その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は石田章洋さんの『 企画は、ひと言。 』です。

【文庫版まえがき】

 就職活動をする大学生に毎年、安定して人気を呼んでいるのが、企画職です。
 ひと口に企画職と言ってもさまざまな種類があり、商品やサービスを新しく作るための「商品企画」もあれば、売り上げを伸ばすための「営業企画」もあります。
 商品をどう売るかを決める「販売促進企画」もありますし、PRのための「広報企画」もあります。その企画がBtoBなのか、BtoCなのかによっても、仕事の中身は変わってくるでしょう。

 いずれにしても、企画職にはクリエイティブで華やかなイメージがあり、テレビドラマなどで、ヒロインが上司から「この企画、オマエに任せた」と言われてがんばるシーンが、よく放映されています。
 企画の仕事にやりがいがあるのは事実です。
 ただし、実際の現場では泥臭い場面も少なくないことは、すでに企画の仕事に携わっている方なら、どなたでも身に染みてわかっているはず。
 特に「企画を通すこと」「企画を実現させること」は、簡単なことではありません。
 苦労して作り上げた企画が、上司から秒殺でダメ出しされるなんて日常茶飯事。何のアイデアも浮かばず、締め切りの日が刻々と近づいてきて逃げ出したくなることだってあるはずです。

 そんな人に少しでも役立てるような本が書けないだろうか。そう考えて、2014年6月に上梓したのが、『企画は、ひと言。』(日本能率協会マネジメントセンター)という本でした。

 本書はそれを改訂、文庫化したものです。

 おかげさまで『企画は、ひと言。』は、都内の様々な書店でビジネス書の売上ランキング1位となり、Amazonの「ビジネス企画」カテゴリーにおいても、ベストセラー1位となりました。

 あれから6年。当時と比べ、あらゆるものがものすごいスピードでコモディティ化するようになったビジネスの世界では、新たな企画が求められるシーンも格段に増加しています。そこで今回、前著をベースに新たな「企画を通すための、ヒット企画をつくるための本」を出版することになりました。

 企画とは、あなたが実現させたいこと。やってみたいことです。やってみたいことを実現させたいと願うのは、何も企画職に携わる人だけに限りません。
 本編で詳しく述べますが、誰かを笑顔にすることだって、立派な企画なのです。
 あなたが、誰かを笑顔にすること。この本がその実現に少しでも役立つなら、これほどうれしいことはありません。
 初めてお読みになる方はもちろん、前著をお読みいただいた方も、どうか最後までお付き合いください。

 2020年 夏

放送作家 石田章洋

【はじめに】

アイデアを実現する、たったひとつのコツ

ダメ企画マンが30年間、放送作家を続けられた理由

 「なぜワタシの企画は通らないのだろう」
 「どうしてオレのアイデアは理解されないんだ?」

 そのような声をよく聞きます。
 なかには、
 「そもそも、企画のアイデアが浮かばない!」
と嘆く人がいるかもしれません。

 企画とは、あなたのアイデアで人を動かすこと。
 もしかしたら、自分には企画力がない、つまり人を動かすセンスがないのだ、なんて自分自身で思い込んではいませんか?
 わかります。
 なぜなら私自身がそうだったのですから。

 私はテレビ番組の放送作家を30年以上やってきましたが、駆け出しのころは企画を作ることがとにかく苦手でした。

 放送作家の仕事は、番組の構成、ナレーション原稿書きなど多岐にわたりますが、なかでも重要なのが「企画立案」です。
 新番組の企画を考えることはもちろんですが、レギュラー番組でも新陳代謝を促すため新しいコーナー企画が求められます。
 私が30年以上参加している『世界ふしぎ発見!』のように、毎回異なるテーマを扱う番組では、毎日のように企画書が飛びかっている状態です。
 そうした中で、自分で企画を通す力がないと、台本を書かせてもらえません。つまり仕事にならないのです。

