その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は日本経済新聞社(編)の『 第4の革命 カーボンゼロ 』です。

【まえがき】

 『第4の革命 カーボンゼロ』は、2021年1月から23年6月まで日本経済新聞に掲載した同名の連載を書籍化したものです。20年10月、菅義偉首相(当時)が温暖化ガス排出を実質ゼロにする方針を掲げたことを受け、連載は始まりました。

 新型コロナウイルス対応への批判もあって菅氏は退陣し、21年10月に岸田文雄氏が首相に就きました。気候変動問題の優先度は下がりました。22年2月にはロシアがウクライナに侵攻し、国内では「脱炭素どころではない」との主張が広がりました。

 いまこそ「なぜ日本が『カーボンゼロ』を実現するのか」を確認したいと思います。当然、地球温暖化を食い止めるのに大気中の二酸化炭素を減らさなければいけないからですが、日本の排出量は世界の3%にすぎません。「日本がゼロにしても大勢に影響がない」と考える人にどう説明すればよいでしょうか。

 米国、欧州、日本などの先進国は世界に先駆けて化石燃料を燃やして工業化を実現し、豊かになりましたが、同時に温暖化も起こしました。問題は温暖化の負の影響が原因をつくった豊かな国ではなく、アジア・アフリカなど途上国に集中的に現れることです。これが気候正義(クライメート・ジャスティス)の問題で、豊かな国は気候変動に対応する義務があるとされる根拠になっています。

 もう一つは気候変動問題を解決するにはいまある技術だけでは難しく、イノベーションが欠かせないことです。世界のイノベーションのほとんどは科学技術が発展した先進国で起こっています。気候変動は豊かな国が本気で取り組まなければとても解決できない問題なのです。

 「世界の二酸化炭素の3割は中国が排出している。日本がゼロにしても意味がない」という議論も聞きます。日本が排出ゼロを実現しなければ、中国にも排出削減を迫ることはできません。中国は人口が多く、1人あたりの排出量は先進国を下回ります。中国の排出量が多いのは、米欧日が工場を移転した結果でもあります。

 温暖化により日本でも熱波と洪水が頻発しています。国内の損害保険会社は火災保険で赤字を出し、保険料を上げています。今後、海面上昇と高潮で大都市の沿岸部でも浸水被害が広がります。ふつうの日本人が気候変動の痛みをリアルに感じる日はすぐそこまで来ています。

 我々は何をすればよいでしょうか。答えは出ています。まずは再生可能エネルギーを限界まで導入することです。そのために必要な投資は惜しまない。邪魔な規制はなくす。日本は周回遅れです。まず動くことが「カーボンゼロ」への道を拓きます。本書がはじめの一歩を後押しするきっかけになればと願っています。


 本連載のインタビューは、書籍への収録を許諾いただいた方のみ載せました。また、本文中の肩書きや為替レートなどは記事掲載時点としました。ただし、インタビューで本人から申し出があった場合、現在の肩書などに変更しています。

2023年8月  日本経済新聞社


【目次】

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