その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は針原佳貴さん、尾原颯さん、吉田真吾さんの『 AWS生成AIアプリ構築実践ガイド 』です。

【はじめに】

これから爆発的に普及するRAG・AIエージェント時代に備える

 生成AIを活用したAIチャットサービスが普及する中、企業内のデータや人間のアクティビティにより近いところで、自律的に人間の作業を代替して自動化可能となるAIエージェントが普及しつつあります。身近なところでは、Deep Researchやコーディングエージェントが特に爆発的に普及しています。

 日進月歩で進化する大規模言語モデル(LLM)を内部的に利用しているそれらのエージェントは、その高い推論能力により、実際に日々の人間の業務に役立ち、今までの道具とは比べものにならないレベルで人間の仕事を支援できているという意味で非常に革命的です。

 これまでも新技術のムーブメントが出てくると、はじめは「便利だがおもちゃみたいなもので、仕事の根幹には利用できるわけがない」と言われてきました。その中で「本物」の新技術は生き残り、当たり前に使われるようになります。生成AIも同様に、2025年の半ば時点では、利用できない事情、難易度やコストパフォーマンスの課題はありつつも、総論的には「生成AIで手に入れた生産性を手放して巻き戻すことはもう不可能な段階まできている」というのが世界の常識であると断言できます。

 そんななか、我々ITエンジニアにとってAIエージェントの開発方法は、LLMの性質上、出力が確率的であり、チューニング内容による振る舞いの違いがあるため、一概にベストプラクティスを定義できる段階にはありません。常に自分の手でその設計、アーキテクチャ、生成結果を評価しながらより良い実装に改善し続ける必要があります。そのためには、ある程度原理を理解し、現段階のさまざまなプラクティスを実践し続ける力を身につける必要があります。

 本書はそういった「基礎をしっかり理解して」「さまざまなプラクティスを実践する」が両立できるように、必要十分な解説とハンズオンをバランスよく掲載しています。専門書のように難解すぎず、ハンズオンだけで原理が理解できないようなことを避け、AWSを用いたRAG・AIエージェントの構築のために実践的な内容が一通り網羅できます。この1冊を読み、実践することで、役に立つRAGあるいはAIエージェントのシステムが開発できるようになります。

 また、すでに生成AIアプリケーションを開発したことがあっても、

●プロトタイプは簡単に作れたが、本番化で行き詰まった
●セキュリティや品質を担保するための知識が乏しく悩んでいる

といった人も多いでしょう。そんなときに前に進むためのヒントも得られます。

AWS上でRAGシステム・AIエージェントを構築すると良い理由

 RAGシステムやAIエージェントを構築する際に、UIやフレームワーク、開発言語の選定に目が行きがちですが、利用するクラウドサービスの選定も重要な意思決定の1つです。安全にユーザーに利用してもらえるシステムを提供することや、継続的な改善のリードタイム短縮の目線から、AWSは、選択するべき理由となりうるいくつかの強みを持っています。

すでにあるデータを安全に活用する観点

 本書で解説するRAGもAIエージェントも、データの近く(ロケーションや事業者、ネットワークセキュリティといった意味で)でインデクス付けしたり、処理したりすることが、システム全体の安全性やコンプライアンスへの対応、処理速度やロバスト性という観点で有利になります。多くの企業では、すでにAmazon S3上にデータレイク、Amazon RDS、Amazon DynamoDB上にトランザクションデータ、Amazon CloudWatch上にログデータなどを蓄積しています。これらの既存データと生成AIの能力を組み合わせることで、既存システムにおいて真に役にたつ機能性の拡張が可能になります。

進化するモデルの活用と選択の観点

 本書では基盤モデルとのインタフェースとしてAmazon Bedrockを活用します。AmazonBedrockではAmazon NovaやAnthropic Claudeをはじめとする最新のフロンティアモデルから、オープンウェイトとして公開されている多種多様な基盤モデルが利用可能です。コストやユースケース、処理速度など必要に応じてこれらの中から選択し、切り替えて利用することが可能です。