 ところが、私が若手放送作家だったころは、どんな企画を立ててもまったく通らない状態が続いていました。
 「これは新しいアイデアだ!」と意気込んで提出した企画は、「こんなのできっこないだろ」と冷たく見放されてしまう。逆に「これなら実現しそうだぞ!」と考えた企画は、「こんなの他でもやっているだろう」とあきれられてしまう……。
 そんなループを繰り返すうちに、企画を考えることが嫌になってしまいました。

 それでも企画会議の日はやってきます。
 ある日、赤坂のテレビ局で行われる企画会議に出席するため、東京メトロ(当時は営団地下鉄)千代田線に乗っていました。
 ところが、赤坂駅のホームに降りることができません。企画にダメ出しされるのが怖くて足が動かなくなったのです。その電車は小田急線と相互乗り入れしていたので、結局、終点である神奈川県の本厚木駅まで行ってしまいました。
 無断で企画会議を休んだのですから、もう二度と呼ばれることはありません。

 企画が苦手な放送作家なんて、先端恐怖症で包丁が握れない料理人みたいなもの、もはや商売になりません。この先、どうやって生きていこう……。
 駅を出た私は、本厚木駅のキオスクで買ったアルバイト情報誌を手に駅前の立ち食いそば屋さんに入りました。朝から何も食べていなかったのにもかかわらず、そばが一本も喉を通りませんでした―。今も、その時の情けない気持ちを覚えています。

 結局、私は転職ではなく、企画恐怖症を克服する道を選びました。当時、新しい家族も増えていたからです。
 それに企画は苦手でも、台本を書くのは大好きでした。好きなことで生きていくためには、企画力をつけるしかなかったのです。

 以来、なけなしの貯金をはたいて、古今東西のあらゆる企画立案や発想術に関する本を購入しては読みました。
 読書の他には、脳にアルファ波を発生させて発想を豊かなものにすると謳う、怪しげなヘッドギアも買いました。
 「真っ暗な部屋で瞑想すれば潜在意識からアイデアが湧き出る」と聞けば、実行しました。それでも何も浮かばなければ、壁に後頭部を打ちつけたりもしました。

 そんなある日のこと、名だたるクリエイターの方々が書いた、十数冊にも及ぶ企画術の本に「ある共通のこと」が書かれていることに気がついたのです。
 「それ」は決して、大きく書かれているわけでも、詳しく説明されているわけでもありません。ですが、実績を残しているクリエイターの本には、ほんの2、3行ほどでも、必ず「そのこと」が書かれていました。

 「そのこと」について考え、実践してみるようになると、驚くことが起き始めました。それまで通らなかった企画が、面白いように通るようになったのです。
 やがて、自分の通した企画の台本を書かせてもらえるようになり、その番組が高視聴率を獲得するようになりました。構成台本を担当した番組が、国内外の賞を受賞したり、新番組の立ち上げに加えてもらうことも増えていきました。

 気がつけば30年以上、大好きな仕事を続けることができています。
 すべては企画を実現するための、たったひとつのコツをつかんだおかげです。

アイデアを生み出し、実現させるたったひとつのコツ

 本書は、私がつかんだ「たったひとつのコツ」について書いたものです。
 そのコツをひと言で言いましょう。
 それは「ひと言で見える」企画を作ること。
 これまでヒットした企画はすべて「ひと言で見える」ものでした。
 私はこれまで、新番組の企画はもちろん、レギュラー番組のコーナー企画まで、さまざまな企画を通してきましたが、それらはすべて「見えるひと言」を使って実現させたものなのです。

