その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は大江英樹さん、井戸美枝さんの『 定年男子 定年女子 45歳から始める「金持ち老後」入門! 』です。
【はじめに】「老後破産」が不安なあなたに
「定年男子」 大江英樹
定年退職したとき、150万円しかなかった私
今でこそ、講演や執筆で忙しく働きまわっていますが、私はもともと新卒で入った証券会社に定年まで勤めたごく普通のサラリーマンでした。特に出世したわけでもなく、今から5年前、60歳のときに管理職の隅っこのほうで定年を迎えたのです。
現役時代の最後の10年間は主流の仕事からは外れ、企業年金に関わる仕事をしていました。これから定年を迎える会社員向けに、老後の生活設計について話す機会もたくさんありましたが、現役時代の私は老後の不安の多くはお金のことだと思っていましたし、証券会社の社員で金融商品を販売するのが仕事でしたから、「自助努力で老後に備えましょう=投資信託を買いましょう」と常にお話をしてきました。
ところが、実際に自分が定年退職してみると、老後について当たり前のようにいわれていることのなかに、実はちょっと違うことがあると気づかされました。
3000万円ないと「老後破産」するのウソ
例えばよくいわれる、「定年退職時に3000万~4000万円ないと老後は破産する」は間違っていると分かりました。実は、私は定年退職時に預貯金がたったの150万円しかありませんでした。娘ふたりを中学校から大学まで私立に通わせ、高校時代はそれぞれアメリカとオーストラリアに留学。おそらく教育費は普通よりもかかったほうだろうと思います。そのうえ、父が商売に失敗し、その借金の肩代わりもしたため、お金は本当になかったのです。
驚かれるかもしれませんが、それでも実は、老後についてさほど心配はしていませんでした。もちろん、退職金や企業年金、公的年金が出るということが大前提としてありました。定年の2年前から自分で家計簿をつけ、1カ月のおよその生活費を把握していたのも大きかったです。
したがって2019年に「2000万円問題」が話題になった時も「なぜ、あんなことが話題になるのだろう?」と不思議に思っていました。私自身は、ぜいたくはできないけれど、食べていくくらいならなんとかなる。だから定年後は一切仕事はやめて、趣味を中心に好きなことをやって残りの人生を楽しもうと考えていたのです。
大事なのは「きょういく」と「きょうよう」
ところが定年が近づくと、少し考えが変わってきました。趣味だけをやっていても、毎日がつまらないのではないか? 少しでも働いたほうが、精神的にも肉体的にも健康を保てるし、だいいち収入があるのだから生活の足しになる。そう思うようになったのです。誰もが「老後は不安だ」といいますが、老後が不安なら、老後をなくせばいいのだと思いついたのです。人は働くことをやめたときから老後が始まるのだから、可能な限り働き続けたほうがいい、と考えるようになりました。
後で振り返ってみると、こう考えたことは大正解でした。実際に定年退職してみて実感したのは、リタイア後に一番必要なことは「きょういく」と「きょうよう」だということです。教育と教養でありませんよ。「今日、行く(きょういく)」ところがあるか、そして「今日、用(きょうよう)」があるかどうかが大切ということです。言い換えれば自分の「居場所」があるかないかが、幸せな老後をおくれるかどうかの決定的な違いになってくるのです。
老後に一番怖いのは「孤独」になること
俗に老後の3大不安といわれるのが「健康」「お金」「孤独」です。このなかで圧倒的に深刻な問題なのが実は「孤独」だということが、定年後に身に染みました。
健康やお金が大事だというのは、誰にでもすぐ分かります。ところが現役時代は毎日会社に行っていますから孤独に陥ることはないのです。そのため健康やお金に対しては気をつけている人は多くても、孤独を恐れてそのために準備をしているという人はあまりいません。その分余計に、退職した後に強い孤独感に襲われ、憂鬱な退職後の人生をおくらざるをえないということになりかねないのです。
それを防ぐためには、できれば40代、遅くとも50代に入ったらそのための準備を始めたほうがいいと思います。これは、私自身の反省からつくづく思うことです。
前述したとおり、私は定年が近づくまで退職後は働かないと決めていたので、正直言うと準備はかなり遅れました。実際に定年後も働こう、それも会社にずっと雇われるのではなく、自分のやりたい仕事をするために独立したい。そう決めたのは、定年の日のほぼ半年前でした。
居場所がなかった再雇用時代
結果的に時間切れとなり、退職した会社で契約社員として再雇用されました。給料は退職前より大幅に下がりました。コピーは自分で取り、雑用も喜んでやりました。そんなことは全く苦ではありませんでしたが、つらかったのは仕事において自分に決定権がなかったことです。人と話すことが好きで自他ともに認める交渉上手の私が、正社員という立場でないがゆえに、上司の許可なしにはクレーム処理ひとつすることができない。そこは、自分が生き生きと働ける場所ではありませんでした。
ここにはいられないと、半年後に退社。セミナー講師として独立し、軌道に乗るまでには1年近くかかりましたし、その間は全く収入がない時期もありました。もっと早くから準備しておけばこんなに苦労せずに済んだのにと思ったことも、たびたびでした。
一方で、定年退職後の生活には予想よりもお金がかからなかったことには助けられました。現役時代に当然のようにおこなっていた生活習慣も見直すことで、かなり収支は楽になりました。したがって、収入がなかった時もそれほど深刻ではなかったのです。