Amazon Bedrockのフルマネージド機能の活用

 Amazon Bedrockにはガードレール機能やナレッジベース機能、エージェント機能などの生成AIアプリケーションの開発に必要な機能が次々にリリースされ、日々改善されています。これらを利用することで開発者は、汎用的な課題に対するソリューションとしてBedrockの機能を利用しながら、自分たちはよりビジネスユースケースに沿った部分の実装に注力することが可能になります。

エンタープライズグレードのガバナンス観点

 すでにAWS上でシステムをホストしているユーザーであれば知っての通り、AWSはさまざまなコンプライアンスに対応していることが第三者認証により担保されています。データを安全に処理し、サービスレベルを担保し、必要なガバナンスルールを適用するにあたり、既存システムと同じガバナンスの枠組みにおいて、生成AIアプリケーションを管理できることは大きなメリットになります。AWS IAMによるアクセス制御やAmazon VPCによるネットワーク、AWSCloudTrailによる一貫した監査ログの仕組みなどをそのまま活用できます。

本書の特徴

 前述した通り、本書では実際に役にたつ生成AIアプリケーションを開発する開発者にとって、現在必要となるRAGやAIエージェントのハンズオンを通じたプラクティスとともに、将来的にわたって進化し続ける基盤モデルやフレームワーク、エコシステム、ユースケースにおいても素早く理解して手を動かし続けられるよう、基礎的な解説もしっかりしています。これからはじめて生成AIアプリケーションを開発する人にとってあまり詰め込みすぎにならない範囲で活用でき、さらにすでにある程度生成AIアプリケーションを開発している人にとっても長く活躍するために必要な知識やスキルも習得できる点が特徴になっています。

 ぜひ何度も読み返し、サンプルコードを実践することで、Amazon BedrockやAmazonSageMakerを中心としたセキュアでロバストなシステムの構築に役立ててください。

本書の対象読者

 本書は、以下のような人を想定して執筆しました。

●アプリケーション開発者:生成AIを活用したアプリケーションを開発したいエンジニア
●ソリューションアーキテクト:生成AIシステムの設計・構築を担当するエンジニア
●プロダクトマネージャー:生成AIを活用した新サービスを企画・推進する人
●データサイエンティスト/MLエンジニア:生成AIを実システムにセキュアに組み込みたい人

 プログラミング経験があり、AWSの基本的なサービス(EC2、S3、IAMなど)を理解していることを前提としていますが、生成AIについては初学者でも理解できるよう配慮しています。

本書で学べること

 本書を読み終えたとき、あなたは以下のことができるようになっています。

1. Amazon Bedrockを理解して、RAGシステムやマルチエージェントシステムを構築できる。
2. プロンプトエンジニアリングを理解して、継続的に改善できる。
3. セキュリティやコストを意識した、持続可能なシステムを設計できる。
4. ユーザーにとって価値のある生成AIアプリケーションの企画ができる。

本書の構成

 本書は9章からなる3部構成になっています。1章から3章で、まずは生成AIアプリの基本理解やLLM、プロンプトエンジニアリングの基礎を理解します。続いて4章でRAGについて、5章でAIエージェントについての知識解説をします。

 6章では実際にRAGについてハンズオンによる実装をします。7章でAIエージェントのハンズオンとして、AWSが提供するマルチエージェントを動かしてみます。6章と7章で具体的な実装方法を習得できます。

 最後に、8章でAWSにおける生成AIのベストプラクティスと、9章で効果的な生成AIアプリの企画・推進のための知識を獲得する流れになっています。

 はじめて生成AIアプリの開発を体験する人は、1章から読み進めるとともにハンズオンを実践することで、実践的に学びを進めることができます。

 すでに生成AIアプリケーションを開発したことがある人にとっても、AWSのエコシステム上で構築する利便性について十分に実感できる内容になっているはずです。

使用しているソフトウェアのバージョン

 本書に出てくるソースコードは以下のバージョンで確認をしています。

 [プラットフォーム]
 ・Amazon Linux 2, Jupyter Lab 4
  (notebook-al2-v3)