 「ひと言企画」の恐るべきパワーを体感したときのことをご紹介します。
 約25年前、フジテレビ系で放送された『英会話体操ZUIIKIN’ENGLISH』という番組を企画したときのことです。
 “Lets! ZUIIKIN’ENGLISH”というタイトルコールで始まる『英会話体操ZUIIKIN’ENGLISH』は英会話と体操を融合させた“画期的教育番組”です。すでに放送は終わりましたが、今でもYouTubeにアップされ、「英会話を題材にしたシュールな番組」として、インターネット上で話題になります。
 この番組は「これまでにない知育番組を深夜にやりたい!」という企画募集に対し、私が提出した企画ですが、会議が始まってわずか30 秒で採用が決まりました。
 その時、私が提出した企画書に書いたのも、たった「ひと言」の企画だったのです。
 この番組がオンエアされると、たちまち話題を呼び、週刊誌の取材を受けるまでになりました。
 この番組の評判は、なんと海を渡り、『アンダーソン・クーパー360°』というアメリカCNNのニュース番組でも紹介されたそうです。
 もっとも「くだらなくて笑っちゃう日本のソフト」というニュアンスだったようですが、それがこの企画の狙いでした。私たちの世界で「くだらない」は最高のほめ言葉のひとつなのです。
 世界的な話題を呼んだ(笑)、そんな番組が始まったきっかけ、それがたったひと言だったのです。

 以来、私はいつも「ひと言」で企画を通してきました。

 書籍も何冊か書くようになりましたが、出版の世界でも同じです。ひと言で言える企画は、すんなり会議を通るのです。中には企画書も作らず、口頭で「ひと言プレゼン」しただけで通った企画も少なくありません。

 マスコミの世界だけではありません。
 商品開発企画や営業企画といったビジネスの現場に必要とされる企画も、「ひと言」で実現するようになります。

 いつも分厚い企画書を苦労して作っているあなたは、「そんなことが可能なのか?」と思われるかもしれません。でも、企画はむしろ「ひと言」だからこそ実現し、ヒットするのです。

その「ひと言」が世界を変える!

 「ひと言」で企画を実現させた最高の例をご紹介しましょう。
 それこそアップルの創業者スティーブ・ジョブズが世に送りだした「iPod」です。
 これもたったひと言の企画から生まれたもの。iPodを生んだひと言は、この言葉です。

 「1000曲をポケットに」

 あなたが女性ならば、いまウェストをコルセットでギュウギュウに絞ってはいないはずです。それは孤児院で育ち、おそらく史上初の女性起業家となったひとりの女性の「ひと言」のおかげです。
 女性の名はココ・シャネル。19世紀の女性のファッションをすべて葬り去ったことから、“皆殺しの天使”と呼ばれました。彼女はこの「ひと言」で、女性の服に革命を起こしたのです。

 「着飾るためでなく、生きて働くための服」

 ココ・シャネルは、この「ひと言」で当時、上流級の女性たちのドレス・スタイルには欠かせないアイテムだったコルセットから女性を解放しただけでなく、働く女性たちのためのモードを作ることで、女性を社会進出に導きました。
 つまり、たったひと言で世界を変えてしまったのです。

 あなたが考えた企画も、もしかしたら世界を変えるものかもしれません。なにもココ・シャネルのように、全世界に革命を起こさなくてもかまいません。

 今よりも暮らしがちょっとだけ便利になる。
 今よりも少しだけ笑顔の人が増える。
 今よりも仕事がちょっとだけ楽しくなる。
 今よりも少しだけ困っている人が世の中からいなくなる。

 「カップラーメンの液体スープの小袋が開けやすくなった」でも、「ボールペンがよりなめらかに書きやすくなった」でも、「思わず人が笑顔になる笑えるグッズを作った」でもなんでもいい。ちょっとだけのことかもしれないけど、世界がよくなる。あなたが考えた企画にはそんな要素が必ずあるはずです。
 有史以来、世界はそうした一人ひとりのアイデアで、ちょっとずつよくなってきたのだろうし、これからもそうなっていくのでしょう。
 「企画を実現する」こと、それは世の中を少しでもよくしようとしてきた人類の歴史に参加することです。そして、あなたの企画で世界はまた、ちょっとだけかもしれませんが進化するのです。

【目次】

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