誰もが心配する老後のお金のことはもちろん、深刻な老後の孤独にどう備えるか。本書では、年金や社会保険のプロである井戸美枝さんと一緒に、自分自身の経験から考える定年男子、定年女子の暮らし方について仕事、お金、健康、家族といった内容を一つひとつお話ししていきたいと思います。
「定年女子」井戸美枝
お金のプロが「年金生活」を始めて分かったこと
私の夫は63歳で、元公務員。60歳で定年退職しています。65歳まで働くこともできたようですが、それよりも「冒険の旅をしたい」という本人の希望で仕事はやめました。
夫の定年退職前、24時間一緒に過ごす生活に不安がありましたが、定年後、冒険好きの夫はしょっちゅう旅に出ていますし、私はファイナンシャル・プランナーと社会保険労務士として働いているおかげで、付かず離れずの関係をキープ。心配したような事態には、今のところなっていません。
一方、予想外だったのは毎月決まった給料が入らないことのダメージです。年金を受け取るのは2カ月に1度の偶数月のみ。そんなことは社会保険労務士としてもちろん基本中の基本知識であり、分かっていたこと。それなのに、毎月の給料で家計を組み立てる長年の習慣から抜けられず、どうも予定が組みにくいのです。お金のプロとしては恥ずかしながら、年金を受け取る偶数月はつい使い過ぎ、奇数月は節約モードということも……。
また、夫が現在63歳で年金がまだ満額ではないこともあって、毎月10万円ほど貯蓄を取り崩して生活費にあてています。これも事前に十分分かっていて、予定どおりのこと。にもかかわらず、毎月毎月、預金残高が10万円ずつ減っていくのはなんともいえない圧迫感があるのです。
これがもし月数万円でも定期収入があれば、気分的に全然違うだろうなということを実感しています。定年後は蓄えが減っていくのは当然のことです。でも、そのスピードは少しでもなだらかであってほしいもの。大江さんも書いているとおり、定年退職後も働くということは、夫婦の関係や老後のお金の不安など、定年女子のいろんな問題を解決してくれることだと思います。
大半の女性が、最後には「おひとりさま」に
定年後の生活やお金の話は、本や雑誌にたくさん書かれていますけれど、ほとんどが男性目線のものだと感じます。確かに仕事を定年まで勤め上げるのは男性の方が多いのですが、定年後というか、60歳以降の人生は平均的には男性より女性のほうが長いわけです。
夫のほうが先にいってしまうことが多いので、結婚していても結婚していなくても、大半の女性は人生の最後には「おひとりさま」になります。この本のタイトルの「定年女子」は、会社で働く女性たちが定年を迎えたときという意味だけではなくて、自分のパートナーが定年退職を迎えた主婦の方の老後の暮らし方という意味も含めています。
寿命が伸びたことにより、女性のライフスタイルは大きく変わりました。夫が引退後の「定年女子としての人生」は、大正時代は5年間程度でしたが、平成21年は23年もあります。21ページの表を見てください。
大正時代は、家庭を守り、子育てをすることが多くの女性の「仕事」でした。平均で5人子供を産み、育て、初孫誕生から約10年後、夫の現役引退からは5年、夫の死亡からは4年程度で亡くなっています。
平成の女性の人生は、驚くほど異なっています。左の表では子供が結婚し、孫が生まれた後も人生は25年続きます。夫の死亡からは8年、夫の現役引退からは23年もの時間があります。
女性の人生を4つのステージに分けてみよう
平成30年、女性の平均寿命は約87歳ですが、60歳女性の2人に1人は約90歳、5人に1人は約97歳まで生きると予測されています(厚生労働省「簡易生命表」より)。寿命は平均を中心にばらつきがありますが、80歳くらいから100歳くらいの幅にかなりの人が入るはずです。つまり今40~50代の人は100歳まで生きると想定するのが安全策といえるでしょう。
そこで私は、女性の人生100年を4つの区分に分けて考えています。最初の25年は「育ちの期間」、次の25年は結婚して家族を形成したり、仕事に邁進する「人生フル回転の期間」。そして50歳からの25年は子供がいる人なら子育てが終了し、家族から再び個の自分に戻ったり、定年退職後の人生に思いをはせてみる「黄金の期間」です。子育てや会社の仕事に追われてできなかった、やってみたいことに挑戦できる人生のゴールデンタイムともいえます。そして次の25年、75歳からの人生では、後に続く世代の活躍ぶりを見守る、いわば「余生の期間」です。長生きした人の特権で、新しい時代の変化を楽しむことができるわけです。
平均寿命と健康寿命の差、男は9年、女は12年
定年女子としての時間をどんなふうに過ごすか、自分らしい生活と自由を守るには、お金と上手に付き合う知恵が必要となります。
何より覚悟しておいてほしいのは、前述したとおり、女性は結婚していてもしていなくても、最後は「おひとりさま」になる可能性が高いということです。
25ページのグラフを見てください。平均寿命と健康寿命の差は、男性は9年。女性は約12年あります。
健康寿命とは、WHO(世界保健機関)が発表している、ひとりで生活できる年齢のこと。つまり、人の助けを必要として生活する期間が男女ともに10年程度あるということです。結婚していてもしていなくても、女性は人生の最後の時期を健康でない状態でひとりで生きる可能性が高いのです。そのとき頼りになるのは、やはりお金です。病気や介護はお金で解決できることが多い。これは、社会保険労務士としての実感です。むやみに心配することはありませんが、不安を不安のままにしておかず、準備をしておけばいいのです。
この本でこれから、大江さんと一緒に、定年後の不安を解いていきたいと思います。
【目次】