 ※含まれるライブラリバージョン
 ・JupyterLab 4
 ・Python 3.10.18

 ※Notebookで利用したPythonカーネル
 ・conda_python3

 その他、動作確認時の各種ライブラリのバージョンについては、公開しているリポジトリのrequirements.txtで確認してください。

本書のプログラムコードについて

 本書に掲載したプログラムはGitHubの次のリポジトリで公開しています。

https://github.com/aws-samples/sample-practical-generative-ai-on-aws-book

フィードバックのお願い

 プログラムコードは十分に動作確認済みですが、新しいライブラリバージョンにより動作が変わる場合があります。動きが変だな・エラーが出るなと思ったら、バージョンを確認するとともに、上記のリポジトリで最新の状況を確認することをおすすめします。また、最新のバージョンで挙動をFixした場合は、上記のリポジトリにPull Requestを送付していただけると、著者一同大変助かります。

進化の早い生成AI業界とどう向きあうか

 最後に、生成AIはいま最も進化の早い業界であり、機能性やプラクティスについては日々確実にレベルアップしています。その影響で、本書で最新の機能やプラクティスとして紹介しているものが、半年くらいで陳腐化してしまうということも想定されます。実際、本書を企画したのは2023年の10月でして、そこから Amazon Bedrock の進化や、マルチエージェントの本格的な実装プラクティスや、開発者の興味の中心などは目まぐるしく変化を遂げ、何度も目次レベルで書き直しをして、原稿のアップデートを繰り返しました。おかげさまで、現在の原稿は2025年7月時点の情報で十分に最新化できました。その中でも特に、ユーザーにとって役に立つ生成AIアプリケーションを開発するための考え方や、AWSがそのために引き続きたくさんの汎用的な機能をリリースし続けることで開発者を支援し続ける姿勢は通底しているものがあります。

 目先の機能性やモデルのバージョン、プラクティスの陳腐化を恐れず、本書を生成AIアプリケーション開発の羅針盤として、常に最新の知識を実践しながらご自身も進化し続ける姿勢で取り組んでもらえると幸いです。

謝辞

 日々猛スピードで進化するAWSの影響で何度も原稿をアップデートすることになったにも関わらず、辛抱強く企画から編集まで携わってくださった編集担当の安東一真さん、本当にありがとうございました。アップデートがあるたびに、これは開発者にとって良い話なのでぜひアップデートしたいという意向を反映させていただき、また各社のモデルの進化やAIエージェントを適用すべきユースケースについての理解がかなり進んだ2025年のこのタイミングに本書を届けられるように調整してくださり、大変感謝しています。

 また、原稿レビューを通じて、開発者により伝わりやすく、正確な表現になるようにご指導・ご指摘いただいた大渕麻莉さん、御田稔さん、金子眞治さん、久保隆宏さん、小西宏樹さん、近藤健二郎さん、塚田真規さん、辻尾良太さん、新居田晃史さん、深江健士さん、宮口直樹さん、本橋和貴さん、山田万太郎さん(50音順)、さらには事例掲載のご協力をいただいた株式会社サイバーエージェントさま、株式会社ナレッジワークさまにも感謝申し上げます。

 また、本書の予約が開始されてから、すぐにたくさんの方、特にAWSユーザーグループ(JAWSUG)の開発者の皆さんにはご予約いただきました。大変お待たせしました、良きタイミングで皆さんの手元に本書を届けられることをうれしく思います。

 最後に、編集制作のJMCインターナショナルさまにも感謝いたします。素晴らしいデザインにより、読みやすい紙面で執筆からタイムラグが少なく届けられました。ありがとうございました。

2025年7月
執筆者一同


【目次】

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