その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は佐々木伸さんの 上級ネットワーク技術者になる本 ゼロから分かる動的経路制御 です。
【はじめに】
本書は、インターネットにおける動的経路制御の仕組みを説明する本である。
インターネットが爆発的に普及した。IT(Information Technology)システムがネットワークを使うのは当たり前になり、ITエンジニアにとってネットワークは必須の知識になっている。
家庭内のLAN(Local Area Network)、企業のネットワーク、大学のキャンパスネットワークなど、様々なネットワークがインターネットにつながっている。これらのネットワークはISP(Internet ServiceProvider:インターネット接続事業者)と接続し、基本的なルーティング設定をするだけで世界中と通信できる。この接続した先のISPのネットワーク、そしてそのさらに先は、いったいどのような仕組みになっているのだろうか。
そこでは、動的経路制御が行われている。動的経路制御とは、社会インフラとして重要な役割を担うインターネットの安全・安心な運用に欠かせない、冗長性・可用性の高いインターネットを実現するために必須の技術である。そしてそれを理解し、運用するネットワークエンジニアの存在もまた欠かせない。
にもかかわらず、動的経路制御の技術は、主に企業など組織内の一部担当者間でのみ継承されていることが多く、そのような組織に属さないエンジニアにとっては、学習のための情報や機会が少ないのではないだろうか。実際、動的経路制御を実現するためのプロトコルである、BGP(Border Gateway Protocol)やOSPF(Open Shortest Path First)の技術書は絶版になっているものが多い。また、ルーターメーカーのWebサイトではマニュアルを読めるが、実際問題として動的経路制御の知識がないと読み進めるのは難しいのではないだろうか。
そこで本書では、BGPやOSPFを学習したい技術者、インターネットの接続性を提供するISPのネットワークがどのように設計・運用されているのかを知りたい人、そしてインターネット全体がどのように構成されているのかを知りたい人向けに、その仕組みを図を多用して丁寧に説明していく。
この本で達成できること
この本を読むと、BGPやOSPFの機能、仕組み、具体的な使い方を知ることができる。そして、ISPの基幹ネットワークであるバックボーンネットワークにおいてどのような経路制御を行っているか、知ることができる。
さらに、ISP同士が相互接続することによってどのようにインターネットを形成しているか、インターネットの全体像を知ることができる。
対象読者
本書は、以下のような読者を対象としている。
- ネットワークの提案・設計・構築・運用を行うネットワークエンジニア
- インターネット、ネットワークを利用するシステムのシステムエンジニア
- ISPのバックボーンネットワークがどのように設計・運用されているのかを知りたい人
- ISP同士が相互接続することによって、どのようにインターネットが形成されているか、その仕組みを知りたい人
本書のアプローチ
初学者がOSPFやBGPを学習するには、一定の前提知識が必要となる。前提となるのは、主にOSI(Open Systems Interconnection referencemodel)参照モデルのL2(Layer2)に当たるイーサネットの知識と、L3(Layer3)に当たるIP(Internet Protocol)に関する知識である。
本書では、前提となるL2とL3の知識を段階を踏んで解説し、それからOSPFとBGPの説明を進める。ただし、L2とL3の全てを解説しようとすると、それだけで膨大な分量になってしまうので、OSPFとBGPを理解するのに必要な範囲に絞って説明する。焦点を絞って説明することによって、OSPFとBGPを学習するための最短ルートを提供する。
このため読者はある程度、L2やL3、そしてTCP(Transmission Control Protocol)/IPの基礎知識があったほうが望ましい。
既にL2やL3の技術を学習済みの人は、前半(1章、2章)は復習だと思って読んでほしい。もちろん読み飛ばしても構わないが、本当に必要なことが理解できているかを再確認するために目を通してみることをお勧めする。
本書の構成
第1章では、L2におけるパケット転送の仕組みを学ぶ。
ネットワークの階層モデルの考え方と、イーサネットについて説明する。
第2章では、L3におけるパケット転送の仕組みを学ぶ。
L2とL3をひも付けるためのARP(Address Resolution Protocol:アープ)の動作、FIB(Forwarding Information Base)やRIB(Routing Information Base)といったルーティングテーブルの機能、そしてIPアドレスの分割などについて説明する。
さらに、スタティックルーティングと直接接続によるルーティングについて説明し、経路選択の優先順位と矛盾する経路情報の解消方法について解説する。
第3章では、OSPFを学ぶ。
まず、前提知識としてAS(Autonomous System)、IGP(Interior Gateway Protocol)、EGP(Exterior Gateway Protocol)のそれぞれについて概念を学ぶ。
そして、IGPであるOSPFの基本動作と仕組みを説明する。
さらに、メトリック値の調整による経路制御の具体例を示し、現場での設計の勘所やセキュリティー上の注意事項を述べる。
第4章では、BGPを学ぶ。
AS間の経路制御を行うEGPであるBGPの基本動作と仕組みを説明する。
特に経路を制御するためのパス属性である、AS_PATHやMED、LOCAL_PREFなどについて解説する。
その上で、IGPであるOSPFとEGPであるBGPを組み合わせた設計の具体例と注意点を述べる。
さらに、BGPが経路を決定するプロセスを説明する。
第5章では、動的経路制御の実態を学ぶ。
まず、ISPのバックボーンネットワークの設計例を示す。
そして、顧客ネットワークに対し、より高い冗長性を提供するためのマルチアタッチ接続について解説する。
さらに、ASが交換する経路情報の信頼性を高めるための手法を説明し、普及が進みつつあるRPKI(Resource Public Key Infrastructure)についても解説する。
最後に、ASの隣接関係について述べ、ASが一定の関係性を持って相互接続することによってインターネット全体が構成されていることを説明する。
ネットワークの先の先に何があるのか、ステップを踏んで1つひとつ理解していくと今まで見えていなかったものが見えるようになってくる。すると、さらに興味や疑問が沸いてきて、またそれを解消する――。
これを繰り返すことで、エンジニアとしてのスキルをレベルアップできる。そして、ある日ふと、ネットワークの全体像がつかめるようになり、インターネットの通信の流れが有機的に感じられるようになる。
ぜひ本書を通じて、インターネットの世界観を感じていただきたい。
【目次】



