その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は坊垣佳奈さんの『 Makuake式 「売れる」の新法則 』です。

【プロローグ】

「売れる」には新しい法則があった!

変わりゆく消費者の意識

 スーパーマーケットの野菜売り場が、ずいぶんと変わってきました。
 農家さんの顔写真や名前が表示され、無農薬栽培や有機野菜の売り場が設けられているような光景は、ほんの10年前まで、どこでも見られるものではなかったはずです。そうなった大きな理由は、人々がものを選ぶ感覚が変わってきたからだと、私は思っています。
 産地だけがわかる安くて形の良い規格品ばかりでなく、作った人の顔が見えることの安心感や、いくらかふぞろいでも有機野菜が持つ美味しさを知る人が増え、安心安全を担保できれば買ってくれる。その実績があるからこそ、スーパーにも売り場が設けられるようになっていったのでしょう。
 都心部ではオーガニックスーパーのような業態も増え、「食べ物」という直接身体に入るものから、わかりやすく変化が起きていると感じます。実は、昨今の新型コロナウイルス禍がもたらす生活変化も、そういった消費者の意識の変化を後押ししています。
 「応援消費」という言葉は聞いたことがありますか?
 外に出ることがままならない、人に会うことも制限される……。飲食店業界をはじめ、困っている人たちが増えている。こうした状況で、限られたお金をどこに使うべきなのか、改めて消費を見直す人が増えているのです。
 また、当然外出しての購入の機会も減り、オンラインに買い物の場が移っています。巣ごもり需要と言われますが、お家時間を楽しむための食べ物・エンターテインメントは売れ行きが良いと聞きますし、密を避けられる遊びとしてキャンプが注目され、キャンプグッズの売れ行きも堅調なようです。
 こうした状況下では、作り手が今までのまま、売り方を変えなければ、窮地に立たされます。それは、当然見えている未来だといえます。だからこそ、起こすべき・あるべき変化がどういったものなのか、それを嚙み砕いてわかりやすくお話できる場が欲しくて、本書は誕生しました。

世の中をもっと良くしよう

 はじめまして、坊垣佳奈と申します。
 私たちの株式会社マクアケでは、こういった消費者の意識の変化も捉えたインターネットサービスを提供しています。運営している「Makuake」は、世の中をもっと良くするチャレンジが毎日続々と登場する、「新しいものや体験」を応援購入できるサービスです(応援購入、という言葉については、あとでまた紹介しますね)。
 私は大学卒業後に、インターネット広告代理店のサイバーエージェントへ入社し、バズマーケティング企業のサイバー・バズの立ち上げに携わりました。当時、消費者の口コミを使ったマーケティング手法は、バズマーケティング・バイラルマーケティングなどといって、一方的な広告手法に限らない新しい手法として注目されていました。この分野で私は、かつてない口コミを用いたマーケティングメニューの開発から、大手メーカーの皆さんの最新のコミュニケーション戦略設計を支援したり、記者会見やブロガーイベントを含むPR戦略の設計・実行なども多数経験いたしました。
 その後、ゲーム関連の子会社を経て、2013年にサイバーエージェント・クラウドファンディング(現在のマクアケ)の立ち上げから参画し、代表の中山、木内と共に共同創業者として取締役を務めています。2019年12月には東証マザーズ市場へ新規上場も果たすことができました。ベンチャーなりの自社の広報戦略やプロモーションも、常に試行錯誤しながらやってきた経緯があり、それらの礎が今、Makuakeを通した表現に活きていると日々感じています。

売れるものと売れないものは何が違うのか

 Makuakeは、いわゆる「クラウドファンディング」と呼ばれるシステムを用いてスタートしました。「新しいものや体験」を提供したい事業者がMakuakeで先行販売を開始すると、興味を持ったユーザーが金額ごとに設定された返礼品(リターン)を選び、決済します。決済したユーザーは「サポーター」となり、事業者は決済で集まったお金を活用して「新しいものや体験」を作り上げ、サポーターへ提供します。
 プロジェクトの中には数千万円、最高では5億円を超える応援購入総額を集めた事業者も登場するなど、日々誰かのチャレンジを後押しできている実感を得ていますし、私たちの業績も伸び続けています。

