その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は湯 進さんの 2040 中国自動車が世界を席巻する日 BYD、CATLの脅威 。「まえがき」をお届けします。
【まえがき】
本書では、中国自動車産業で起こった電動化と知能化の2つのメガトレンドから、中国企業の世界競争にたどり着くまでの全過程を解明し、「現場」ベースの観察と、諸現象の定量・定性面での分析を行い、2040年の中国自動車産業のシナリオと日本の自動車メーカー・部品サプライヤーのあるべき姿を大胆に議論する。
2025年1月20日、トランプ氏が米大統領に再び就き、「関税の発動」「環境規制の撤回」など、「トランプ2.0」が次々と打ち出されている。米中分断が一層広がるなかで、自動車業界を取り巻く環境の不透明さが増し、中国の自動車産業の発展と中国企業の世界展開に影響が及ぶのは必至である。
2023年から世界で電気自動車(EV)販売の減速でハイブリッド車(HV)に回帰する傾向が強まっているが、自動車業界のメガトレンドに変化はない。特に「走るスマートフォン(スマホ)」と呼ばれるSDV(ソフトウエアによって制御される自動車)の登場により、人工知能(AI)、自動音声応答、自動運転機能を備えるスマートカーが増加し、今後は多くの内燃機関車(ガソリンエンジン車)ブランドが、ガラケーのような古い商品に映り凋落の一途にあると予測される。
世界に先駆けて急速な知能化シフトが起こる中国は決して消費者志向のガラパゴス化に陥ることなく、自動車輸出を強化する一方、グローバルサウス(新興国)や欧州でEV工場を設け、「地産地消」を進めている。自動車メーカーのみならず、中国のリチウムイオン電池メーカー、ITプラットフォーマーやテック系企業、エネルギー関連企業など異業種にまたがる世界競争の本格的な幕開けである。
製造強国を目指す「中国製造(メイド・イン・チャイナ)2025」が発表されて、2025年でちょうど10年になった。近年、同計画が言及される機会は減少しているが、中国の産業発展の方向を示す戦略であり、継続することは間違いない。こうした国家戦略の背後にあるシナリオは、巨大な市場需要を生かし、多くのテック企業が参入することにより、日米欧企業が寡占する既存産業のバリューチェーンを根底から再構築し、新技術で新産業のデファクトスタンダードを握ることであろう。
なかでも製造業の振興に欠かせない自動車産業界は、2025年に大きなターニングポイントを迎える。EVだけではなく、ガソリン車輸出台数でも中国は日本を抜き世界一となり、BYDや吉利汽車を含む複数の中国自動車メーカーが世界自動車販売トップ10入りとなる見通しだ。中国のEVおよびガソリン車が技術力とブランド力の向上を実現したことは、今後日本の自動車産業界にも甚大な影響を及ぼすこととなる。
自動車産業の構造変化において、環境規制が起爆剤となる。1970年代のオイルショックに伴う環境規制は、低燃費の日本車が世界を席巻する契機となった。2015年のパリ協定以降、カーボンニュートラルの潮流が世界で広がるなか、中国政府が主導する「新エネルギー車(NEV)革命」という大胆な試みにより、中国企業は躍進を実現し、念願の「2025年に世界自動車強国入り」という目標は達成したといえよう。
中国におけるNEVの範疇は、EV、プラグインハイブリッド車(Plug-in Hybrid Vehicle:PHV)、燃料電池車(Fuel Cell Vehicle:FCV)に限定されており、日本企業が得意とするHVは含まれていない。NEVは本質的な意味においてゼロエミッションカーではないのものの、中国政府はNEVの普及を推進しており、次世代自動車産業で競争力の向上を図ろうとしている。
筆者は、中国の電動化シフトがどこに向かおうとしているのか、今後の中国と日本の自動車産業はどうなるのかという問題意識で、「現場主義」を掲げる産業エコノミストとして、日中の自動車メーカー、部品サプライヤー、車載電池・材料・設備メーカー等、直近の4年間だけでも約500社を訪問し議論を重ねてきた。中国企業で今何が起こっているのか、日本企業としてとるべき戦略は何か、中国の自動車産業政策と電動化シフトの最前線の動きをふまえて、日本の自動車関連企業が抱える不安や新規事業への期待について助言を与え続けている。本書では、これまであまり報じられてこなかった中国企業のものづくりと開発現場を探るため、BYD、CATL、吉利汽車、理想汽車、テンセント、ファーウェイなどの現場ルポも取り上げる。
2040年の中国自動車産業を取り巻く環境を展望すると、米中2大国が拮抗することで地政学的リスクが発生し、貿易、ハイテク、ビッグデータなど様々な競争が一層激しさを増すと想定される。果たして中国の自動車メーカーは、ガソリン車を中心とする世界自動車産業の勢力図を一変させることができるのか。
本書では中国企業の躍進要因と潜在力を分析したうえで、日本企業がとるべき戦略についても、激しい変容の最中ではあるが大胆に整理を試みた。読者の論考の一助となれば望外の喜びである。
なお本書は、2025年5月時点の情報をもとにしている(論考はあくまで筆者の個人的見解であり、所属組織とは無関係である)。
【目次】




