その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は磯達雄さん、宮沢洋さんの『 絶品・日本の歴史建築[東日本編] 』です。

【はじめに】

 2021年に入っても、海外に自由に行ける日はまだ見えづらい状況だ。コロナ禍には一刻も早く終息してほしいが、「日本の建築」に目を向けるにはとても良い機会であるとも思う。ここ数年、日本の観光地は外国人観光客であふれ、日本人には居場所がない感じがあった。しばらくは、ゆっくり国内の建築を見て回ることができるだろう。


 文章担当の磯達雄と、イラスト担当の宮沢洋が西日本にある歴史的建造物(歴史建築)を実際に訪れ、特に心を動かされた約60件をリポートしたのが「絶品・日本の歴史建築」である。先行して発刊した [西日本編] (29件)と、本書[東日本編](30件)の2巻から成る。
 初版(タイトルは『日本遺産巡礼』)を発刊したのは、2014年。その前書きはこんなふうに始まる。「世界遺産が注目を集めている。世界遺産に登録された施設には確かにため息が出るような絶品が多いが、海外からお墨付きをもらって初めて訪れるというのは、日本人としては少し寂しい。国内には、世界遺産の登録・申請中の有無にかかわらず、必見の歴史遺産がたくさんある」
 当時はメディアがやたらと「世界遺産」を煽っていた頃で、観光振興にはそれも必要と思いつつも、「日本にはそんなお墨付きとは関係なく、いい建築がもっともっとある!」というのが当時の我々の思いだった。
 そして今、海外旅行にはなかなか行きにくい状況となり、「旅に出たい」という思いが限界まで高まっている人が多いに違いない。でも日本国内で何を見ればいいの? やっぱり世界遺産に登録された寺社仏閣? もっと幅広く見てみたいけれど、歴史建築の知識はないし……。そんな人に、この本はうってつけだと思う。


 実は我々2人も、現代建築には多少の専門知識はあったものの、江戸時代以前の歴史建築に関しては素人同然だった。共著者の2人が何者かを少しだけ説明させていただくと、文章担当の磯達雄は現代の建築物を中心に取材・執筆を行っている建築ライター。イラスト担当の宮沢(私)は執筆当時、イラストレーターではなく、本業は建築専門誌『日経アーキテクチュア』の編集者。文とイラストの2人組で戦後の建築物を巡る「建築巡礼」という連載を始めたのが2005年のことだ。
 連載が6年ほど続いて、「戦前の古い建築も巡ってみよう」と、対象を歴史建築に変えたのが2011年~14年だった。本書の記事は、その連載がベースになっている。繰り返しになるが、我々2人に歴史建築の知識はほとんどなく、宮沢にいたっては「法隆寺」の形もイメージできないくらいのレベルだった。
 しかし、予備知識がないゆえ、それぞれの建築での感動が新鮮だった。見た後に文献を調べて「そうだったのか!」と気づくのもまた面白かった。そして、今、新書をつくるために読み返すと、そうした感動が全くあせずによみがえる。コロナによる変化なんで、悠久の歴史から見ればちっぽけなものさ、と言われているようだ。
 旅行の計画を練る前に、あるいは「いつか行きたい旅」のために、本書をぱらぱらとめくってみてほしい。きっとこれまでの旅とは違う楽しみが発見できるはずだ。

 2021年2月

宮沢 洋(Office Bunga 共同主宰、初版発刊時は日経アーキテクチュア副編集長)

【目次】

画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示