 本書では、常に「新しいものや体験」が生まれるところと、日本中のユーザーとのつなぎ目にいる私たちが、世の中や消費者に起きている変化をもとに考えた、「新たなものの売り方」について事例を交え、紹介していきます。
 同じような機能を持つ商品が生まれても、売れるものと、そうでないものには、どんな差があるのか。いったい何を拠り所に、今後のものづくりに向き合えばいいのか。大手メーカーのような資金力や宣伝力がなくても、これまでにないヒット商品を生み出すことはできるのか。Makuakeで見てきた、数多くのプロジェクトをもとに、それらの疑問にお答えしていければと思っています。

コミュニケーションの変化が消費者に与えた影響

 まずは、前提として、なぜ「売れるもの」や「売り方」が変わってきているのかについての考えを、消費者を取り巻く状況からまとめてみます。
 Makuakeで多くの事業者が資金を得て、「新しいものや体験」を提供できている背景にも、冒頭で書いたようなスーパーの野菜売り場に通ずる、消費者の意識変革が大きく関わっています。
 ポイントは、生産者(作り手)と消費者(使い手)が直接的につながれるようになったという、コミュニケーションの変化です。特に、インターネットでの買い物は、その利便性だけでなく、作り手と使い手を近づける方法でもある点に、まず着目しましょう。
 これまでは「インターネット」と聞くと、どこかリアルな世界からは遠ざかっている、隔たりのあるような感覚を持たれる方も少なくなかったはずです。
 ところが、従来の流通や商流と比べてみると、ネットを用いたものの売り買いにおいては、中間業者を挟む必要がなく、作り手と使い手がダイレクトにコミュニケーションしやすい環境が整っています
 たとえば、先ほど挙げた野菜の例を持ち出すならば、これまでは卸売市場を通じて八百屋や小売店に並び、消費者が手に取るという商流が基本でした。
 しかし、ネットでは生産者が自ら消費者に販売し、梱包から郵送まで手掛けることも可能です。言い換えると、ネットショッピングとは作り手が使い手に直接届けられる手段なのだともいえます。
 この変化を前進させたのが、世界を覆った新型コロナウイルス感染症でした。人々は自宅にこもり、売り場へ出向くことが減りました。売り場に出向かずにものを買うには、今はインターネットを使うのが便利でしょう。
 コロナ禍で、明らかにインターネットで買い物をする機会は増えています。総務省統計局の家計消費状況調査でも、ネットショッピングを利用する世帯の割合が、調査を開始した2002年以降、初めて5割を超えたといいます。さらに、新型コロナウイルス感染拡大が深刻化した2020年5月以降、65歳以上の高齢世帯でも全体の3割がネットショッピングを利用するようになってきました。利用者数や金額は、今後も増えていくものと見られています。

作り手と使い手がつながった

 ネットショッピングのような事業体を「eコマース(EC)」とも呼びますが、コロナ禍によって多くのECサイトが業績を伸ばし、新規にECを始められるようなサービスが人気となり、さらにはAmazonや楽天市場のようなECプラットフォームも拡大しています。
 その流れの中には、私たちMakuakeも存在します。
 インターネットによってもたらされた、作り手と使い手が直接つながることが身近になったという変化は、今後の「ものの売り方」を考えるうえで、とても大事な観点になってくることは、まず押さえておきたいところです。

 作り手と使い手がつながれる環境は、ものを売る側である作り手に、いくつかのチャンスをもたらしてくれています。
 まずは、直接的なコミュニケーションができるので、作り手は「伝えたいこと」を、より伝えやすくなります。今までの流通構造では、小売店で商品を手に取ってもらうに至るまで、いくつもの中間業者が関与してきたのはお話しした通りです。すると、作り手が消費者へ伝えられる情報は限定的にならざるを得ず、肝心なところが省略されたり歪曲されたりして、商品の良さや使い方やこだわりといったものを上手に届けることができませんでした。
 消費者はパッケージに記載されたわずかな説明や、テレビCMなどで見知ったイメージによる情報、価格をもとに購入を決めることも少なくありません(もっともこれは現在でもよくある意思決定の姿ですね)。
 さらに、リアルの売り場は面積が限られていますから、そもそも消費者の手に届くところに商品を並べることさえ難しい状況です。大手メーカーが大量にCMを展開した商品であれば高い認知度が望めるため、小売店もそういったものを優先的に店頭へ並べます。
 消費者は自らの意思でものを選んでいるというよりも、売り場に並べられた限定的なものから「選ばされている」といったほうが正しいくらいかもしれません。

