実現方法を考えていく。すでに、欧州でサステナビリティを積極的に進めている企業の一部は、まだ部分的ではあるがサーキュラーエコノミーの考え方を事業戦略に取り入れ、ビジネスモデルを変革し、優位性を生み出そうとしている。

 なぜなら彼らは、サーキュラーエコノミーがこれからの企業経営の必然となる、と考えているからだ。地球環境が限界を迎えている今、中長期的に見れば、天然資源の新たな採取(石油や鉱物の発掘だけでなく、森林伐採による耕作地化なども含む)は先細りにせざるを得ず、最小限に抑える必要がある。一方で、世界の人口は増加し続けており、経済成長が必要な国もまだまだ多く、食料を含めた原材料の需要は増加し続ける見込みだ。この状況が行き着く先は、食料を含めた資源の争奪戦だ。現在、当たり前のように手に入っている資源が希少化し、なかなか入手できなくなる世界が口を開けて待っている。

 その暗黒の世界に巻き込まれないためには、バリューチェーンのループを閉じる必要がある。つまり、一回採取した資源(原材料だけでなく、製品製造時に使用したエネルギーや水、排出したガスなども含む)を可能な限り回収して、再度原材料などに利用してぐるぐる回していくしかないということだ。

 サーキュラーエコノミー化は、環境課題の解決というディフェンシブな面だけでなく、ビジネスチャンスの創出や競争優位性の確立という攻めの経営にも役立つ。本書では、先進事例とともにそのためのフレームワークと具体的な活用法を示す。

ASEANとの関係再考のすすめ

 これから日本企業が目指すべきは、サステナビリティ課題の解決と成長の両立であり、「人間中心主義」と「サーキュラーエコノミー」がその鍵を握ると述べたが、もう一つ重要な視点がある。それは、成長をどの場所で実現していくか、という視点だ。少子高齢化が進む日本では、国内市場の成長は見込みにくい。そこで、私たちが注目しているのがASEANの国々だ(具体的には、インドネシア、ベトナム、マレーシア、タイ、フィリピン、シンガポール、カンボジア、ブルネイ、ラオス、ミャンマー)。

 今後、ASEANに経済成長の大きなポテンシャルがあることは誰もが認めるところだが、現在の先進国がたどってきた道と同じように、化石燃料などの資源を湯水のように使うことは、現在の地球環境を考えると想定しにくい。しかし、経済成長には、資源もエネルギーも必要だ。そのギャップにこそ、日本企業にとって莫大なビジネスチャンスが埋もれている。

 PwCの調査によると、アジアの人々は、日本よりもサステナビリティに関する意識が高いことがわかっている。こうした国々では、大気汚染やプラスチックなどのごみ問題に直面しており、それらがドライバーになってサステナビリティの意識が高まっているからだ。ちなみに、海洋へのプラスチック排出量の約55%はASEAN由来であり、中でもフィリピンは約36%を占める。インド、中国、バングラデシュも排出量が多い。経済成長さえ果たせれば、国や街がゴミやプラスチック廃棄物であふれかえっても仕方ないと考えている人は、ほとんどいないだろう。こうした身近な生活環境における問題が、アジアの人々の高いサステナビリティ意識の背景にあるのだ。

 日本にとってASEANは、攻略すべき成長市場であると同時に、サプライチェーンの重要拠点だ。アジアは世界の市場に投入される製品や部品をつくる一大拠点(世界の工場)である一方、サプライチェーンの上流で先進国企業の代わりにCO2を排出し、先進国から大量の廃棄物の輸入を受け入れているという点でいわば「世界のゴミ箱」でもある。もし、日本企業がこの地において、サーキュラーエコノミーの発想でバリューチェーンを改革し、採取と拡散を最小限に抑えるための事業構造を築き、排出された二酸化炭素や水、廃棄物を資源として再利用する仕組みを整え、ループを閉じることができれば、ASEANの経済成長を取り込めるだけでなく、新たな経済成長のあり方、すなわち「サステナブル成長」のあり方を世界に示すことができるだろう。そして、それは地域や世界のCO2削減やプラスチック問題などの解決に大きく貢献することにもつながるのだ。

 2023年のASEAN訪問で強く感じたのは、中国やシンガポールのマネーが、この新しいサステナブル市場に急激な勢いで流れ込んできていることだった。残念ながら、日本は出遅れているが、決して手遅れではない。これまで日本企業が築いてきたビジネス基盤を生かして、ASEANとともに成長し、成長の果実を分け合うモデルをつくっていくことが、日本企業の成長ストーリーになり得るのではないかと考えている。


【目次】

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