その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は高橋浩一さんの 『なぜか声がかかる人の習慣』 です。
【はじめに】
どんな人にも、人生を変えた一言があるはずです。
「高橋さんのノート、そのページだけ写真を撮ってもいいですか」
私にとって、人生が変わるきっかけになったセリフはこれでした。若かりし頃、25歳で起業したばかりの私は、初めてのお客様を獲得しようと必死になっていました。
当時のアプローチ先は、大手の一部上場企業が中心でした。
実績も何もない会社の商品を必死にプレゼンしても、買っていただける気配はありません。ひたすら熱意を込めて、丁寧にロジックを作り込んで、見栄えのよい資料を作ろうとしました。しかし、なかなか結果は出ませんでした。
あるとき、変化が訪れます。
私は商談をしながら、お客様が話した内容のキーワードを、A4の白紙に箇条書きにしていました。
自分が後で見返したときのために、重要なものが目立つよう、印をつけていたのです。
対面に座っていたお客様は、「そのページだけ写真を撮ってもいいですか」と言いました。
実は、「写真を撮ってもいいか」と聞かれたのは、その日2回目でした。午前中に行った商談でも、偶然同じことを別のお客様に尋ねられたのです。
1日に繰り返し同じことが起こったので、思わず私は、その場で聞き返しました。
「すみません、こんなラフに書いた紙でも本当によろしいのでしょうか」
お客様の答えはこういうものでした。
「キーワードが大きく箇条書きになっているので、打ち合わせの途中から、その紙がずっと気になっていたんです」
私の中に衝撃が走りました。
なぜかというと、その商談のために気合を入れて作った数十枚の資料には、お客様がまったく見向きもしていなかったからです。
商談で初めて会った私の走り書き一枚に、なぜ反応してくれたのだろうか。気になった私はお客様に聞いてみました。
「すみません、一応、こちらの資料も頑張って作ったのですが……。提案書には特にコメントがなかった一方で、私のノートに興味を持っていただけたのは、なぜなのでしょうか」
相手の返答はこういうものでした。
「実は、私の中でも考えがまとまっていなかったのですが、高橋さんが書かれていた紙を見て、自分が後で整理するために、もう1回見たいと思ったのです」
私は「他社の営業は、こういうことはあまりされないんですか」と聞きました。
「そうですね、皆さん流暢にきれいなプレゼンをされますが、正直、ただ商品説明をされても、あまり響かなくて。でも、一緒に課題を整理してくれるのはすごくありがたいんです。社内の人間とすら、そんなに議論はできていないものですから」
「御社ぐらいの企業だと、優秀な方も多いでしょうから、一緒に課題を整理してくれる人は社内にいっぱいいるんじゃないですか」と私が聞いてみると、「いえいえ、そんなにいないですよ。それに、高橋さんと、こうやって話しながら整理されていくのが、すごく気持ちいいんです」という答えが返ってきました。
自分の「強み」にフォーカスしよう
私はそれまで、提案においては、プレゼンテーションが大事だとずっと思っていました。寝る間も惜しんでPowerPointを作っていたものの、いざ商談になると、提案書はろくに見てもらえませんでした。
しかし、1日のうちに2回も「そのノート、写真を撮ってもいいですか」と言われることで、自分が人と一緒に課題を整理する時間に、価値を感じていただけるのだと気づきました。
その日から、私は提案資料そっちのけで、「お客様と一緒に課題整理をする時間」をどうしたらよいものにできるかを考え、試行錯誤し始めました。
今までは、相手に評価されるために「見栄えのよい資料が必要では」「プレゼンテーション力を鍛えなければ」と、ズレた方向に努力をしていたのです。
それが、お客様の一言をきっかけに、焦点が定まりました。
一緒に課題を整理できるのが自分の「強み」なら、そこにフォーカスしようと考えたのです。
「相手の心が動くポイントは、自分の予想と違うところにある」と気づいた私の毎日は、どんどん変わっていきました。
今まで門前払いの日々だったのに、必要とされる実感が湧いてくるようになったのです。
商談における受注率は上がっていき、コンペでも負けなくなりました。
私は、2019年に、8年間コンペ無敗の経験をもとに、『無敗営業 「3つの質問」と「4つの力」』(日経BP、以下『無敗営業』)を上梓しました。
本を出すと、対面やTwitterなどで感想をいただくようになりました。そこで私は、感想をくださった方に、「ありがとうございます。本の中で印象に残ったキーワードはありましたか」と尋ねていきました。著者の意図とは違うところで、読者の心が動いているかもしれないからです。