 売り場がインターネットへ変わっていくことで、これらの制約は取り払われます。
 作り手は自社のウェブサイトやECサイト、あるいはTwitterやFacebookといったSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)、YouTubeをはじめとする動画サイトなどを通じて、商品に込めた思いやこだわりを存分に語れます。リアルの売り場のように場所の制限もありませんから、いくらでも商品をサイト上に並べることができます。
 たとえば、Amazonや楽天市場を思い浮かべてもらえば、わかりやすいかもしれません。Amazonの品揃えは「数億点」ともいわれますが、それだけの商品を並べておけるリアルな店舗なんて存在しません。つまり、消費者側からすれば、選択の幅が圧倒的に広がるわけです。
 選択の幅が広がると、今度は選ぶ気持ちが生まれてきます。自分が手に取るものを、比較検討したり、周辺情報を参考にしたりしながら、ちゃんと選ぶようになっていきます。
 どこの誰が、どういうふうに、どういったこだわりを持って作り、どうしてその値段がつけられたのかを知る。そして、自分が納得し、好ましいと思ったものを購入していく……。こうした購買行動は、確実に起きている消費者の変化の一つです。

なぜ「売れるもの」の条件は変わったのか

「大量生産、大量消費」によるビジネスの崩壊

 現在は、こういった消費者の変化に、世の中的な流れとしても注目が集まりつつあります。従来型の「大量生産、大量消費」によるビジネスは、生産過程や過剰在庫なども含め、どこかに「負の要素」を抱えていることが多いものです。
 一例に、ファッション業界で起きている大量廃棄の問題があります。約50億着が作られ、30億着が廃棄となる。大量の服が着られることもないままに廃棄されているともいわれます。
 近年では世界各国で掲げられた「SDGs(持続可能な開発目標)」や、環境保全や地球への環境負荷に配慮した「エシカル」といったキーワードを耳にすることも多いと思いますが、インターネットによるオープンな情報環境は「負の要素」を明るみに出し、これらの課題に向き合ったものづくりは、消費者に訴えかける力を持ちます。
 正しく、好ましいものを消費者が選ぶべき空気が広がれば、作り手側もそれに応じたものを作らないといけません。各社は生き残るためにも「負」を生み出さないものづくりを進めてきています。

 ここには地球環境以外にも、人間の深い心理も関わります。アメリカの心理学者であるマズローが、人間の欲求を5段階のピラミッドで構造化した「自己実現理論」を目にしたことがある方は多いことでしょう。
 現代社会では、ピラミッドの下位にある衣食住といった生理的欲求や安全の欲求については、かなりの人が一定の水準で実現することができるようになってきました。そうなると、人々は社会的欲求や承認欲求といった次なるステップへと進んでいきます。「社会で自分はどんな役割を担うべきか?」という社会貢献にも意識が届き始めます。
 国家としても、経済の発展につれて、文化度が上がっていく過程に入ります。日本のことだけを考えても、今後はさらに上位のステップへ上がっていくでしょうし、世の中としてもその流れは止められません。
 この不可逆ともいえる流れの中で、インターネットはより注目され、作り手と使い手がダイレクトにコミュニケーションを取れる環境が整ってきたのが、現在だといえます。心理や行動が変わってくると、今後は「売れるもの」の条件も変わります。たとえば、作られるまでの背景がちゃんと語られ、消費者がしっかり納得して選べることは、大事な観点です。

 これらの変化を汲み取ったのが、Makuakeで推し進めている「応援購入」というシステムです。応援購入とは、作り手や担い手(Makuakeでは「プロジェクト実行者」といいます)の思いや製作の背景に共感し、応援の気持ちを込めて購入する体験のことを指しています。
 そして、Makuakeは「新しいものや体験」がより生まれやすくなり、広がっていくための「産業支援」の仕組みでもあるのです。

「作りたいもの」にストーリーはあるか?

