その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は一倉定さんの『 マネジメントへの挑戦 復刻版 』(日経ビジネス人文庫)。著者の「序にかえて」と日経トップリーダー編集部の「まえがき」をお届けします。

【序にかえて】

 これは挑戦の書であり、反逆の書である。ドロドロによごれた現実のなかで、汗と油とドロにまみれながら、真実を求めて苦しみもがいてきた一個の人間の、“きれい事のマネジメント論”への抗議なのである。

 何も知らない一個の人間が、けんめいにマネジメントを学び、これを実務のうえに具現しようとした。しかし、マネジメント論に忠実であろうとすればするほど、現実との遊離が大きくなっていくのである。

 それは、マネジメント論への理解がたりないからだと、みずから反省しつつ、本を読み、考え、先輩に教えを乞うた。けれども、どうしてもいい結果はえられなかったのである。

 迷いと苦もんのうちに、多くのすぐれた事例や失敗の教訓、そして自分の経験を通じて、だんだんにわかってきたことは、いい結果をえた考え方や、やり方は、従来の学問的な、あまりにも学問的なマネジメント論とは、かなりちがうものである、ということである。

 こうなると、マネジメント論そのものに疑いの目を向けだすのは当然なことである。

 われわれの対決しているものは、現実であって理論ではないのだ。マネジメントの理論は、現実のためにあるのであって、現実が理論のためにあるのではない。

 それにもかかわらず、従来のマネジメント論は、理論としては、りっぱであっても、現実に対処したときには、あまりにも無力である。現実に役だたぬ理論遊戯にしかすぎないのである。

 現実は生きているのだ。そして、たえず動き、成長する。……打てば響き、切れば血がでるのだ。

 生きるための真剣勝負に、きれい事の公式論や観念論は通用しないのだ。タタミの上の水練では、水にはいっておぼれる。

 自分で水にはいったこともない。おぼれた経験もない者が、果たしてマネジメントを云々する資格があるだろうか。それらの人々のマネジメント論は、たんなる水上歩行論にしかすぎず、実践には役だたぬものである。

 そこにあるものは、空理空論であり、切っても血を噴かぬ死物である。その死物からでる毒が、われわれの精神をむしばみ、堕落させていく。

 知識技術のみにおぼれ、枝葉末節のテクニックはもっともらしい。しかし、かんじんな精神を忘れ、魂ははいっていない。

 マネジメントは、人間の行動の一つの指針である。人間に始まり、人間に終わる。従来のマネジメント論はその人間を忘れているのだ。いったい、なんのためのマネジメントなのだろうか。

 これからのマネジメントは、しっかりと目標を見つめ、夢と希望をもちながら、きびしい現実に対処し、みにくさ、矛盾、混乱、その他いろいろの障害をのりこえていく勇気と知恵をあたえてくれるものでなければならないのだ。当然、人間臭紛々たるものであり、それがほんとうであると私は思う。

 本書にもられている一つ一つの主張や見解は、事実と私の経験に基づいたものであり、新しいマネジメント論への脱皮と革新への一里塚として役だつことを念願しているものである。

【まえがき】

 「ユニクロ」を展開するファーストリテイリング会長兼社長の柳井正氏の書棚には、一倉定の書籍が並んでいるという。一倉の指導を受けたり、直接ではなくても書物を通してその思想に学んできた経営者は数多い。

 一倉定は、一九九九年に八〇歳で逝去した経営コンサルタントである。六三年にコンサルタント業を始め、三五年間、日本中をくまなく行脚。大中小1万社の社長を、まるで小学生をしかりつけるように厳しく指導し、「社長の教祖」と称された。

 なぜ、多くの社長の支持を集めたのか。

 一倉の謦咳に接した社長たちにその理由を尋ねると、「後にも先にも、あれほど強烈に『社長の生き方』を指し示した人はいない」と口をそろえる。

 本書は、そんな一倉の活動初期に書かれたものだ。技報堂(現・技報堂出版)からの初版は昭和四〇年(一九六五年)。今から約六〇年前のことである。しかし、本書に書かれた内容は今なお光芒を放つものであることは、少し読み進めてもらうとすぐに分かるだろう。

 マネジメントへの「挑戦」という、まさに挑戦的な言葉を一倉が使ったのは、当時の経営に対する憤りからである。

 机上の経営論に終始し、血の通う人間に立脚していない会社がいかに多いか。外面ばかりの経営論を追い払い、経営計画から組織管理、財務管理、従業員教育に至るまでのマネジメント全般を、現実に沿う姿に巻き直している。

 残念ながら、この一倉の挑戦は約六〇年の歳月がたった今も完遂されていない。我々はマネジメントの源流に立ち戻り、そこから未来を探し出すべきだろう。それが本書復刻の狙いである。

 「社長の役割は何か」「マネジメントとは何か」という、経営の大命題を一貫して追い続けた一倉の教えは、すでに一倉の書物に触れてきた世代だけでなく、これから新しい世界をつくっていく若い世代にもぜひ読んでもらいたい。根性論に思える部分もあるだろうが、そうした点を含めて、私たちの社会、会社のあり方を議論するきっかけになる。

 巻末には、一倉の御子息・御息女より寄稿をいただいた。鬼の形相で、赤字会社を立て直した「鬼倉」の素顔がそこには垣間見える。滋味あふれるその人間性こそが多くの社長の心をつかみ、多くの赤字会社を復活させた根源だったのだと理解できる。

日経トップリーダー編集部

【目次】

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