感想のフィードバックは、気づきの多いものでした。
いただいたフィードバックを参考にして、SNSでの情報発信に力を入れるようにしました。私は2010年からTwitterを始めていたのですが、数か月いじった後は、『無敗営業』を出すまで10年間ずっと放置していました。どういう情報発信をしたらよいか、うまくコツがつかめないまま、おっくうになってしまっていたのです。
しかし、新型コロナウイルス感染拡大(以下、コロナ)の影響でお客様と対面できなくなったことをきっかけに、「これからは情報発信も頑張ろう」と、2020年5月からTwitterを再開しました。半年ちょっとを経て、私のフォロワーは1万人を突破しました。
いわゆる「フォロワーを増やすテクニック」は、なんとなく抵抗があったので私はやりませんでした。それよりも、「どんなところが響いたのか」にフォーカスして発信し続けることで、自然と多くの人に届くようになったのです。
情報発信のかいもあり、拙著『無敗営業』は、本が売れないと言われる時代において、出版からわずか半年で4万部を超えました。さらに続編のお声もかかり、講演や執筆の依頼も増えました。
ありがたいことに、今では年に200回以上の講演や研修をこなしつつ、対談や取材、イベント登壇のお話を毎日のようにいただいています。
「強みの使い方」を知れば努力が報われる
変化が起こったのは、仕事だけではありません。プライベートにおいても、キャリアや仕事の相談をされることが増えました。
「話しながら一緒に整理すること」を自分の強みとして意識し始めると、不思議なことに、友人・知人から、「実は最近悩んでいて……」と頼られることが増えたのです。大切な友人の役に立てるのであれば、それは嬉しいことです。
私にとって、いろいろな方から声がかかる日々は、「そのノート、写真を撮ってもいいですか」という一言から始まりました。
それまで、「人と一緒に課題を整理する場面で、自分の強みが発揮される」ということに、私はずっと気づいていませんでした。
しかし、相手の心が動いた場面を深掘りして聞くことで、「どういうことが相手に喜ばれるのか」「何が人の心を動かすのか」についての感触を得たのです。自分の強みを発見できたのは、そのときフィードバックをくれたお客様のおかげです。努力する方向性を絞り込めたのは、私にとってすごく有意義なことでした。
振り返ってみると、私自身はもともと極度の人見知りで、小学生の頃、隣の席の女の子と会話することもできず、長い間ずっと劣等感を抱え続けていました。
コミュニケーションをとることに恐怖心があり、人から話しかけられると顔が真っ赤になる私についたあだ名は「モモちゃん」でした。
そんな私が、まさか、大人になってから「人とのコミュニケーション」について、たくさんのお声がけをいただき、人に伝える仕事をするとは、思いもよりませんでした。
「努力は大事だ」といろいろな人が言います。しかし、「努力が必ず報われるわけではない」という厳しい現実もあります。そのような中で、「何が相手の心を動かすのかを確かめ、発見した自分の強みに焦点を合わせて行動する」というのは、非常にパワフルなアプローチです。
ほとんどの人は、「自分が誰かの心を動かした場面」について詳しく尋ねることをしません。
そこには、「わざわざそんなことを聞くのは照れくさい」、あるいは「単純に気づかなかった」ということがあるのでしょう。
「心が動いた場面」について相手に質問し、ステップを踏んでいけば、自分の強みが明確になり、声がかかる人生につながっていきます。
「声がかかる」といっても、有名になるとか、お金に困らない生活をするといったことだけを指しているわけではありません。身近な人から頼りにされたり、会社の中で相談を受けたり、自分の情報発信に反応をもらえたり……。そうしたことも含めて「声がかかる」人生です。
世の中には、「こうやって成功した」というノウハウが溢れています。よくあるサクセスストーリーはドラマチックに書かれており、そのまま真似するのは難しいものも多いのではないでしょうか。
また、卓越した成果をあげた人は、得てして常ならぬ努力をしています。「このぐらい努力すればあなたも成功できる」と言われても、腰が引けてしまうかもしれません。
気が遠くなるような努力を今からしなくとも、あなたはすでに強みの「ヒント」を持っています。あとは、そのヒントに気づいて、使い方を学べばよいのです。
自身が強みとしていることは、無意識のうちにやっているため、自分ではなかなか気づくことができません。
「人生を変える一言」は、実はあなたも日常的に受け取っているのです。
本書では、あなたが「人生を変える一言」をキャッチし、仕事や人生の自由度を広げていくためのやり方をお伝えしていきます。
【目次】