 Makuake で多くの「新しいものや体験」と関わるうちに、私たちには「ユーザーに売れやすい法則」のようなものが見えてきました。
 これからその法則を紹介していきますが、まず大きなところでは3点が挙げられます。

 1:作り手の「本気度」が伝わるか
 2:独自性や話題性はあるか
 3:ユーザーにとって魅力的か

 これらを総合すると、「そこに、ストーリーはあるのか」というメッセージに集約できるともいえます。かつてのように「ただ良いものを作れば黙っていても売れる」時代ではなくなったことは、さまざまなところで叫ばれていますし、実感を持つ方も多いはずです。
 では、どうすれば売れるようになるのか。その答えが「ストーリー」という言葉に詰まっています。

買い物に「罪悪感」が伴う?

 なぜ、ストーリーがあるものは売れるのでしょうか。私は、買い物には罪悪感が伴うというのも一つの理由だと捉えています。

 私たちはものを買うときには、最終的に何かしらの理由付けをしているはずです。特に自分にとって高額なものだと「ずっと前から欲しいと思っていたから」といったように納得させるようにします。消費者はお金を使うことに後ろめたさを覚えると同時に、何かしらの理由付けがされることで、購入を後押しされるのです。

 ストーリーには、まさにその理由付けになる要素が溢れています。商品が生まれた切実な背景、生産過程における環境負荷、作り手が込めたこだわりなど、あらゆる要素でストーリーは紡がれます。それが購入を大きく後押しする以上、消費者が罪悪感を覚えにくく、さらに「応援したい」と思えるようなものは売れやすくなるのです。
 たとえば、アパレル業界の大量廃棄や労働問題に端を発したファストファッションブランドの凋落や、食品業界で見られるフェアトレードの推進なども、「人はストーリーで買うものを選ぶ」という観点から見ると、理解しやすいかと思います。
 そして、この状況が前進したのは、インターネットやスマートフォンを通じて、個人が発信する環境が広まったからです。
 持っているもの、買ったもの、身につけているもの、食べるもの……それらを通じた「選ぶ理由や意味」が、その人を表現するキーファクターになり得ます。
 もし、「ファッション好き」を自称しているのに、「その服を選んで着ることによって、世界のどこかで泣いている子どもがいる」といった業界構造的な負に目を向けず、理解していないと思われてしまうと、その人が真に尊敬を集めることは難しいでしょう。
 また、シンプルにストーリーの持つ魅力が、人の心を打ち、機能性やデザイン性と並んで購入の大きな動機になり得るというのも事実です。ストーリーのあるものを選択眼で選択し、購入する体験をしたことのある人すべてにわかっていただける感覚だと思いますが、そのように購入したものを人は簡単には捨てません。そのストーリーとともに、大切に大切に使うことができる。思い出を簡単に捨てられないのと同じです。人の心を打つものは、機能性に飽きたり代替するものができたり、はたまたデザインに飽きたりしても、変わらず残っていくものなのです。
 これを私たちは「応援購入」という言葉で表現しています。作り手の顔が見えて、作られるものへの思いやこだわりを知ることができる。それを知ることが選択の意思決定の重要な一要素となり、その商品が月日を経て形になり届いた瞬間、作り手の顔が浮かんでほっこりする。それを使うたびに、応援購入してよかったなあ、と温かい気持ちになる。この一連の体験が、人々をまた別のものへの「応援購入」に駆り立てるのだと思います。

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消費者が選ぶ「新しいもの」

 Makuake ができるのは、消費者に対して豊かな選択肢を用意することです。プラットフォームを通じて、ビジョンである「生まれるべきものが生まれ広がるべきものが広がり 残るべきものが残る世界の実現」に貢献していきたいのです。
 このビジョンに含んだ「べき」は、私たちが決めるのではなく、消費者が決めていくものだと考えています。プラットフォームである我々がこの商品はヒットしにくいから掲載はできない、といった形で取捨選択するものではないと思っています(もちろん、プロジェクトの掲載にあたり審査は行っている前提です)。

 では、どのようにすれば「べき」と思われるような、消費者から選ばれる「新しいものや体験」を作っていくことができるのか。
 これからの時代で「売れる」を支える8つの法則を通じて、お伝えしましょう。

【目次】

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